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1章
ミッション3(4)
しおりを挟む準備までに色々あったけれど、ビアンカとのお茶会は無事に開催された。お菓子はベリーがたっぷり入ったガトーショコラ、お茶にはアッサムにミルクたっぷりと。ジョシュアと相談して、二人で決めたもの。
これにはビアンカも大喜びで、嬉しそうにケーキを頬張っている。ジョシュアとはちょっとギクシャクしちゃったり、僕の氷魔法は秘密にしていたり、前途多難だったけどビアンカが喜んでくれていて本当によかった。
「珍しいですのね、アールグレイ以外のお茶を用意されるなんて」
「ジョシュアと話して決めたんだ。ビアンカが気に入ってくれてよかった」
「うふふ。すっかり仲良しさんですわね、お二人とも」
えへへ、そうかな。ビアンカから見ても僕とジョシュアって仲良しなのかな。そうだったらいいな。
でもなあ。確かに昔よりも距離が縮まっている気はするけど、まだ僕の仲良し作戦で掲げた目標は達成されていない。
ううん、どうしたらいいんだろう。
「王子殿下、少し失礼します」
「うん。どうしたの?」
「ミルクが冷めてしまったので、温め直してきます」
「わかった。ありがとね」
ミルクティーには温かいミルクを、というのがジョシュアのこだわりだ。温めすぎてもいけないらしく、こうやって冷めてしまったらすぐに温め直しに行っている。
ビアンカと二人きりというのは、ちょっと心配だけど。僕が「アッサムのミルクティーがいい!」と言ったから引き止めるわけにはいかない。
それに、今日はちょっと相談したかったからちょうどよかったかも。
「ねね、ビアンカ」
「どうされました?」
「えっと……僕の、知り合いの話、なんだけどさ」
知り合いなんていないけど。
自分の話って言い出しにくくて、思わずそんな風に言ってしまった。かつて「俺の友達の弟の話なんだけど」と周りくどい言い方をして相談しているクラスメイトの気持ちがよくわかった。
ミルクティーで唇を湿らせた後、さて、どこから話そうかと考える。
一番聞きたいのは、今の僕とジョシュアはどのくらい仲が良いのか、ってことだ。
ビアンカは僕たちを見て「仲良しさん」と言った。昔と比べたら仲はいいと思う。僕も仲良くなりたいと思って、色々な作戦をとってきた。
そのうちどれくらい効果があるかわからないし、手応えは、正直ない。
それなら今の仲良し具合は、主人に忠実で気の利く従者の枠に収まる程度なのかもしれない。だから、他人の恋愛に敏感で詳しいビアンカに聞いてみれば、何かわかるかもしれないと思ったのだ。
「えっと、まず……その人は、ぼく、じゃなくて、知り合いを庇って怪我をしちゃう」
「まあ! それはもう、捨て身の愛ですわね!」
「あと、その人は知り合いくんの髪をずっと撫でてくる」
「天然!? 天然タラシですわ!」
「ねえ、これって好きなのかなぁ」
ジョシュアが僕にしてくれたことって、多分これくらい。あとは従者としていつもしてくれていることばかりだし。でも、それは全部イレギュラーで起きたこと。
僕が考えた作戦の効果じゃないんだよな。
好きになってくれるための作戦なのに。うまくいっていないのかな。なんて、ちょっと不安になっちゃってた。
「好きですわ! それはもう、確実に! 好きですわ!」
「でもそれ、従者と主人だからって可能性も」
「主従!? なんですの最高に美味しいシチュエーションは! ああああたまりませんわ! 従者の主人に向ける思いがいつしか愛情に変わってしまいそれを必死に隠そうとするけれど主人は気づいてしまって距離を置こうとするのがまた美味なのです!」
「え? うん?」
「ノア殿下!」
「ひゃ! ひゃい!」
がしい! と強く手を握られる。ものすごい勢いだったから、机の上に置いていたティーカップがガタガタ揺れた。
こぼれなくてよかった、というか、椅子から転げ落ちなくてよかった。
「もっと詳しく聞かせていただきたいのですが!」
「詳しくって、でも、これくらいしか知らないよ」
「ああ、一体そのお二人はこれからどうなってしまうのでしょうか……! 私、楽しみすぎて夜も眠れませんわ!」
ううん、ビアンカの目から見ると、一応僕とジョシュアはちゃんと仲良しみたいだ。よかったよかった。
「王子殿下、お待たせいたしました……どうされたんですか?」
「ジョシュアああ……」
鼻息荒く僕の肩を揺さぶり続けるビアンカと、それに目をまわす僕を見て、戻ってきたジョシュアはポカンと口を開けていた。そりゃそうだよね。少し離れた間にビアンカは興奮しているんだもの。
やっと助けが来てくれた、とジョシュアの名前を呼ぶと、急いで駆けつけてくれる。
ビアンカが教えてくれたことは半分くらいわからなかったけれど、今はジョシュアが近くにいてくれるだけで十分か。名前を呼んでもらう作戦は聞けずじまいだったけど、もう少し頑張ってみよう。
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