91 / 101
創生の杖
18 孫、実力の一端を見せつけられる!
しおりを挟む
『さあ!いよいよ本日が武術大会最終日!本日の試合は二グループの勝ち抜き及び、勝ち抜いた者二人による決勝の三試合!午前にグループ勝ち抜きを決め、午後の休憩を挟んだ後に決勝となります!そして、本日のスペシャルゲストはこの方!』
『カスミです!よろしくお願いします!』
『はい!皆さんご存知、女性の部優勝者のカスミさんに来て頂きました!』
なんていう、拡張器から聞こえる声を聞きながら、俺を含めた四人の選手が控室にて自分の装備の最終チェックを行っていた。
無論、スズキソウタもいる。
彼は見たこともない剣のような物を腰から抜くと綿のような物でポンポンと小気味いいリズムで剣の刃の部分を叩いている。
「グレイブ、調子はどうだ?」
「バスク兄さんこそ」
「俺か?俺なら文句なく絶好調だな。今ならお爺ちゃんにも勝てそうだ!なっはっはっは」
いくら本人が居ないからって、余りにもの自信過剰なバスク兄さんの発言に、俺の頬が引き攣るのを堪えながらも話を続ける。
「に、兄さんの対戦相手は奇妙な杖術を使うみたいだけど、対策は?」
「あん?そんなもんはない!ただ全力で叩き伏せるのみだろ!」
兄さんは自信満々に豪語する。
うん。これは何も考えてませんな。
俺は苦笑いを浮かべつつ、一応近接は危ないかもよ?と伝えるが、ならば一層得意な近接で屠ってくれるわ!と大声で高笑いを始める始末。
あぁ従兄が馬鹿過ぎて辛い。
「君は余程自信があるんだね?」
横から突然かけられた声に、俺とバスク兄さんが同時に振り向くと、さっきまで奥で剣をポンポンしていたはずのヤツが俺たちの直ぐ横に立っていた。
一体いつの間に近づいて来たのだろうか?俺はまるで気配を感じなかった。
兄さんは気がついていたのだろうか?と顔をチラリと盗み見ると、兄さんは憮然とした表情を浮かべていた。
これは気がついていなかったな。
「お前は……グレイブの対戦相手か。名前は……なんだっけか」
「兄さん……自分と当たるかもしれない相手の戦いも見てなかったの?」
「見るもなにも、グレイブが勝つに決まってるだろう?ならば見る必要などないではないか」
「いや、その評価は嬉しいんだけど、実は少し雲行きが怪しくてね。彼の名前は──」
「初めまして。俺の名前はスズキソウタっていうんだ」
「あん?……スズキ?」
「万が一、お前が決勝戦に上がって来るようなら相手してやるよ」
「ああ?お前から見える闘気はグレイブにも劣る程度だが?まずはお前の決勝進出を心配しろよ」
「へぇ……オーラが見えるのか。いや……」
見えるようになったという事か……とヤツが小さく呟いたのを俺の耳は聞き取ったが、言っている意味自体は謎である。
「なら……これならどうだ?」
俺が首を傾げていると、目の前で兄さんと睨み合っていたスズキソウタは口角を吊り上げる。
ゴゥ────
瞬間、待機部屋に絶大な殺気を纏った力の奔流とでもいう何かが解き放たれ、俺と兄さん、ついでに杖使いのレキアスを纏めて覆い尽くす。
「ぐ……」
「なんて力だ……」
力の奔流を正面から当てられたバスク兄さんは小さく呻き、額にはびっしょりと脂汗を浮かべている。
そんな兄さんを観察している俺も余り変わらない状況だが、ただ一人、レキアスだけは違った。
「ほぅ……この力を少し離れているとはいえ、眉一つ動かさないとはな。この中じゃ一番楽しめそうだ」
そう言うとスズキソウタは俺たち二人には目もくれず、レキアスの方を注視するが、レキアスはどこ吹く風とソッポを向いていて相手をする気はない事をアピールしている。
その様子に、スズキソウタは黙って力の奔流をその身の内に鎮めると、俺はようやっと重圧から解放され、ホッと息を吐く。
「お前……なんなんだ?」
「俺か?……そうだな。真の伝説の傭兵ってところだな」
そう言ってヤツは額に巻いたバンダナをしゅるりと外してクルクルと振り回し始めた。
後継者にしか手渡さないと言っていたバンダナを……乱暴に……
ブチン──
俺は、そう何かがキレたような音が頭の中から聞こえた気がした。
「ッ!ふざけるな!伝説の傭兵はコウタお爺ちゃんただ一人!お前なんかが軽々しく名乗っていいわけがないんだよ!それもなんだ!真の傭兵だ?お爺ちゃんを馬鹿にするなら許さんぞ!」
「グレイブ?!」
「……そろそろ離してくれ」
兄の驚く声が聞こえた。
そしてスズキソウタに、そう冷ややかな口調で言われた俺は、気がつけばヤツの胸ぐらを掴んでいた。
慌てて離すと、スズキソウタは何でもない事のように襟を正して一歩下がる。
「それじゃ、俺はあっちに戻るとする」
「あ……ああ」
「それと、グレイブ。お前のオーラも中々の物だった。今から戦うのが楽しみだ。バスク、お前の戦いはしっかりと観させてもらう。だから見事勝利してみせろ」
「チッ……上から目線で偉そうに。決勝で絶対に吠えづらかかせてやる!」
「楽しみにしている」
そう言ってスズキソウタは少し離れた場所まで歩くと、再び腰を降ろして剣の手入れを再開した。
それを見た兄さんは、いつになく真剣な表情で俺の肩を強く掴む。
「いいか。俺は必ず杖使いに勝って決勝に行く。だからグレイブ。お前も負けずに上がって来い!」
その真に迫る一言に、俺は真面目な顔でコクリと頷いた。
「当然だよ。あんなお爺ちゃんを馬鹿にしてるようなヤツに後継者の証たるバンダナを預けてなんておけないからね!」
『お~待たせしました!それでは只今より!第一ブロックの勝ち抜きを決める戦いを始めたいと思います!』
そのアナウンスに、兄さんは表情をギュッと引き締めて戦いの舞台へと向かったのだった。
『カスミです!よろしくお願いします!』
『はい!皆さんご存知、女性の部優勝者のカスミさんに来て頂きました!』
なんていう、拡張器から聞こえる声を聞きながら、俺を含めた四人の選手が控室にて自分の装備の最終チェックを行っていた。
無論、スズキソウタもいる。
彼は見たこともない剣のような物を腰から抜くと綿のような物でポンポンと小気味いいリズムで剣の刃の部分を叩いている。
「グレイブ、調子はどうだ?」
「バスク兄さんこそ」
「俺か?俺なら文句なく絶好調だな。今ならお爺ちゃんにも勝てそうだ!なっはっはっは」
いくら本人が居ないからって、余りにもの自信過剰なバスク兄さんの発言に、俺の頬が引き攣るのを堪えながらも話を続ける。
「に、兄さんの対戦相手は奇妙な杖術を使うみたいだけど、対策は?」
「あん?そんなもんはない!ただ全力で叩き伏せるのみだろ!」
兄さんは自信満々に豪語する。
うん。これは何も考えてませんな。
俺は苦笑いを浮かべつつ、一応近接は危ないかもよ?と伝えるが、ならば一層得意な近接で屠ってくれるわ!と大声で高笑いを始める始末。
あぁ従兄が馬鹿過ぎて辛い。
「君は余程自信があるんだね?」
横から突然かけられた声に、俺とバスク兄さんが同時に振り向くと、さっきまで奥で剣をポンポンしていたはずのヤツが俺たちの直ぐ横に立っていた。
一体いつの間に近づいて来たのだろうか?俺はまるで気配を感じなかった。
兄さんは気がついていたのだろうか?と顔をチラリと盗み見ると、兄さんは憮然とした表情を浮かべていた。
これは気がついていなかったな。
「お前は……グレイブの対戦相手か。名前は……なんだっけか」
「兄さん……自分と当たるかもしれない相手の戦いも見てなかったの?」
「見るもなにも、グレイブが勝つに決まってるだろう?ならば見る必要などないではないか」
「いや、その評価は嬉しいんだけど、実は少し雲行きが怪しくてね。彼の名前は──」
「初めまして。俺の名前はスズキソウタっていうんだ」
「あん?……スズキ?」
「万が一、お前が決勝戦に上がって来るようなら相手してやるよ」
「ああ?お前から見える闘気はグレイブにも劣る程度だが?まずはお前の決勝進出を心配しろよ」
「へぇ……オーラが見えるのか。いや……」
見えるようになったという事か……とヤツが小さく呟いたのを俺の耳は聞き取ったが、言っている意味自体は謎である。
「なら……これならどうだ?」
俺が首を傾げていると、目の前で兄さんと睨み合っていたスズキソウタは口角を吊り上げる。
ゴゥ────
瞬間、待機部屋に絶大な殺気を纏った力の奔流とでもいう何かが解き放たれ、俺と兄さん、ついでに杖使いのレキアスを纏めて覆い尽くす。
「ぐ……」
「なんて力だ……」
力の奔流を正面から当てられたバスク兄さんは小さく呻き、額にはびっしょりと脂汗を浮かべている。
そんな兄さんを観察している俺も余り変わらない状況だが、ただ一人、レキアスだけは違った。
「ほぅ……この力を少し離れているとはいえ、眉一つ動かさないとはな。この中じゃ一番楽しめそうだ」
そう言うとスズキソウタは俺たち二人には目もくれず、レキアスの方を注視するが、レキアスはどこ吹く風とソッポを向いていて相手をする気はない事をアピールしている。
その様子に、スズキソウタは黙って力の奔流をその身の内に鎮めると、俺はようやっと重圧から解放され、ホッと息を吐く。
「お前……なんなんだ?」
「俺か?……そうだな。真の伝説の傭兵ってところだな」
そう言ってヤツは額に巻いたバンダナをしゅるりと外してクルクルと振り回し始めた。
後継者にしか手渡さないと言っていたバンダナを……乱暴に……
ブチン──
俺は、そう何かがキレたような音が頭の中から聞こえた気がした。
「ッ!ふざけるな!伝説の傭兵はコウタお爺ちゃんただ一人!お前なんかが軽々しく名乗っていいわけがないんだよ!それもなんだ!真の傭兵だ?お爺ちゃんを馬鹿にするなら許さんぞ!」
「グレイブ?!」
「……そろそろ離してくれ」
兄の驚く声が聞こえた。
そしてスズキソウタに、そう冷ややかな口調で言われた俺は、気がつけばヤツの胸ぐらを掴んでいた。
慌てて離すと、スズキソウタは何でもない事のように襟を正して一歩下がる。
「それじゃ、俺はあっちに戻るとする」
「あ……ああ」
「それと、グレイブ。お前のオーラも中々の物だった。今から戦うのが楽しみだ。バスク、お前の戦いはしっかりと観させてもらう。だから見事勝利してみせろ」
「チッ……上から目線で偉そうに。決勝で絶対に吠えづらかかせてやる!」
「楽しみにしている」
そう言ってスズキソウタは少し離れた場所まで歩くと、再び腰を降ろして剣の手入れを再開した。
それを見た兄さんは、いつになく真剣な表情で俺の肩を強く掴む。
「いいか。俺は必ず杖使いに勝って決勝に行く。だからグレイブ。お前も負けずに上がって来い!」
その真に迫る一言に、俺は真面目な顔でコクリと頷いた。
「当然だよ。あんなお爺ちゃんを馬鹿にしてるようなヤツに後継者の証たるバンダナを預けてなんておけないからね!」
『お~待たせしました!それでは只今より!第一ブロックの勝ち抜きを決める戦いを始めたいと思います!』
そのアナウンスに、兄さんは表情をギュッと引き締めて戦いの舞台へと向かったのだった。
0
お気に入りに追加
489
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
婚約破棄は誰が為の
瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。
宣言した王太子は気付いていなかった。
この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを……
10話程度の予定。1話約千文字です
10/9日HOTランキング5位
10/10HOTランキング1位になりました!
ありがとうございます!!
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!
つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる