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新たな火種

11 孫、他人に任せる!

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「ねえ!一体何があったの?!」

 俺がルカを連れて船から一目散に飛んて逃げ、港町からすらも飛び出して、今はその辺の雑木林に腰を降ろしている。

 目の前ではルカが腰に手を当てて仁王立ちで俺を問い詰めているところだ。

「おそらくだけど……俺にはどうしようもない相手が現れた」
「どういう意味?」
「そのままだ……たった一月とは言え、お爺ちゃんやお婆ちゃんに習った事があれば問題ないと思っていたんだ……だけど……」

 まるで歯が立たなかった。子供扱いだったと伝えると、ルカは眉を潜めて何かを考え始めた。

「正直、今のグレイブが子供扱いされるのが想像できないんだけど……」
「しかし、俺は実際に負けて、ガイルを残して逃げて来てるんだぞ?おそらくガイルはもう……」
「…………」

 きっと殺されてしまっているに違いない……俺を逃がすために、あの鉄仮面を羽交い締めにして必死に止めていたのだ。力が尽きればそれでガイルの命は終わりだ。

「どーすんの?これから……」
「今の俺では、一人ではヤツを倒す事は出来ない。これは確定している」
「うん……」
「そう。力押しでは倒せない……頭を使わないと……頭を……」

 俺はそう呟きながら、コンソールを呼び出して、アイテムBOXの中身を眺めていると、ある一つのアイテムが目に付いた。
 その瞬間、おれの頭の中に妙案が浮かんだ。

「少しいい方法を思いついた。うまく行けばアイツを倒せないまでも攫われた人達は助けられるはずさ」
「それってどんな方法?」
「それは秘密さ!まだ俺が逃げてからそこまで時間も経ってない。ガイルの為にも、なんとかしてやらないとな!」

 俺は再び飛剣に乗って飛び上がった!

「ちょっと!待ってよ!」

 ルカも文句を言いながらもしっかりと着いて来ている。

 俺は全力で飛ばし、鉄仮面が居た船へと再び舞い戻った!
 上空から視力を強化して船を覗き見ると、マストにガイルが括り付けられているのがわかった。

「念の為の人質ってとこか?」
「いいや違う。お前を逃さないためだ!」
「うお!」

 いつの間にか俺の背後に現れていた鉄仮面。空の上でもお構いなしか。

「やっぱり飛剣も持ってたか」
「これはプレイヤーの標準装備だからな。持っていて当然だ」

 俺は目配せして、無言で下に降りると、鉄仮面も俺に着いてくるように降りてくる。

「逃げたと思ったんだが……こんなにすぐ戻ってくるとは思ってなかったぞ」
「なぁに……少しだけ妙案が浮かんでね。試したくなっちゃったのさ!」
「ほう……」
「行くぜ!」

 俺は剣を抜くわけでもなく、拳を握り、鉄仮面の男へ向かって飛び込んでいく!振るった右ストレートは簡単に鉄仮面に避けられてしまった。

「ふん!何かをするかと思えば……ヤケクソに拳を振るうだけか!」

 鉄仮面は剣を抜き、半身から俺の首へ向けて剣を振り下ろす。
 それを俺はあろう事か素手でその剣を掴みかかった!

「ぐぅぅ」
「いくら護符があると言えど痛みはあるのだぞ?」
「だけど、こうでもしないと掴ませてくれないだろ?お前はさ!」

 俺は開いている片手て素早く鉄仮面の肩を掴み、アイテムBOXにある[あるもの]を起動した!
 その瞬間、俺と鉄仮面は光に包まれ、かなりの距離を一瞬にして移動する!

「くッ!一体何を使われたんだ?!」

 眩い光に混乱した鉄仮面が辺りに視線を彷徨わせると、そこには……

「あ~?グレイブじゃん!なになに?あーしに会いに来てくれたの?」

 そう元気に現れたのは一人のダークエルフ。

「なんだここは?!」
「ここは帝国の城にある部屋の一つだ」
「ぬかった!帰還の巻物か!」
「正解!」

 帰還の巻物とは、登録したポイントに自身を含めて、触れている物を強制的にテレポートさせるアイテムだ。

 そう。俺は鉄仮面の肩を掴んだ瞬間、帰還の巻物を発動させたのだ!

 登録されている場所は、俺の私室の隣のダークエルフが住む部屋だ。
 彼女の名前は盛子。
 永遠に年老いる事のない、褐色の美女にして途轍もないおっぱいの持ち主にしてお爺ちゃんの愛人?で俺の童貞を狙うダークエロフ!
 なんでもお爺ちゃん曰く、今はこの世界で一番強いらしい。

「ねぇグレイブ?そっちのへんてこな人は友達?」
「違う!コイツ!俺の尻を狙って襲って来やがったんだ!」
「はあ?!小僧!貴様何を言っているんだ?!」

 突然俺が叫んだ嘘に、鉄仮面は動揺を隠せず、表情はわからないが背後から立ち上るオーラがヤバイ感じになっている。

「はぁぁ?!ちょっとこのヘンテコマスク!グレイブの童貞はあーしのなんだけど?!なに許可なくあーしのグレイブの処女奪おうとしてんの?」
「いや!それは誤解だ!ええい!なんで俺がこんな言い訳をしないとならないんだ!もう許さん!纏めて木っ端微塵にしてくれる!」
「俺の童貞はともかく!このままではコイツに俺が女にされてしまう!」
「黙れ小僧!変態な妄想も大概にしろ!」

 鉄仮面は拳を振り上げて俺の顔面を強打した。その瞬間、一気に膨れ上がった殺気に、俺はニヤリと口角を歪める。

「あーしの可愛いグレイブの顔面を殴ったな!もう許さないんだからね!」
「何が許さないだこの褐色エロブフォォォォ!」

 剣を振り上げ、盛子に斬りかかった鉄仮面の背中から、褐色の拳が生える。

「なん……だと」
「ダセー見た目であーしの事エロフって言おうとしたね?このゴミムシが!」

 腹を貫通した拳に、何が起こったのか?と一瞬フリーズした鉄仮面に、盛子が放った拳打がドゴゴゴゴ!と打ち込まれる!

「うぼぼぼぼぼぼ」

 鉄仮面は激しい拳打に見舞われ、足が地面から離れてしまっていた。

「こいつー!一丁前に護符なんて張ってるしー!生意気だから死なせてくださいって言うまで殴ってあげるね!どう?嬉しいっしょ?」

 果てしなく物騒な事を言う盛子だが、表情はいい笑顔を浮かべている。
 その後、小一時間ほど殴りっ放しにし、ついに鉄仮面の目から涙が流れ始めた。
 見れば護符が切れたのか、ダメージが回復せず、顔がパンパンに膨れ上がり、顔の鉄仮面が膨張している始末。
 それを見て満足したのか、盛子はニッコリと満面の笑みを浮かべ──

「そろそろ死にたくなったっしょ?それじゃさよーならね!〈コキュートス〉」

 盛子は力ある言葉を発し、鉄仮面の顔をガシッと掴み、口元に輝くブレスを吹き付けた。

 すると、鉄仮面はピシッピシッ!と全身を凍りつかせて行き、10秒と立たずに全身を氷の彫刻へと変えた。

「えい!」

 盛子がツン!と突くと氷の彫刻と化した鉄仮面はサラサラと崩れ、氷の粒子となって跡形もなく消えてしまったのだった。


 

 
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