上 下
12 / 21
向日葵の蕾の頃

向日葵の蕾の頃⑫

しおりを挟む
まだ小学生の頃のある夏の日。

実家にある、自分より背の高い向日葵が太陽を見上げる中で私はうずくまって隠れんぼをしてた。

一人で。

「ねぇ、何してるの?」

そんな私を見つけてくれたのが、葵ちゃん。

「隠れんぼ」

「隠れんぼ?他に誰もいなさそうだけど」

「だって、私だけだもん」

「どういうこと?」

「誰も、私と遊んでくれる子なんていない」

「ふーん、変な子。あなたよね、蓮乃って。私は葵、 日向菊 葵ひなぎく あおい。あなたの再従姉妹よ」

「はとこ?」

「まぁ、親戚ってこと」

「しんせき?」

「……うーん」

葵ちゃんはおでこにシワを寄せて難しい顔をする。

「血の繋がりはあるけど、遠い家族、みたいなもの……かしら?」

「ふーん。分かった、ひなぎくさん」

その時の私は全然よく分かんなかったけど、とりあえず分かったフリをした。

めんどくさかったから。

「分かってないでしょ!」

すぐにバレたけど。

それから、と私の鼻に指を突きつけて、

「それに、私のことは葵ちゃんって呼んで!」

「ん、分かった。よろしく、あおいちゃん」

「うん、よろしく。水上(みなかみ)……えーっと、そういえば、あなたの名前は?」

「蓮乃」

「そ、よろしくね、蓮乃」

太陽のように笑う葵ちゃんを私は周りに咲く向日葵のように見上げ返して、眩しくて目を細めた。


クスクスと蓮乃はペンを走らせながら思い出し笑いをしていた。

当時を懐かしむように、楽しそうに、幸せそうに。

見てるこちらもほっこりする。

「それから、葵ちゃんは私の家によく来てくれるようになった」

「幼馴染って感じ?」

「そう」

「いいね。でも――」

一つだけすごく気になってることがあった。

「なんで……一人で隠れんぼ?」

「うーん……誰かに見つけて欲しかったのかも……?」

「そ、そう……」

うーん、蓮乃の感性にまともに付き合ってもしょうがないか。

「うん、だけど、そのころの私は何も分かって――……」

「ん?」

急に表情はいつも通りの真顔になって、声は小さくなった。

「今、なんて言ったの?」

「なんでもない。はい、終わったからもういいよ」

「えー……」

じっとしててちょっと固まった体を解す。

蓮乃はすでに集中モードになったみたいで、さっきまでとは違ってすごい勢いでペンと手を動かしていた。

もうなんて言ってたかは答えてくれそうにない。

「さ~てと」

しょうがない。

ボクも手持ち無沙汰になったし、朗読劇の話でも読んでおこうかな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

沈慶之の三国論破

荒木免成
歴史・時代
 中国南北朝時代における宋の国の武将である沈慶之《ちんけいし》が三国志を話題にした皇帝やその取り巻きらを痛烈に批判する。

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

世界1番の射撃を持っている僕がもしも異世界で冒険者をしたなら

テッツーツー
ファンタジー
元陸上自衛隊 普通科連隊に所属して居たが訓練中の事故によって殉職してしまうが、その時同時に現代とは違う世界に転生させられてしまう だが、その時持ち込んだ狙撃銃と元々の運動神経でその世界を生き抜いて行く

ロマンドール

たらこ飴
現代文学
  何も怖がることはない、ただ真っ直ぐに生きてさえいればーー。 スペインとイギリスのクォーターであるリオは、ロンドンで女優の仕事をしている。祖父のパウロとチャップリンを敬愛する彼女は、恋愛に対して淡白で冷めた価値観を持っているために恋人との関係が長続きしない。また、女優には致命的な無表情であるという問題も抱えていた。だがそれには実は大きな理由があった。      リオはある日、次世代アイコンと称される大人気シンガーソングライターのUmiと出会う。人生や人に失望し、恋愛に対して淡白という部分で意気投合した2人は、名前のない関係性の中で通じ合っていく。    そんな時リオは祖父の友人のチャドから、自分が監督をする自主制作の映画に出ないかと誘いを受ける。    出演を決めた彼女は共演者やスタッフたちと充実した日々を送っていたが、周りで人種問題を想起させる事件が頻繁に起こるようになり、社会や自分自身と向き合っていく。    世の中の理不尽さや人間の汚さに翻弄されながらも、リオは周りの個性豊かな人間たちとの触れ合いの中で救われ、同時に変化・成長していく。      生きることに不器用ながらも、ユーモアと静かな優しさを持って前を向こうとする1人の少女の物語。   ※ この作品はフィクションです。暴力行為、犯罪行為を助長する意図は一切ありません。 ※人種差別、LGBT、いじめ、銃に関する描写が出てきますが、いじめや差別、犯罪行為を助長する目的でなく、問題提起をする意図の表現となりますのでご理解のほどよろしくお願いします。

散る華

祐哉
現代文学
超短編。 大切な人を失った主人公の言葉。

不吉な部屋

一花カナウ
ホラー
不吉な部屋があるというホテルにて配信中。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

処理中です...