上 下
41 / 131
2章 進軍!ガリナ王国

5 鈴木、不意を打たれる!

しおりを挟む
 ここはガリナ混成軍の前線基地。
 部屋の中からガシャン!という陶器が割れる音が聞こえた後、続く激しい叱責の声に部屋の前に立っていた兵士は身震いした。

「たった一人の人間に軍の2割も損害を出しておめおめと逃げてきたというのか?」
「遺憾ながら……」

 椅子に腰掛けた男はガツン!と拳を肘掛けに叩きつけて目の前で頭を垂れる男を激しく睨む。
 片膝を突いて臣下の礼を取る男は悔しさに歯を噛みながら俯いている。

「上がってきた報告によれば攻撃が視えない壁に阻まれると聞いたが?」
「はい。槍や剣、拳などの接近戦は勿論、弓矢や投石等の遠距離からの攻撃も視えない壁に当たるとそのまま地面に落とされてしまいます」

 椅子に座った男は、直ぐに怒りを鎮めると、先程矢継ぎ早に上がってきた報告の内容の確認を取る。この切り替えの早さがこの男の優秀さなのだろうと跪いて臣下の礼を取る男は思い、自分が見たありのままを報告する。
 すると、椅子に座った男は横に立っている男に視線を向ける。

「……バルベラ、何か良い案はないか?」
「そうですね……では帝国での実験で使ったシードを使いましょう」
「シードとな?」
「はい。この種は生物の体内に入れる事によって急速に発芽し、宿主を内部から侵食。根が全身に到達した後、魔道具から送られた合図によって宿主を強力な魔物に変態させるのです。変態した魔物の能力は宿主に比例して強さを増します」

 そう言って取り出したのは小指の指先程の小さな黒い種と手のひらに収まる程の小さな魔道具だった。
 しかし、バルベラと呼ばれた彼の説明はとても自分では想像も出来ないと臣下の男は跪いたまま聞いていた。

(生物を魔物に変える?それは人も含まれるのではないか?いやいや流石にそれはないだろう?)

 などと跪いている彼が考えている内に話は決まってしまったらしい。

「なるほど。それは面白い。戦士長よ!早速軍の使役する魔物達にシードを服用させよ!」
「ハハ!」

 椅子に座る男の命により、彼はバルベラと呼ばれた男から複数の種と合図を送るらしい魔道具を恭しく受け取ると、足早に魔物達の下へ向かっていった。




 辺境の村

「さて、ガリナの混成軍も引いた事だし、当分はこの村も安全だろ」
「当面は~だろうけどな。でも今後はわからないだろ?」

 俺は、混成軍を追い返した後、辺境の村の村長であるムライチさんの家でエレイラと一泊し、今は朝から村内部の見回りに出ていた。
 村では朝から畑仕事に精を出す者、家畜に餌を与える者など、朝から働いている者も多く、数日は問題ないだろうが、また直ぐにでもガリナが攻めてきて、この平和な光景が失われてしまうのではないか?と思い、何とか出来ないかと考える中、一つの案が浮かぶ。

「その事なんだが……エレイラ。俺はこの後ガリナ混成軍を追撃して辺境から叩き出そうと思うんだが、大体でいいんだけど、どこまでが帝国の領土なんだ?」
「あ~……ガリナ混成軍が来た方を見てくれ」
「あそこに山があるだろ?あの山を挟んでガリナ王国だ」
「なるほど。つまりあの山を越えたところまで押し返すか、災悪殲滅すればいいってわけか」
「そうなるな」

 戦争を出来なくなるまで軍に損傷を与えて引き返させるか、さもなくば全滅させれば、辺境の村も、一応自分の婚約者の二人が住む帝都の安全も守られる。結局のところ、思い付いた案など課金者特有の【力によるゴリ押し】だった。

「よし。それじゃもう一回行ってくるよ」
「その……大丈夫か?そりゃ死なないのは知ってるし、強いのもわかってるけど……」
「大丈夫だ。見た感じ混成軍には強者はいなかったし、数だけならなんて事ないよ」
「それならいいんだけどな……」

 エレイラは口では心配してないと言いながらも、彼女の表情はとても心配だ!と顔に書いてあるくらいに暗く、滲む瞳を揺らしている。
 そんなエレイラに、俺はそっと手を頭の上に乗せて撫で、ニッと歯を見せて笑いかける。

「心配するな。この戦争に方が付いたら帝都に戻って婚約披露パーティやろうぜ?」
「ふふ。言ったからにはきっちり戻って来いよ?」

 エレイラは目尻を指でそっと拭い、頭に乗った俺の手を引くと、体勢を崩して屈んてしまった俺の頬に不意打ちが入った。

 ちょん!と頬に触れたソレに、俺は驚いて飛び跳ねて不意を打ったエレイラを見れば、彼女はサッとそっぽを向いて小さな声で「おまじないだ」と呟いた。

(まったく……エレイラが可愛く見えるん件!はぁ……俺はいつから絶壁もイケる口になったんだろうなぁ)
 
 俺は軽く頭を振って煩悩を振るい落とすようにして声を上げる。

「任せろ!必ず戻る!飛剣!」

 そうして足元に出現させた飛剣を操縦して俺は一気に飛び立った。
 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界でのんきに冒険始めました!

おむす微
ファンタジー
色々とこじらせた、平凡な三十路を過ぎたオッサンの主人公が(専門知識とか無いです)異世界のお転婆?女神様に拉致されてしまい……勘違いしたあげく何とか頼み込んで異世界に…?。  基本お気楽で、欲望全快?でお届けする。異世界でお気楽ライフ始めるコメディー風のお話しを書いてみます(あくまで、"風"なので期待しないで気軽に読んでネ!)一応15R にしときます。誤字多々ありますが初めてで、学も無いためご勘弁下さい。  ただその場の勢いで妄想を書き込めるだけ詰め込みますので完全にご都合主義でつじつまがとか気にしたら敗けです。チートはあるけど、主人公は一般人になりすましている(つもり)なので、人前で殆んど無双とかしません!思慮が足りないと言うか色々と垂れ流して、バレバレですが気にしません。徐々にハーレムを増やしつつお気楽な冒険を楽しんで行くゆる~い話です。それでも宜しければ暇潰しにどうぞ。

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

処理中です...