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1章

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「むあー!」
「うーん」
 王子殿下が全力の叫び声と一緒に作り出した小さな水の塊が、俺の足元でぱしゃりと跳ねた。最近の晴天続きで地面は乾いている。あっという間に吸い込まれていって、跡形もなく水は消えていった。
 どんなに「がんばる!」と言っても彼の能力が向上するわけではない。王子殿下は王家に生まれ、両親とも非常に優秀な魔術師でもある。本来であればそこまで少なくはないはずの魔力だが、日頃のサボり癖のせいで上手に使う方法を学べていなかった。
 生まれつきの魔力属性は水と雷で、うまく組み合わせれば最強と言われるのだが。
「つかれたー……」
「まだ早いですよ」
「ふへえ」
 基本中の基本、水の塊を生み出すことにさえかなりの体力を使ってしまっている。
「少し休憩しますか?」
「まだ! ぼく、まだがんばれるよ!」
「それじゃあ今日はもう少し水魔法を続けましょう」
「うぃ」
 王子殿下は雷魔法よりも水魔法の方が得意だ。雷魔法は体質的に雷を溜め込みやすいから発動できるが、微細な魔力調整ができないと逆に危険になる。その分、彼の魔力にメインで流れている水魔法であれば多少大雑把に使っても問題がない。
 今日のところはまず決められた場所に水を撒くことを目標としよう。
「俺が先にやってみます。よく見て、真似してみてください」
「わかった!」
「いきますよ」
 へその少し下、丹田と呼ばれる場所に気を集中させる。ここが魔力を生み出す場所だ。そっと目を閉じてイメージする。
 水、水の流れ。俺の中に流れる水が塊となって溢れてくる。髪の先から指の先まで魔力が行き渡り、空気中にある微細な魔力までも引き込んで。
「プルーヴィア、降り注げ!」
「うわぁ!」
 空気中の水分が一気に凝縮する。俺の詠唱を合図に弾け飛んで、あっという間に俺と王子殿下の間に雨が降り注いだ。
 これが水魔法、基本中の基本である「プルーヴィア」だ。
「すごいー! やっぱりジョシュアはすごいね!」
「いや、これ初歩の魔法ですけど」
「でもメインは水魔法じゃないんでしょ? なのにこんな簡単に、すごいよー!」
「あ、ありがとうございます」
 ううん、こんな簡単なことでここまで手放しに褒められるとなんだか気恥ずかしい。だってこれくらいの魔法は下町の平民でも使っている。
 特に畑仕事をする人はプルーヴィアを使わないと非常に苦労をするのだ。俺の妹も最初に使えるようになった魔法だし、これができないとかなりのポンコツということになるのだが。
「ぼくもできるようになる!」
「はい、がんばりましょう」
 どうしよう、俺の王子はポンコツなのかもしれない。あまり認めたくないが。いやでもポテンシャルは高いんだ。努力次第で変わるかもしれない。
 この十年間、サボりにサボりまくったツケを払う必要はあるけれど、それは俺の工夫次第。
「頑張りましょう、王子殿下」
「おー!」
 ふくふくの手を突き上げる王子殿下は、やっぱり以前とはどこか違う、何か思慮深さのようなものが滲み出ていた。

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