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モデル 2
しおりを挟む今、夢を見ている。寝ていながらそう思う瞬間がある。
まさに俺はそれだった。
あのあと仁さんと違う話もして、眠くなった俺に彼が「寝ろ」と言ってくれて。
そう、確か雄樹とは少し離れた場所に横になったんだ。
で、それから夢を見ていた。
「ったく、なんでお前も来るんだよ」
「いいじゃん、いいじゃん。つーか仁さぁ、さりげなく雄樹くんに膝枕すんの止めてくんね? キモイ」
「うっせぇ。堂々と近親相姦してるてめぇには言われたくねぇよ」
「ひっどー。ちょ、豹牙聞いた? 怒れ怒れ」
「はいはい」
ドンッ。なにかが頭にぶつかった。
痛いわけではないが、少しだけ不愉快で身をよじる。
すると頭に手を乗せられ、撫でられた。
気持ちいい。今度は身を寄せる。
「お、近親相姦? 近親相姦しちゃう? しちゃうの玲央?」
「一緒にすんな」
「えー、でもお前、そういう背徳的なの、好きでしょ?」
「好きじゃねぇよ」
なにかが鼻をかすめる。とても安らぐ香りだ。
「うわー、じゃあ俺、玲央が小虎くん襲うのに十万かける」
「最低だな、お前は」
「はぁ? それ仁のことじゃん。ヤキモチ焼いて雄樹くん犯すとか……はっ」
「……腹立つ」
ガツンッ。なにかが音を立てる。その正体は分からない。
「おい、玲央」
「あ?」
「隆二どうしたんだよ」
「あぁ、泉のとこだろ」
「泉さんの? なんで」
「俺が泉と別れたからじゃねぇの」
「はあ? 別れたぁ?」
髪の間をなにかが通っていった。さらさらと、毛先が落ちていく音が聞こえた気がする。
「なんで、また急に」
「さぁな」
「……どうせ小虎のためだろ?」
「うぜぇ」
「マジかよ。ははっ、本当、お前いつからそんな弟思いになったわけ?」
「はぁ?」
「おー、怖い怖い。で? その大好きな弟くん、これからどうするわけ」
「どうって、なにがだよ」
「だから、巻き込む気かって聞いてんだよ」
「もう巻き込まれてんじゃねぇか」
ぐり。頭皮を押された。身をよじればまた、頭を撫でられる。
「まぁ、それは違いねぇけどよ、あちらさんも結構えぐいことしてるから、弟思いの玲央は心配でたまらねぇんじゃね-のかと」
「豹牙、てめぇ最近生意気なんだよ、また昔みてぇに気ぃ失うまで躾けてやろうか?」
「はっ、冗談。躾なら小虎にしてやれ」
「あぁ? 俺はもう、こいつのことは殴らねぇよ」
「……ぶふっ」
「なに笑ってんだてめぇ……」
毛先まで指で挟んでいたそれが、そっと頬を撫でる。
夏の湿った空気のせいか、どこか汗ばんでいた。
「あー、わりぃわりぃ。で、話戻すけどよ、なんで泉さんと別れたんだよ」
「戻りすぎだろ」
「んで?」
「っとにてめぇら兄弟は人の話聞かねぇよな、腹立つ」
「ありがとよ、で?」
「……チッ……潮時だと思ったんだよ。泉も隆二もそろそろ素直になりゃあいい。そう思っただけだ」
「へぇー、で、本音は?」
「……はぁ……。あのな、その二重人格どうにかしろよ、てめぇ」
頬に触れていた指がするすると移動した。顎を伝い、首を通り、鎖骨を撫で、肩口までやってくる。
ピリッ。痛みが走って意識が揺らぐ。
「……んっ、れ……お」
「あ?」
指が離れた。代わりに手のひらが頬を覆う。熱く、大きな手。
「……寝言か」
「なぁ、男同士のヤリかた教えてやろうか?」
「知ってるからいらねぇよ」
「知ってんの? うわ、用意周到」
「はぁ? てめぇと司の現場を何回見せられてっと思ってんだ。嫌でも覚えるに決まってんだろうが」
「はははっ」
ペチッ。頬が叩かれる。顔をしかめるが、また叩かれた。
「おい、起きろ」
「ん、んー……?」
「寝ぼけてんじゃねぇよ。もう帰るぞ」
「……れ、お……?」
どこか暗い場所から意識を無理に戻される。瞼ごしに見える照明の強い光に目を強く閉じれば、頬を叩かれた。
それが嫌でまた目を強く閉じる。
「ったく、どいつもこいつもしかたねぇな」
「お前が言っても説得力ねぇだろ」
「うっせぇよ。おい豹牙、さっきの話だけどよ、当分手は出すな」
「……見てろってか?」
「あぁ、そうだ。もう巻き込まれてんだから今はなにしたって同じだ。泳がせる」
「……未然に防げるぜ、今なら」
「防いだところで納得しねぇだろうが、こいつが。だから見てやろうじゃねぇか、この馬鹿が一体なにするのかをよ」
「……はっ、ひっでぇ兄貴」
「今更だろ」
急に体が浮いた気がした。腕がぶらんと空中に舞う。
体全体に伝わる温度に顔を寄せれば、ちくちくとしたなにかに当たった。
「あ? もう帰んのか?」
「この馬鹿が起きねぇからな。今日はありがとよ、こいつの代わりに礼を言う」
「……お前の口から感謝が出るとはな」
「はっ、うっぜ」
ゆらり。ゆらり。気持ちのいい浮遊感が体を覆う。
だけど少し揺れて止まってしまえば、なんだか面白くない。
「……豹牙、一つ言い忘れてたけどよ」
「あん?」
横から頬に風があたる。向きが変わったのだろうか。
「こいつが強いってのは他の誰でもねぇ、俺が知ってんだよ。だから二度と知った風な口を聞くな」
「…………了解、総長さん」
「はっ、」
ぐらり、ゆらり。また浮遊感が戻ってきた。
安心して身を委ねれば、深い眠りが囁くように俺を夢の中へ誘った。
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