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ラヴィア公国と発生した魔物

閑話 カスミ、昔を思い出す 5

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「お前ら!そこまでだ!たりゃあ!」

 突然聞こえた謎の声。
 目の前で私の上着に手を掛けて、ゲラゲラと笑っていた男の子が突然くの字に折れて横に転がって行きました。

「ああ?!なんだお前は!」
「どこのどいつだ!」

 残った男の子達は立ち上がると、私を突き飛ばし、突然現れた何かに身構えています。

「可愛い女の子を許可なくひん剥く、男の風上どころか風下にも置けない者共──人それを悪と言う!」

 炎を纏ったが吊り上がった目に裂けた口、額には[しっと]と文字が描かれたお面のような物を被って現れた何か。
 顔が見えないけど、声とシルエットで、その何かが男の子だと言うのが分かる。

「なんだお前は!変態か!」
「ダセーお面被りやがって!」

 私を囲んでいた男の子達も、声とシルエットで相手が同じ程度の男の子だと分かってか強気に出る──が

「貴様ら悪党に名乗る名前はない!我が嫉妬マンの一撃!受けてみろ!」

 何やらズビシッ!と指を突きつけている風のシルエットの後、ものすごい跳躍で飛び上がった謎の男の子!名乗らないと言いながら、しっかりと嫉妬マンと名乗った……ちょっぴり助かるかも?って期待したけど……アホっぽいから無理か。そう諦めていたのですが──

「シーット!ボンバー!」

 嫉妬マンの謎な掛け声と同時に放たれた飛び蹴りによって、二人の内の一人が「グボッ!」とぶっ飛んで行きました!

「おおお!」

 仲間がやられたというのに、慌てず拳を放つ相手に、嫉妬マンは冷静にその拳を逸し、演舞のように回転すると、相手の男の子は空中で1回転してドスンと地面に倒れました。

「くそ変態め……いい気になるなよ!」

 一番最初に吹っ飛んだ男の子が立ち上がり、戦線に復帰するも──

「シーット!ボルトスクリュー!」

 嫉妬マンが放った飛び蹴りで壁にめり込んで戦闘不能に……ピクピク動いてるから死んでないよね?

「ふぅ……大丈夫?」

 夕闇の中、しっとのお面を取った彼は、金色の髪を短く切りそろえたエメラルドの瞳の同い年くらいの男の子でした。

「──大丈夫……です」
「良かった。はい。スカート」

 ボーッと目の前の男の子のキレイな瞳に見入っていると、男の子はニカッと笑いながら私に、私のスカートを手渡してきて、ようやく私がパンツ丸出し状態だと言うことに気が付き、私は慌てて手でパンツを隠した!

「あはは!今更隠さなくてもいいよ。可愛いネコさんのアップリケだね!」
「ううう……」

 助けて貰った手前、怒るに怒れず、私は唸りながら立ち上がってスカートを穿きました。

「ここは危ないから通りに出たほうがいいよ?迷ったんならお家がどの辺か教えてくれたら連れて行ってあげるよ?」
「迷子じゃないもん……迷子になった二人を探してたんだもん……」
「そっか!でもさ、その二人は先に帰ってるかもしれないよ?」
「うう……」
「だから、一度お家に帰ってみない?」

 助けて貰ったくせに、言い訳する私に怒るにわけでもなく、金髪の男の子は優しくそう言ってくれます。

「でも……お祭り……まだ全部見てないの……私、明日には帝都から出てっちゃうから……」
「……ならさ、俺が案内してあげるよ!そんで、少し見て回ったらお家に帰ろう?」
「……うん!」
「俺はグレイブ!君は?」
「カスミ……カスミ・フォレスタ・ラヴィア」
「ふぅん……長い名前だね!カスミちゃんでいいよね!それじゃ行こう!」

 そう言って差し出された手。
 私はグレイブをチラッと見ると、彼はニカッ!と元気に笑いかけてくれている。
 私はおずおずと手を握ると、グイッと引っ張られて裏道から飛び出しました!

 それからは色々な出店を回りました。
 チョコバナナに焼きそば、串焼きにたこ焼き。
 アーチェリーを使った射的に紐を引っ張って、ソレに巻き付いた景品を貰えるくじ引き、最後に回ったのは輪投げ──

「ぬおお!」
「おお~おめでとう!商品だぜ坊主!」

 得点の書いてある棒が沢山並んで居る中、輪っかをヒュンヒュンと投げて棒に引っ掛けていくグレイブは、高得点を叩き出した──だが

「指輪とか要らないんだけど……おっちゃん!他のにしてよ!」
「馬鹿野郎!横の彼女にプレゼントしろっていうおっちゃんの粋な計らいを無碍にするってのか?ってか坊主も男なんだから言われる前に気づけよ!」
「うっせー!ハゲ!」
「んだとこのクソガキ!」
「あはは!カスミ逃げるぞー!」
「え?え?」

 私の手を引いて駆け出したグレイブに、引っ張られてながら走る。

「あはは!顔真っ赤にして怒ってたね!」
「あはは!そうだね!」

 荒い息を吐き、二人して笑った後、グレイブは私にさっきの指輪を差し出して来た。

「はい!あげるよ!」
「え?!」
「おれ、男だから指輪とか使わないし、カスミちゃんなら着けててもおかしくないしね!」

 ニカッと笑うグレイブに、私の心臓はドキドキと早鐘を打っています。

 私がグレイブの笑顔に見惚れていると、グレイブは何食わぬ顔で指輪を「はい!」と、私の左手の薬指に嵌めてくれました。
 これは!ママの本で読んだ事があります!プロポーズっていうやつです!
 私!今!プロポーズされてます!結婚を申し込まれたというやつです!

「グレイブは私とその……けっこんしてくれるの?」
「ん?……うん!」
「ホント?!」
「うん?……ホントだよ?」
「うれしい!大好き!」
「うん?俺も大好きだよ?修行」
「──え?今なんて……」
「ケッコーしてるの?って聞いたでしょ?修行は毎日してるよ?ホントだよ?」
「…………」
「あれ?どうしたの?カスミちゃん?」
「なんでもない……」

 どうやら私の早とちりのようでした……でも……それにしたって……修行大好きってなんなの!どんな勘違いなの!
 そんなに修行が大好きなら私も修行して強くなって、いつかグレイブの事ボコボコにしてやるんだから!……ボコボコにして無理やりラヴィアに連れてって結婚してやるんだから!

「覚悟しててよね……うふふ……」
「あれ?!急に寒気が!」

 その後、家が帝城という事を伝えると、そこで始めてグレイブがイザベラ様の孫ということが分かりました。
 そして後日、立場的にも結婚できる事を知った私の闘志に日が付いたのは別のお話です。




 
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