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向日葵の蕾の頃

向日葵の蕾の頃④

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食堂では一緒に食べながら普通に近況を聞かれた。

寮の生活は慣れましたか?

勉強は慣れましたか?

分からないところとかいつでも聞きますよ。

目の前に座ってるのは、補習受けてたボクのことを小馬鹿にもからかったりなんかもしない、丁寧な口調で話す理想的な優しい上級生の姿をした舞だった。

相槌をうつボクの笑顔引きつってたりしてないかな。

こっちは作りすぎて既に頬が痛い。

やっと舞と話してるのに、舞と話してる気がしなくて楽しめなかった。

違和感は胸の中で砂時計のように降り積もるばかり。

「お、珍しい組み合わせだね」

食べ始めてからしばらくして、頭の上から滑舌良く、少しハスキーだけどよく通る声が聞こえた。

「ん?」

「あ、楓先輩、ごきげんよう」

「ごきげんよう、桜木会長」

み、見えない。

上を見上げるとご立派な丘があって、顔は見えなかった。

だけど、このスタイルと声はあの谷染 楓たにぞめ かえで先輩だろう。舞も呼んでたし。

あと、周りの色めき立ちようから、間違いない。

「楓先輩もお昼ですか?」

見上げるの疲れたからとりあえず首は下げて、横を向き、楓先輩のジャージのお腹に話しかける。

「おや、咲弥姫の声がするけど、先程まで見えていた姿が消えてしまった!流石だな……」

舞は一瞬吹き出しかけたけど、咳き込んだフリをした。

姫なんて呼ばれるボクがおかしかったんだろう。

そんな柄じゃないのくらい分かってるよ!

「下ですよ、下。あと、姫はやめて下さい」

「アッハッハ、いやー、すまないすまない」

そう言って楓先輩はボクの隣にトレイを置いて腰掛けた。

ちなみによく楓先輩はボクの背がちょうど良いのか、さっきみたいによくボクを胸の下に置く位置に立つ。

たまに胸置きにされてる時もあるけど。

「隣良いかな?一緒に食べても良いよね?いただきます。あ、今日の定食は当たりだね。うん、美味しい」

いや、もう座ってるし食べ始めてるし。

まるで流れるように。

「あ、はい、どうぞ」

「おや、咲弥は不満かい?」

「いえ、そんなことないですよ」

先輩が来たことで違和感による気まずさというか、何かが和らいだ。

さすが演劇部の2枚看板女優の一人、男装の麗人、場を持っていく力は凄い。

「お二人はお知り合いなんですか?」

舞は共通点の見い出せない奇妙な関係のボクと楓先輩を交互に見る。

まぁ、普通に考えたら話すことすら無いと思う。

いや、取り巻きが凄くてそもそも近づくことも出来ないかもだけど。

「彼女が入学してきた時に運命的な出会いをしたんだよ」

「寮の部屋が同じなだけです」

「それこそ運命じゃないか」

「はいはい」

そう言われればそうだけどさ。

「なんだ、この私と一緒になれて嬉しいだろう?」

顎を片手でクイッとされる。

周りがザワザワとし始める。

「いえ、特には」

食べてる最中なんで、と先輩の手をどかす。

「ちょ、サクーー……ん?あれ?えっと……?咲弥さん……?先輩にはもっと敬意を払うべきですよ」

舞はボクをなんて呼べば良いのか分からなくなってるし。

「アッハッハ、良いんだよ、桜木会長。こんな咲弥だから私も気に入ってるんで」

頭をポンポンしないでよ、食べにくい。

舞を困らせるみたいなので目だけで抗議する。

もちろん、楓先輩はこちらを見てすらいない。

「ですが……」

「学校の規律を重んじる立場から、そう言わざるを得ないのは仕方ない。だけど、こういう子も可愛いじゃないか」

「……そうですね」

舞はふっと力を抜いた笑顔をやっと見せてくれた。

「ファンの子達とは違う接し方だから、私も気が楽だよ」

「……楓先輩の演技、一応好きですけど」

「キューン……!」

「うわっ、ちょ、っぷ……」

楓先輩に急に抱きしめられて、その豊満な胸に押し潰されて苦しい。

そして、助けを求めようと舞を見たら何でだか視線が怖くなってた。

いや、見てないで助けてよー!

「楓ったら、また~。咲弥ちゃん苦しがってるわよ」

「おっと、ごめんごめん」

「ぷはっ」

謝る気待ち皆無だよね。

やっと解放されて呼吸を落ち着ける。

落ち着いてたのにまた周りがざわつき出してるし。

「会長さん、隣良いですか?」

「どうぞ、もみじ先輩」

じゃあ、失礼して、と優雅に舞の横に腰を下ろすのは楓先輩と双子で演劇部の二枚看板のもう片方、麗しの姫君、椛先輩。

なんか、テーブルが一気に華やかになった。

美形に囲まれてボクは何だか完全にアウェーな感じ。

舞も日本人離れした容姿だから、この二人とも凄く絵になるから良いよねー。

周りの嫉妬の視線もこの楓先輩と椛先輩の二人が揃うことによって同席してる事を憐れんだ視線が多くなる。

あまりそう言う自分の事を気にしない性格で良かったと心から思う。

普通なら比べられると思って、直ぐに席を立つだろう。

近くにいた人達ですら、急いで食べて席を立ち始める。

ボクは気を取り直して三人の会話を聞きながら食事を再開した。

ん?そう言えば、

「会長と楓先輩達って仲良いんですね」

「えぇ、去年会長さんに舞台にご協力して頂いたのよ」

「椛先輩、恥ずかしいのでその話はここでは……!」

「何でだい?素晴らしい演技だったよ」

へぇー。

この二人にここまで言わせるんだから、相当だったんだろう。

「先輩方にそう言って頂けるのはとても嬉しいのですが……あの……」

「ボクも聞きたいです」

とても笑顔で言ってみた。

「さ、咲弥く……さん……聞いても面白くないと思いますよ……!?」

あ、笑顔が引き攣ってる。

「桜木会長、ダメ……ですか?」

上目遣いに攻めてみる。

「うっ……」 

そのまま見つめる。

「っ……」

見つめる。

「あ、わ、ワタシもう行かないとでした。このお話はまた今度に……」

あ、逃げた。

トレイを持っていそいそと席を離れていく舞の背中にどうして隠すのさ、と視線で問いかけてももちろん答えなど返ってこなかった。
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