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1章
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ビアンカ王女殿下は、ノア王子殿下と同じ年の十歳だ。透き通るようなシルバーグレーの髪に、夏の海みたいなマリンブルーの瞳が可憐な印象を与える少女だ。その顔立ちは母親譲りで非常に端正であり、その美しさから実年齢よりも年上に見られがちである。
性格は物静か、ではあるが、少々マイペースなところがあり、熱中すると周りが見えなくなってしまう。読書や人間観察を好み、一日中ニコニコと目の前を行き交う人々を見て楽しんでいる。
そんなビアンカ殿下が、今日の午後に我が国を訪れる。定期的に開かれるお茶会に参加するためだ。響きだけ聞けばとても和やかなものであるが、実際は俺たち従者やメイドにとっては大仕事である。
テーブルに飾る花の種類から、お茶の銘柄まで。テーブルクロスも吟味しなくてはならない。帰りに持って帰ってもらうお土産も用意して、最後に王子殿下の着替えが待ち構えている。
頭の中で瞬時にやるべきことをリストアップし、優先順位をつけていく。お茶やお菓子はシェフが担当するし、花は庭師が用意するだろう。
それなら俺は、王子殿下の着替えを準備しなくては。
「今日はあったかいからな。薄手のジャケットにしておくか」
クローゼットに並べられている夏用のジャケットを思い浮かべる。この天気なら明るい色でもいいだろう。それから、今朝少し庭を歩いたらブーゲンビリアが満開だった。スカーフはあの色に合わせても悪くないな。
それからピカピカに靴を磨き上げ、アイロンをかけたシャツを着せて。最後に軽くコロンを振ったら申し分ない王子殿下が完成する。
「よし、完璧だ」
そんなことを頭の中でぐるぐる考えているうちに、メリッサと話していた転生者のことはすっかり吹き飛んでしまっていた。確証を得られない噂話よりも、目の間に待ち構える大きなイベントの方が俺にとっては重要だ。
下手したら王子殿下が癇癪を起こしてしまうかもしれない。もしそうなったら……考えただけでも恐ろしい。途端に背筋が冷たくなった。
去年の悲劇をここで再び起こすわけにはいかない。今日は、何がなんでも完璧なお茶会にしなければ。
「よし、やるか」
腕を捲り上げ、王子殿下の部屋へと早足で向かう。窓の外では満開のブーゲンビリアが青空の下で咲き誇っていた。
性格は物静か、ではあるが、少々マイペースなところがあり、熱中すると周りが見えなくなってしまう。読書や人間観察を好み、一日中ニコニコと目の前を行き交う人々を見て楽しんでいる。
そんなビアンカ殿下が、今日の午後に我が国を訪れる。定期的に開かれるお茶会に参加するためだ。響きだけ聞けばとても和やかなものであるが、実際は俺たち従者やメイドにとっては大仕事である。
テーブルに飾る花の種類から、お茶の銘柄まで。テーブルクロスも吟味しなくてはならない。帰りに持って帰ってもらうお土産も用意して、最後に王子殿下の着替えが待ち構えている。
頭の中で瞬時にやるべきことをリストアップし、優先順位をつけていく。お茶やお菓子はシェフが担当するし、花は庭師が用意するだろう。
それなら俺は、王子殿下の着替えを準備しなくては。
「今日はあったかいからな。薄手のジャケットにしておくか」
クローゼットに並べられている夏用のジャケットを思い浮かべる。この天気なら明るい色でもいいだろう。それから、今朝少し庭を歩いたらブーゲンビリアが満開だった。スカーフはあの色に合わせても悪くないな。
それからピカピカに靴を磨き上げ、アイロンをかけたシャツを着せて。最後に軽くコロンを振ったら申し分ない王子殿下が完成する。
「よし、完璧だ」
そんなことを頭の中でぐるぐる考えているうちに、メリッサと話していた転生者のことはすっかり吹き飛んでしまっていた。確証を得られない噂話よりも、目の間に待ち構える大きなイベントの方が俺にとっては重要だ。
下手したら王子殿下が癇癪を起こしてしまうかもしれない。もしそうなったら……考えただけでも恐ろしい。途端に背筋が冷たくなった。
去年の悲劇をここで再び起こすわけにはいかない。今日は、何がなんでも完璧なお茶会にしなければ。
「よし、やるか」
腕を捲り上げ、王子殿下の部屋へと早足で向かう。窓の外では満開のブーゲンビリアが青空の下で咲き誇っていた。
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