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向日葵の咲く頃

向日葵の咲く頃⑥

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私は我慢した。

焦がれる自分を。

無い物ねだりする自分を。

抑えて抑えて段々と苦しくなる。

吐きたくなるような狂おしさ。

いつまでも抑えられそうになかった。

彼女に……桜木さんに……嫉妬する自分を。



「で、次のこれは――」

「あ、分かった。これをこうして、この式の答えをこの公式に当てはめて使って……できた!どうかな?」

「……うん、正解よ」

教えることは直ぐに覚え、学習スピードについては数日するとすぐに追いついてしまった。

そして、私の想定とは違う導き方を示して、正解に辿り着いてくる。

「えへへ~」

鼻の下を擦りながらドヤ顔をする桜木さんに私の心は荒い紙やすりで擦られてるようにザラザラしながらも、何とか笑みを返した。


朗読劇の練習でも、彼女はすっかり人の輪の中心的な存在となっていった。

谷染たにぞめ先輩達と並んで、見た目も華があるから、当然かもしれない。

でも…………。

「あ、桜木さん、ちょっとこっちで一緒にやってもらっても良い?」

「あ、はーい。ね、葵ちゃんも行こっ?」

すっかり、私は彼女の付き人みたいになっていて、なんだか……なんだか……。

「……~~いい加減にして!!」

それは唐突に爆発してしまった。

袖を掴んでいた彼女の手を振り払って叫んだ。

朗読劇の練習でガヤガヤとしていた教室は一瞬にしてシンッ……と静まり返った。

「……あ、葵ちゃん?」

桜木さんが伺うようにこちらを見る。

「…………っ!」

ヒソヒソと周りの声が耳の中を這いずり回るように入ってくる。

耳を塞いで私は教室を抜け出した。

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

心の中で、こんな事するつもりはなかったと謝りながら私はどこに行くわけでも無く、がむしゃらに逃げた。

そう、逃げ出したの。


私は結局の所、あの頃から何も変われていない。

私は周りからもチヤホヤされ、自分は天才な部類だと思っていたのに、特にお母様譲りの美術のセンスは誰にも負けないと思ってたのに、その鼻っ柱をへし折られた。

向日葵畑で1人かくれんぼをしていた、あの子、蓮乃に。

蓮乃は私が1番欲しかった言葉を1番欲しかった人からもらった。

私には、私がいくら頑張ってコンクールに入賞しても、どれだけ心血注いだ作品を仕上げても、その言葉をくれなかった。

お父様からはいつも頑張ったで賞ばかり。

ファッションブランド、サニーフラワーのデザインを勤めるお母様には至ってはロクに言葉もくれない。

なのに蓮乃は、初めて描いた作品で、周りの度肝を抜いた。

素晴らしい。

天才じゃないか。

センスがずば抜けてる。

お母様も、素敵ね、と思わず声を漏らす。

私はそれから我武者羅に一心不乱に考えて頑張って蓮乃の絵に近付けるように努力した。

だけど、お母様はついには溜息吐くばかり。

その溜息を聞く度に私の足元にはヒビが入っていき、やがて崩れて私を私たらしめていたものは深く暗闇に落ちていった。

……だから諦めるしか無かった。

筆を折り、今まで描いた絵を切り裂き、破り捨て、絵の具もキャンバスも全部捨てた。

両親も何も言わなかった。

蓮乃からの連絡も全て無視した。

そして私は家族からも蓮乃からも逃げるように、中学から全寮制の桜京学園に入学することにして、仕切り直すことを自分に誓った。

それからやっと立ち直って、気にせず頑張ろうと、せめて会社は継げるようにしようと決めたのに。

決めたのにな……。

ここまで、上手くいってたのにな……。
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