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1章

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「王子殿下。ジョシュアです」
 あえていつも通りを装い、なんでもないような感じでノックをした。声をかけても返事はない。
 もう一度ノックをする。
 返事は相変わらず聞こえてこない。
(強行突破だ)
 ここで引き下がったらおそらくこのまま何も始まらない。王子殿下の部屋に行くと決めた時に、枕やクッションが飛んでくることは覚悟していた。
 意を決してドアノブを回す。
「王子殿下、入ります」
「ぴえ……っ!」
 飛んできたのは枕でもクッションでも、分厚い本でもなく。小さな泣き声だった。
「な、なんできたの!?」
「王子殿下……」
 目を真っ赤に腫らし、鼻水と涙でぐしゃぐしゃになった顔をした王子殿下がこちらを見つめていた。服は着替えていたが、これじゃあ先ほどよりずっと汚れてしまっているじゃないか。
 それに、どううしてまだこんなにも泣いているんだ。
「こないでって言ったのに!」
「何かお口に入れなければ」
「おなかすいてないもん!」
 そう大声を出した王子殿下のお腹が「きゅるる」と小さく鳴った。よかった、腹の虫は今日も元気そうだ。
 今度は顔を真っ赤にして震える王子殿下の前に、問答無用とばかりに食事を並べていく。厨房で作ったものだ。フカフカのパンに新鮮なレタスを挟む。トマトのピクルスを乗せて、柔らかいローストビーフをたっぷりと重ねた。
 最後にたっぷりのソースをかけたらお手製サンドイッチの完成だ。これならすぐに食べられるし、食材を無駄にせずすむ。
「さあ、どうぞ。温かいスープもあります」
「うう……じゅるり……」
「もし食べなければ俺が全部いただきます」
「そ、それはだめ! 僕が食べる!」
「はい、どうぞ」
 よし。作戦成功。
 機嫌の虫と腹の虫は、後者の圧倒的勝利で終わった。
 小さな口で必死にサンドイッチを頬張っている。いつしか王子殿下の涙は止まっていた。
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