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4章 天使と悪魔と運営と

1 鈴木、弟子と会う!

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「なんだ?空が急に暗くなったぞ?」
「あんなに黒い雲を見るのは初めてのですね」
「なんか不吉ですね……」

 エレイラ、イザベラ、メルさんの三人は口々にそう言って空を見上げている。

 見送りに出ていたラヴィア公国皇太子のウィルも不安そうに空を見上げ、さっきまで聞こえていた活気あふれる街の人々の声も今は鳴りを潜めていた。

(急激な天候の変化……運営ならイベントでよく天候変化をさせたりするんだよな。イベントでボスを近場に湧かせたり、イベント用の雑魚を配置したりする時とか……)

 そうやって考えていくと、ますます何者かの介在を疑えてくる。

「飛剣!」

 俺は考えるのを一度止め、足元に飛剣を出現させ、フワリと空に飛び上がる。

「スズキ様?」
「考えていても仕方ないから少し見てくる!念のため三人は城の中に戻ってて!ウィル!三人を頼むぞ!」
「はいアニキ!」

 俺は後の事をウィルに託して空高く飛び上がった!

 ある程度飛び上がって周囲を見渡すが、黒い雲は途切れる事がなく、地平線の彼方まで続いていた。

 そのあり得ない光景にしばし絶句した後、ならば!と俺は暑く重苦しい雲に突っ込むべく高度を上げる!

 ガチン!

「いてッ!」

 雲に頭から突っ込んだ俺は、何故か固い障壁のような物に当たって弾かれてしまったのだ。

「なッ……なんだ?!」

 俺はもう一度、頭から突っ込むが、再び同じように弾かれて髪の毛一本たりとも雲に侵入できない。
 俺は首を捻り、試しに腰に差した剣を抜いて雲に突き刺そうと突き出した。すると、ゲーム内でよく見る文字が出現していた。

「破壊不能オブジェクト……だと?……」

 突いた剣は雲に突き刺さる前、正確には雲と剣の間にある空間を突破できずにいた。

「つまり、これで運営サイドの仕業ということが確定的に明らかになったという事か……」

 俺はしばらく空に浮かびながら運営の意図を探るが、情報の少なさに諦め、地上に降りようとした時──

 ドゴゴ!という重い炸裂音が城の方から聞こえ、その方向に振り向くと城の壁に大きな穴がぽっかりと空いていた。

「なんだ?!」

 驚きの声を上げた俺は飛剣を穴の空いた壁に向けて飛ばす。
 中を覗き込むと、空いた壁の中は廊下で人の気配はなく、ただ廊下が水浸しになっていただけだった。
 一体どうしたことか?と首を捻っているところに、パシュン!と俺の足元、飛剣から水柱が出現して俺の全身を貫いた。

「なんだ?!」

 大したダメージもなく、周囲を探る俺に今度は鋭い氷の刃が飛来した。

「く……おぉぉ!」

 俺は防壁を全開にして飛来する氷の刃を弾き飛ばすと、今度は頭上から水の塊が落とされた。
 質量のある塊の直撃に、飛剣を操作する足がふらつく。
 よろよろと力なく浮く俺の胸をレーザーのような物が穿いた。

「ゴフッ──」

 護符がグルンと回り、瞬時に回復した俺は、レーザーの発射角度から俺を狙った輩を確認する。

「……悪ふざけにも程があるぞ」

 強化した視力が捉えたのは、ゲームでよく一緒にダンジョンに篭ったフレンドの一人だった。

 俺はそいつ目掛けて飛剣を飛ばし、目の前に降り立った。

「久しぶりの挨拶は随分と手荒だな?モニカ」
「久しぶりですね師匠。お元気そうで何よりです」
「たった今お前に護符回されて強制的に元気にさせられたところだよ」

 そう、目の前にいるローブを纏った少女は俺の自称弟子で名前をモニカという。
 彼女との出会いは俺がたまたま初心者救済ギルドに依頼されて短期講師をした時の先生と生徒だった。
 彼女は俺の教え通りに学習し、メキメキと腕を上げていった生徒で、以来俺と野良で出会うといつも俺の事を師匠と呼ぶ。

 しかし、こんな過激な挨拶は今までモニカから受けたことがなかった。
 もっと、上司を尊敬する部下のような目で俺を慕って、常に礼儀正しい挨拶をしてくれる女の子だったのだが……いったいどういう心境の変化なのか?と俺が疑問に思っていると、モニカはボソリと何かを呟いた。

「そうですか。護符なんて持ってたんですね。なら──スプラッシュ、ウォータープリズン」
「なッ?!」

 突然俺の足元から水が噴き上がり、俺はその噴き上がった水柱の中に閉じ込められてしまった。

「────」

 息を止め、剣を抜いて水柱を割ろうとする俺に、モニカは左の掌を突き出して口を動かした。
 すると水が足元から凍り始めていく。このコンボはモニカが得意とした氷結封殺コンボの〆スキル[アイシクルコフィン]という事に気が付いた。

(まずい!このままでは氷漬けにされてしまう!)

 俺は思考のスイッチを戦闘態勢に切り替え、真気解放を発動し、エアトスブレードで無理やり斬り裂いて凍り始めた水柱から脱出した。

「モニカ、PVPのつもりか?」

 俺は濡れた髪を掻き上げ、鋭く吊り上げた瞳でギロリと睨み、殺気を全力で叩き付ける。

「うふッ。PVPだなんて、そんなつもりじゃないですよ師匠」
「なら今すぐやめろ!ここはゲームとよく似た世界だがゲームじゃない!遊びじゃないんだぞ!」
「そうですよ。分かってるじゃないですか。PVPなんてお遊び、する訳ないですよ」
「なら──「PKです」」

 ニタリと口を三日月に歪ませた彼女は圧縮した水をレーザーのように撃ち出した!
 慌てて両腕をクロスさせて防御の体勢を取るも、その腕ごと俺の顔面を肉片へと変えた。



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