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1章

ミッション3(1)

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 メリッサの声が聞こえたのは、ジョシュアを探して中庭を歩いている時だった。どこか切羽詰まった声色に、嫌な予感がした。
 いつも冷静で落ち着いたメリッサは、何が起きても声を荒げない。虫が出ても静かに対処するし、僕が癇癪を起こしても冷静に対応してくれていた。
 だから、こんなにも大きな声を出すなんて。
 これは何か、いつもと違うことが起きている。
「急がなきゃ……!」
 声が聞こえてきた方に向かい走り出した。

「メリッサ! どうしたの?」
「お、王子殿下!? なんでここに」
「声が聞こえたから! って、ジョシュア!?」
 メリッサの足元にはたくさんの洗濯物が散らばっていた。メリッサが慌ててジョシュアを受け止めたからだろう。ぐったりと意識を失ったジョシュアは、顔を真っ赤にして汗をたくさんかいていた。
「ジョシュアに何があったの?」
「いきなり、気持ち悪いと言って倒れてしまったんです。怪我はないようですが」
「そっか。ありがと」
 手首を取って脈を測る。少し、速い。
 それに体温が高い。体に熱がこもっているようだ。
 この症状は見たことがある。
「熱中症だ」
「なんですか、それは」
 そうだ、この世界に熱中症という名前は存在しないんだ。今でこそ夏になれば必ず聞くけれど、昔は原因不明の病気だったらしい。
 確かに今日は朝から気温が高かった。雲ひとつない晴天で、いきなり外に出て走り回っていたから熱中症になっても仕方がない。
「とにかく、体を冷やさないと……!」
 熱中症の対処は、何よりも体を冷やすことにある。水魔法で、と考えたけれど、それだと時間がかかりすぎる。もっと冷たいもので、一気に冷やしてあげないと。
 水よりも冷たいもの。
 太い血管を冷やせる、冷たいもの。
「水を、冷やす……冷たい水、凍ってしまうほどに冷たく……」
 ジョシュアの手を握り、ぎゅっと目を閉じる。流れていく水が、凍っていくことを想像して。イメージして。
 強いイメージに、そのまま魔力を流し込む。
「凍れ、グラキエース!」
 手のひらから大きな氷の塊が溢れ出た。ひんやりと冷たくて、少し触れるくらいじゃ解ける様子はない。
 太い血管のある脇の下に氷を入れたら、次は涼しい風を送る。そのためには風魔法を使わないと。まだ習ったことはないけれど、そんなこと言っていられない。
「王子殿下、いつの間に氷魔法を?」
「さあ、いつだろう。それよりも今は、ジョシュアの方が大切だよ!」
「王子殿下……」
 不安そうだったメリッサも、少し表情が明るくなる。風と、それから日差しを遮られるための木が欲しい。ここから歩いて十分くらい行くと木が生えているけれど、そこまでジョシュアを運ぶのは難しい。
 それなら、ここに生やせばいいのだ。
 僕の魔法で。
「大丈夫、僕ならできる……僕なら、できるはず……!」
 自信なんてないけど、でも、やるしかない。
 大事なジョシュアを守るためだ。
 いつまでも泣き虫で甘ったれなノアではいられないんだ。
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