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1章
3−1
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ビアンカ王女殿下とのお茶会以来、ノア王子殿下は頻繁に図書室へ向かうようになった。かつては図書室どころか本を開くことさえ嫌い、かろうじて読むのは子供用の絵本だけ。とにかくじっとしていられない性格だったはずなのに。
ここ数日、図書室に行っては何時間も本を読んでいる。
「王子殿下、お茶が入りました」
「うぇ、もうそんな時間?」
「随分と集中されていましたね」
「おもしろくて、つい読み耽っちゃった」
そう言って手にしていた本を大事そうに抱える。どうやら部屋に持ち帰って読むようだ。勉強の間や寝る前など、最近は時間があれば読書をしている。
あれほどの読書嫌いだった王子殿下が時間を忘れて読むとは。一体どんな本なんだろう。そう思って聞いてみたことはあるが、なぜか「ひ、ひみつ! 秘密だよ!」と慌てて隠された。王子殿下にとって悪影響を与える可能性がある本は置いていないため、そこまで心配する必要はないだろうが、ちょっとだけ気になってしまう。だが、無理に聞くとまた癇癪を起こされても困るため、必要以上に質問しなかった。
「ね、ジョシュア」
「なんですか?」
「えっと」
自室へと向かう途中、突然王子殿下が話しかけてきた。腕の本をギュッと握りしめ、なぜか頬を赤く染め。大きな目を震わせながらこちらを見上げてくる。
え、なに。
急にどうしたんだ。
「ジョシュア、いつもありがとね」
「は……はい?」
「だから、いつもありがと!」
「ああ、いえ。こちらこそ?」
「もー! なんでジョシュアがお礼を言うの!」
「いやいや、王子殿下こそどうしたんですか、急に」
「いいじゃんたまには!」
さいですか。それなら別にいいですけど。お礼を言われて悪い気はしないし。ただ理由はわからない上に、なぜか逆に怒られてしまったけれど。
それに、なんというか。
(胸がキュッとした……なんでだ?)
自分の心臓が前触れなくぎゅうと握り締められたように締め付けられたのだ。病気かと思ったけれど、そういうわけでもなさそうだ。俺はいたって健康だし、持病もない。
それに、王子殿下が話しかけてきてから少しおかしかったんだ。息が苦しくなって、体が熱くなって。何かを期待しているかのように気分が高揚して。
そして、王子殿下が俺の名前を呼んだ、瞬間。
胸がひどく、ひどく締め付けられた。
あれは一体なんだったんだろう。
自分の体に起きた不可思議な出来事に首を傾げつつ、ぽてぽて歩く王子殿下の半歩後ろを静かに付き従っていった。
ここ数日、図書室に行っては何時間も本を読んでいる。
「王子殿下、お茶が入りました」
「うぇ、もうそんな時間?」
「随分と集中されていましたね」
「おもしろくて、つい読み耽っちゃった」
そう言って手にしていた本を大事そうに抱える。どうやら部屋に持ち帰って読むようだ。勉強の間や寝る前など、最近は時間があれば読書をしている。
あれほどの読書嫌いだった王子殿下が時間を忘れて読むとは。一体どんな本なんだろう。そう思って聞いてみたことはあるが、なぜか「ひ、ひみつ! 秘密だよ!」と慌てて隠された。王子殿下にとって悪影響を与える可能性がある本は置いていないため、そこまで心配する必要はないだろうが、ちょっとだけ気になってしまう。だが、無理に聞くとまた癇癪を起こされても困るため、必要以上に質問しなかった。
「ね、ジョシュア」
「なんですか?」
「えっと」
自室へと向かう途中、突然王子殿下が話しかけてきた。腕の本をギュッと握りしめ、なぜか頬を赤く染め。大きな目を震わせながらこちらを見上げてくる。
え、なに。
急にどうしたんだ。
「ジョシュア、いつもありがとね」
「は……はい?」
「だから、いつもありがと!」
「ああ、いえ。こちらこそ?」
「もー! なんでジョシュアがお礼を言うの!」
「いやいや、王子殿下こそどうしたんですか、急に」
「いいじゃんたまには!」
さいですか。それなら別にいいですけど。お礼を言われて悪い気はしないし。ただ理由はわからない上に、なぜか逆に怒られてしまったけれど。
それに、なんというか。
(胸がキュッとした……なんでだ?)
自分の心臓が前触れなくぎゅうと握り締められたように締め付けられたのだ。病気かと思ったけれど、そういうわけでもなさそうだ。俺はいたって健康だし、持病もない。
それに、王子殿下が話しかけてきてから少しおかしかったんだ。息が苦しくなって、体が熱くなって。何かを期待しているかのように気分が高揚して。
そして、王子殿下が俺の名前を呼んだ、瞬間。
胸がひどく、ひどく締め付けられた。
あれは一体なんだったんだろう。
自分の体に起きた不可思議な出来事に首を傾げつつ、ぽてぽて歩く王子殿下の半歩後ろを静かに付き従っていった。
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