35 / 67
1章
ミッション3(1)
しおりを挟む
メリッサの声が聞こえたのは、ジョシュアを探して中庭を歩いている時だった。どこか切羽詰まった声色に、嫌な予感がした。
いつも冷静で落ち着いたメリッサは、何が起きても声を荒げない。虫が出ても静かに対処するし、僕が癇癪を起こしても冷静に対応してくれていた。
だから、こんなにも大きな声を出すなんて。
これは何か、いつもと違うことが起きている。
「急がなきゃ……!」
声が聞こえてきた方に向かい走り出した。
「メリッサ! どうしたの?」
「お、王子殿下!? なんでここに」
「声が聞こえたから! って、ジョシュア!?」
メリッサの足元にはたくさんの洗濯物が散らばっていた。メリッサが慌ててジョシュアを受け止めたからだろう。ぐったりと意識を失ったジョシュアは、顔を真っ赤にして汗をたくさんかいていた。
「ジョシュアに何があったの?」
「いきなり、気持ち悪いと言って倒れてしまったんです。怪我はないようですが」
「そっか。ありがと」
手首を取って脈を測る。少し、速い。
それに体温が高い。体に熱がこもっているようだ。
この症状は見たことがある。
「熱中症だ」
「なんですか、それは」
そうだ、この世界に熱中症という名前は存在しないんだ。今でこそ夏になれば必ず聞くけれど、昔は原因不明の病気だったらしい。
確かに今日は朝から気温が高かった。雲ひとつない晴天で、いきなり外に出て走り回っていたから熱中症になっても仕方がない。
「とにかく、体を冷やさないと……!」
熱中症の対処は、何よりも体を冷やすことにある。水魔法で、と考えたけれど、それだと時間がかかりすぎる。もっと冷たいもので、一気に冷やしてあげないと。
水よりも冷たいもの。
太い血管を冷やせる、冷たいもの。
「水を、冷やす……冷たい水、凍ってしまうほどに冷たく……」
ジョシュアの手を握り、ぎゅっと目を閉じる。流れていく水が、凍っていくことを想像して。イメージして。
強いイメージに、そのまま魔力を流し込む。
「凍れ、グラキエース!」
手のひらから大きな氷の塊が溢れ出た。ひんやりと冷たくて、少し触れるくらいじゃ解ける様子はない。
太い血管のある脇の下に氷を入れたら、次は涼しい風を送る。そのためには風魔法を使わないと。まだ習ったことはないけれど、そんなこと言っていられない。
「王子殿下、いつの間に氷魔法を?」
「さあ、いつだろう。それよりも今は、ジョシュアの方が大切だよ!」
「王子殿下……」
不安そうだったメリッサも、少し表情が明るくなる。風と、それから日差しを遮られるための木が欲しい。ここから歩いて十分くらい行くと木が生えているけれど、そこまでジョシュアを運ぶのは難しい。
それなら、ここに生やせばいいのだ。
僕の魔法で。
「大丈夫、僕ならできる……僕なら、できるはず……!」
自信なんてないけど、でも、やるしかない。
大事なジョシュアを守るためだ。
いつまでも泣き虫で甘ったれなノアではいられないんだ。
いつも冷静で落ち着いたメリッサは、何が起きても声を荒げない。虫が出ても静かに対処するし、僕が癇癪を起こしても冷静に対応してくれていた。
だから、こんなにも大きな声を出すなんて。
これは何か、いつもと違うことが起きている。
「急がなきゃ……!」
声が聞こえてきた方に向かい走り出した。
「メリッサ! どうしたの?」
「お、王子殿下!? なんでここに」
「声が聞こえたから! って、ジョシュア!?」
メリッサの足元にはたくさんの洗濯物が散らばっていた。メリッサが慌ててジョシュアを受け止めたからだろう。ぐったりと意識を失ったジョシュアは、顔を真っ赤にして汗をたくさんかいていた。
「ジョシュアに何があったの?」
「いきなり、気持ち悪いと言って倒れてしまったんです。怪我はないようですが」
「そっか。ありがと」
手首を取って脈を測る。少し、速い。
それに体温が高い。体に熱がこもっているようだ。
この症状は見たことがある。
「熱中症だ」
「なんですか、それは」
そうだ、この世界に熱中症という名前は存在しないんだ。今でこそ夏になれば必ず聞くけれど、昔は原因不明の病気だったらしい。
確かに今日は朝から気温が高かった。雲ひとつない晴天で、いきなり外に出て走り回っていたから熱中症になっても仕方がない。
「とにかく、体を冷やさないと……!」
熱中症の対処は、何よりも体を冷やすことにある。水魔法で、と考えたけれど、それだと時間がかかりすぎる。もっと冷たいもので、一気に冷やしてあげないと。
水よりも冷たいもの。
太い血管を冷やせる、冷たいもの。
「水を、冷やす……冷たい水、凍ってしまうほどに冷たく……」
ジョシュアの手を握り、ぎゅっと目を閉じる。流れていく水が、凍っていくことを想像して。イメージして。
強いイメージに、そのまま魔力を流し込む。
「凍れ、グラキエース!」
手のひらから大きな氷の塊が溢れ出た。ひんやりと冷たくて、少し触れるくらいじゃ解ける様子はない。
太い血管のある脇の下に氷を入れたら、次は涼しい風を送る。そのためには風魔法を使わないと。まだ習ったことはないけれど、そんなこと言っていられない。
「王子殿下、いつの間に氷魔法を?」
「さあ、いつだろう。それよりも今は、ジョシュアの方が大切だよ!」
「王子殿下……」
不安そうだったメリッサも、少し表情が明るくなる。風と、それから日差しを遮られるための木が欲しい。ここから歩いて十分くらい行くと木が生えているけれど、そこまでジョシュアを運ぶのは難しい。
それなら、ここに生やせばいいのだ。
僕の魔法で。
「大丈夫、僕ならできる……僕なら、できるはず……!」
自信なんてないけど、でも、やるしかない。
大事なジョシュアを守るためだ。
いつまでも泣き虫で甘ったれなノアではいられないんだ。
45
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説
全力でBのLしたい攻め達 と ノンケすぎる受け
せりもも
BL
エメドラード王国第2王子サハルは、インゲレ王女ヴィットーリアに婚約を破棄されてしまう。王女の傍らには、可憐な男爵令嬢ポメリアが。晴れて悪役令息となったサハルが祖国に帰ると、兄のダレイオが即位していた。ダレイオは、愛する弟サハルを隣国のインゲレ王女と結婚させようとした父王が許せなかったから殺害し、王座を奪ったのだ。
久しぶりで祖国へ帰ったサハルだが、元婚約者のエルナが出産していた。しかも、彼の子だという。そういえばインゲレ王女との婚約が調った際に、エルナとはお別れしたのだった。しかしインゲレ王女との婚約は破棄された。再び自由の身となったサハルは、責任を取ってエルナと結婚する決意を固める。ところが、結婚式場で待ったが入り、インゲレからやってきた王子が乱入してきた。彼は姉の婚約者だったサハルに、密かに恋していたらしい。
そうこうしているうちに、兄ダレイオの子ホライヨン(サハルの甥)と、実の息子であるルーワン、二人の幼児まで、サハルに異様に懐き……。
BLですが、腐っていらっしゃらない方でも全然オッケーです!
遅くなりました! 恒例の、「歴史時代小説大賞、応援して下さってありがとうございます」企画です!
もちろん、せりももが歴史小説書いてるなんて知らなかったよ~、つか、せりももって誰? という方も、どうか是非、おいで下さいませ。
どちらさまもお楽しみ頂ければ幸いです。
表紙画像(敬称略)
[背景]イラストACふわぷか「夕日の砂漠_ラクダ」
[キャラクター]同上イラレア 「緑の剣士」
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
ツンデレ貴族さま、俺はただの平民です。
夜のトラフグ
BL
シエル・クラウザーはとある事情から、大貴族の主催するパーティーに出席していた。とはいえ歴史ある貴族や有名な豪商ばかりのパーティーは、ただの平民にすぎないシエルにとって居心地が悪い。
しかしそんなとき、ふいに視界に見覚えのある顔が見えた。
(……あれは……アステオ公子?)
シエルが通う学園の、鼻持ちならないクラスメイト。普段はシエルが学園で数少ない平民であることを馬鹿にしてくるやつだが、何だか今日は様子がおかしい。
(………具合が、悪いのか?)
見かねて手を貸したシエル。すると翌日から、その大貴族がなにかと付きまとってくるようになってーー。
魔法の得意な平民×ツンデレ貴族
※同名義でムーンライトノベルズ様でも後追い更新をしています。
攻略対象者やメインキャラクター達がモブの僕に構うせいでゲーム主人公(ユーザー)達から目の敵にされています。
慎
BL
───…ログインしました。
無機質な音声と共に目を開けると、未知なる世界… 否、何度も見たことがある乙女ゲームの世界にいた。
そもそも何故こうなったのか…。経緯は人工頭脳とそのテクノロジー技術を使った仮想現実アトラクション体感型MMORPGのV Rゲームを開発し、ユーザーに提供していたのだけど、ある日バグが起きる───。それも、ウィルスに侵されバグが起きた人工頭脳により、ゲームのユーザーが現実世界に戻れなくなった。否、人質となってしまい、会社の命運と彼らの解放を掛けてゲームを作りストーリーと設定、筋書きを熟知している僕が中からバグを見つけ対応することになったけど…
ゲームさながら主人公を楽しんでもらってるユーザーたちに変に見つかって騒がれるのも面倒だからと、ゲーム案内人を使って、モブの配役に着いたはずが・・・
『これはなかなか… 面白い方ですね。正直、悪魔が勇者とか神子とか聖女とかを狙うだなんてベタすぎてつまらないと思っていましたが、案外、貴方のほうが楽しめそうですね』
「は…!?いや、待って待って!!僕、モブだからッッそれ、主人公とかヒロインの役目!!」
本来、主人公や聖女、ヒロインを襲撃するはずの上級悪魔が… なぜに、モブの僕に構う!?そこは絡まないでくださいっっ!!
『……また、お一人なんですか?』
なぜ、人間族を毛嫌いしているエルフ族の先代魔王様と会うんですかね…!?
『ハァ、子供が… 無茶をしないでください』
なぜ、隠しキャラのあなたが目の前にいるんですか!!!っていうか、こう見えて既に成人してるんですがッ!
「…ちょっと待って!!なんか、おかしい!主人公たちはあっっち!!!僕、モブなんで…!!」
ただでさえ、コミュ症で人と関わりたくないのに、バグを見つけてサクッと直す否、倒したら終わりだと思ってたのに… 自分でも気づかないうちにメインキャラクターたちに囲われ、ユーザー否、主人公たちからは睨まれ…
「僕、モブなんだけど」
ん゙ん゙ッ!?……あれ?もしかして、バレてる!?待って待って!!!ちょっ、と…待ってッ!?僕、モブ!!主人公あっち!!!
───だけど、これはまだ… ほんの序の口に過ぎなかった。
モラトリアムは物書きライフを満喫します。
星坂 蓮夜
BL
本来のゲームでは冒頭で死亡する予定の大賢者✕元39歳コンビニアルバイトの美少年悪役令息
就職に失敗。
アルバイトしながら文字書きしていたら、気づいたら39歳だった。
自他共に認めるデブのキモオタ男の俺が目を覚ますと、鏡には美少年が映っていた。
あ、そういやトラックに跳ねられた気がする。
30年前のドット絵ゲームの固有グラなしのモブ敵、悪役貴族の息子ヴァニタス・アッシュフィールドに転生した俺。
しかし……待てよ。
悪役令息ということは、倒されるまでのモラトリアムの間は貧困とか経済的な問題とか考えずに思う存分文字書きライフを送れるのでは!?
☆
※この作品は一度中断・削除した作品ですが、再投稿して再び連載を開始します。
※この作品は小説家になろう、エブリスタ、Fujossyでも公開しています。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
────妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの高校一年生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の主人公への好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
僕はただの妖精だから執着しないで
ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜
役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。
お願いそっとしてて下さい。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
多分短編予定
この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる