3 / 3
諏訪
しおりを挟む*諏訪side**
特定の女を作らない、誰でも簡単に抱いちゃう皆の諏訪くん。それが周りの俺への認知らしい。
否定はしない。抱いてと言われりゃ誰でも抱くし、なにも言わずに金を払う年上の女までいる始末。そのうち夜道で背中でも刺されて死ぬかもな、俺。
「んっ、あぁ……っ!」
「声でけーよ、誰かに見つかってもいーわけ?」
「だっ、てぇ……っ!」
むっちりした女教員が望むがまま抱いたあと、欠伸交じりに帰路につく俺の耳に届いたのは、ここ最近少しばかり気に入っていた女の声。なにが気に入っていたかと言えば、尻の形と淫乱なところ。
だからまぁ、そんな淫乱女がどこで誰を咥えこもうと正直どうでもいい。まぁ一生抱くことはないだろうけれど。
ただこのときの俺は、なんとなーくイラついて、生臭い声で喘ぐ女がいるだろう空き教室の扉を開けてみた。
「きゃっ!? ……え、あ、嘘、す、諏訪……くん……?」
「だから声でけーって言ったじゃん」
予想するまでもなくまぐわっていた男女は両方とも見覚えがあった。女の方はセフレの一人、男の方はなにかと話題に持ち上げられる浜津という野郎だった。
浜津はこの状況にも物怖じせず、自分の上で先ほどまで腰を振っていた女を退け、乱れた服を直しながらこちらへ歩いてくる。
「言っとくけど誘ってきたのはあっちだから。じゃーね、皆の諏訪くん」
俺もそうだが、こいつもいつか背中から刺されて死ぬんじゃねーか?
などと他人の心配をする振りは止めて、ガタガタ震えるセフレの元へ歩み寄る。女の顔は涙に濡れているが、俺の顔は今そんなに怖いのだろうか。
「そんなに好きなら今度回してやるよ。嬉しいだろ?」
なんて。思ってもいないし、端からやる気もない嘘をつく。女は更に震えていたが、もうどうでもいいよ、お前。
そんなセフレを置き去りにして、今度こそ帰路につく。しかし途中で見つけた浜津の姿につい視線が向いた。
「理由考えたほうがいいんじゃね? 正直、気持ち悪いよ、お前」
一体どういう状況なのか全くもって分からないが、浜津は菓子パンの山に埋もれた生徒に笑顔でそう告げていた。相手は驚いた顔をしているが無理もない。つーか俺だったら殴るわ。
しかし相手はあろうことか微笑み、
「ところで貴方は誰ですか?」
などと言ってのけたのだ。
正直怒っていたわけでもないし、寝取られた悔しさがあったわけでもない。持ち合わせることもないプライドが傷ついたわけでもないし、ただ、本当はイラついていた。
そんな俺のイラつきが一瞬で消え去る。今すぐあの菓子パンの山に埋もれ、平然と食べ続ける生徒にジュースの一つでもおごってやりたい。
と、そんなことを思ったりもしたが、帰って女の数人抱いたらそんなこともすっかり忘れていたのもまた、事実である。
俺と浜津はよく比較された。
系統は違えどイケメンの類。女に苦労せず、勉強も運動もそこそこできる。
ただ俺が下半身に緩いのに対し、浜津は性悪だからこそ意外にもしたたかだった。
だからそんな浜津が菓子パンの山に埋もれた生徒、古滝に構うようになるのを見てこれはチャンスだと思った。
もし古滝が俺のほうを慕ったら浜津はどう思うだろう? 悔しいに決まってる。
そんなくだらねー理由で、俺は古滝に近づいたのであった。
「帰んなくていいのか? あいつ、めちゃくちゃお前のこと探してんぞ」
「いいんです。今ここで奴に見つかれば地獄を見るのは俺です」
ある日の放課後、空き教室にて隠れていた(実際は隠れていたとは言えないが)古滝を見つけ、俺は話しかける。
廊下の向こうで古滝を探す浜津の声が響いていたが、なぜか唇が真っ赤に染まった古滝は頑なに拒んでいるので便乗しておこう。
「お前よく浜津とつるめるな、俺あいつだけはぜってー無理」
「? 浜津の知り合いですか?」
「いや? 全然?」
「そうですか、失礼しました。なら忠告しておきます。浜津は時々悪魔になるので要注意ですよ」
なんだこいつ、浜津が腹黒いことをちゃんと分かってんのか。その上でつるんでんのか。すげーな。
「ご忠告どうもありがとう。つかその口、どーした?」
「語るのも恐ろしいのですが、キレた浜津は悪魔なのです。悪魔は俺が辛い物を苦手としていることを知ったうえで、まさかの激辛煎餅をくれやがったのです」
「へー、そーなの」
なのに素直に食べたの、お前。馬鹿じゃん?
とは口に出さず、隣で唇にひーひー言っている古滝を眺める。どこにでもいる普通な男子高生。ただ見かけるたび、いつもなにをか食べている。くせに、すげー細い。
「なぁ、付き合ってほしーんだけど」
「? いいですよ?」
あえてどうとでも取れる曖昧な問いをした。すると目の前の馬鹿はやはり別の意味に捉えたのか、少し首を傾げて了承する。馬鹿だなコイツ。
そんな古滝にただ微笑み、すでに空き教室の前まで来ていた浜津に見つかるその前に、俺は窓からさっさと逃げた。
別に古滝がどう解釈しようがどうでもいい。ただ、付き合ってと言った俺に承諾した事実さえあればいい。あとは適当に言いふらして、それが浜津の耳に届けば俺のイラつきも少しは和らぐことだろう。
事実、俺を呼びだした浜津を前にしたとき、心底可笑しかった。
しばらく続けてやろうとたびたび古滝を呼び出すこともした。律儀にのこのこ着いてくる古滝は救いようもない馬鹿だが、餌付けのたびにご満悦な表情を見せているので良しとしよう。
「ほれ、あーん」
「あー」
ぱくり。もぐもぐ。今日も今日とて餌付けの時間。自分の甲斐甲斐しい一面に反吐が出そうだが、なんでも喜んで食べる辺り、やはり古滝はどうしようもないほど馬鹿らしい。
しかしつくづく思うのだが、コイツ、細すぎやしねーか?
「古滝、ちょっと両手挙げてみ」
「?」
素直に両手を挙げる古滝。馬鹿だ。
とは言わずに脇腹を手で掴む。あれだけの量が一体どこに消えているのか疑わずにはいられないほど、古滝の体は細かった。
下から徐々に上へと手を滑らせる。くすぐったそうに体をよじる古滝につい、思わず気がついたら、俺は古滝を抱きしめていた。
「……ほっそ……」
「太らない体質らしいです」
「あ、そー……」
それ聞いたら一部の女子が騒ぎそうだな。しかし抱き心地いいな、コイツ。細いからすっぽり収まるし、こう力を込めるとぴったり体がくっつくのがたまら……いや、何してんだ俺。
平静を装い離れたが、古滝は古滝で気にも留めていない顔をしていた。
このときの俺は欲求不満なのだろうと思い込んだ。思い込んで、それから古滝とは少し距離を取った。空いた時間で女を抱いた。両腕で抱きしめてもみた。なのに頭をよぎるのは、あの大ぐらいの細い馬鹿の華奢で今にも折れそうな体。
抱くのなら、少しくらいふくよかなほうが抱き心地がいいことを知っているのに、忘れられない細い細い、古滝の体。
悶々としながら過ごすある日。俺は目の前の光景に動揺が隠せずにいた。
古滝が、浜津とキスをしていたのだ。いや、実際はしていないのだと思う。角度的にそう見えただけ。腕に絡まる女も同じように見えたのか、ニヤニヤと心底嫌らしい笑みを浮かべている。
なのに、俺は古滝に声をかけていた。普段の自分からは想像もできないほどひ弱になっていた。言質を取っただけの付き合いだろうとなんだろうと、古滝は自分の恋人なのだと慢心していた。古滝は、俺の名前すら憶えていなかったと言うのに。
「古滝、あーん」
「あー」
「うぜー、お前マジでうぜー」
男同士などクソだと今でも思う。だけどとりあえず、餌付けをつづける俺を心底嫌う浜津よりは、古滝に俺を見ていて欲しい。
23
お気に入りに追加
20
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。
薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。
アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。
そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!!
え?
僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!?
※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。
色んな国の言葉をMIXさせています。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。
平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。
家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。
愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。
天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します
バナナ男さん
BL
享年59歳、ハッピーエンドで人生の幕を閉じた大樹は、生前の善行から神様の幹部候補に選ばれたがそれを断りあの世に行く事を望んだ。
しかし自分の人生を変えてくれた「アルバード英雄記」がこれから起こる未来を綴った予言書であった事を知り、その本の主人公である呪われた英雄<レオンハルト>を助けたいと望むも、運命を変えることはできないときっぱり告げられてしまう。
しかしそれでも自分なりのハッピーエンドを目指すと誓い転生ーーーしかし平凡の代名詞である大樹が転生したのは平凡な平民ではなく・・?
少年マンガとBLの半々の作品が読みたくてコツコツ書いていたら物凄い量になってしまったため投稿してみることにしました。
(後に)美形の英雄 ✕ (中身おじいちゃん)平凡、攻ヤンデレ注意です。
文章を書くことに関して素人ですので、変な言い回しや文章はソッと目を滑らして頂けると幸いです。
また歴史的な知識や出てくる施設などの設定も作者の無知ゆえの全てファンタジーのものだと思って下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
めっちゃ好きです‼️
是非続きお願いしますm(__)m
良いと思います👍