旧校舎の少女

チャロコロ

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過去 7

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 太陽はとっくに山に隠れて漆黒の闇に包まれていたが震えるほどの寒さはなく、見ると桜の蕾がところどころ見てとれ、春の訪れが近いことを物語っていた。
 透明に透き通った冬の空に、数え切れない白い星が辺りを照らすように煌めいている。
 宛てもなく散歩することになった絵里は、ゆっくりと歩きながらがっつをちらりと覗き見る。
 彼の変わらない横顔に周りの景色が校庭に変わる。自習を終えて街灯の少ない校庭を2人で歩いたあの匂い。
 あれから13年もの月日が流れてしまった。
 あの時、ガッツが振り向いてくれるかどうか勝手に賭けをしていた。今考えて見ると、人生で一番大事な時期を無駄に使っていた気もする。
 ヒカリや嬢ちゃんの言葉が心に深く刺さった。気持ちを伝えるべきだったと。
 絵里は深い後悔に陥った。だが、別の考え方もできる。
 あの時を思い出して後悔のない人間がいるだろうか?いや、いないだろう。過去をやり直す能力がある人間でもない限り。
 もしもあの時代をもう一度やり直すことができたら、今とは全然違う人生を歩んでいたのだろうか?彼に寄り添って一緒に歩くことが当たり前になっていたのだろうか?
 絵里は首を横に振った。できもしない妄想に浸っても仕方がない。第一やり直せたとしても上手くいく保障は何一つない。
 ただ、一つだけ後悔を減らすことができるのなら、気持ちだけでも伝えておきたかった。 
 絵里は星空を眺めた。
 「元気でやってたか?」
 「え?ああ、うん。いろいろあり過ぎるくらいあったけど、何とかやってるって感じか
 な。ガッちゃんはどう?」
 自分の世界に入っていたせいで、遠くから聞こえるガッツの声に反応が鈍くなる。
 「俺もいろいろあり過ぎたな。仕事も大変だったし。嫁が交通事故で死んだ時が1番き
 つかった。ショックもすごかったし、これから子供と2人でどうやって暮らしていくん
 だって不安だらけだった。まあ、何とかなるもんだな。開き直れば気楽なもんさ」
 「大変だったんだね……」
 突然愛する家族を失った彼の痛み。それは絵里にとって想像を絶するものだった。
 「大変なのは俺だけじゃない。言葉にしないだけで皆苦労してるんだよ」
 「うん」
 「先生やってるんだってな」
 ガッツが話題を変えた。
 「うん。それにね、来月からは母校の教師になります」
 「マジでか?俺も学校に行きたいなあ。やっぱ学生時代は貴重な時間だったんだんな。
 この歳になって思うよ。絵里はいいな。今でも学校に行けて」
 「今は教師としてだけど。それでも、やっぱ学校は大好きだな。めんどくさいことも多
 いけど、先生やってて良かった、って思うよ」
 「そういうところも絵里らしいな」
 ガッツが小石を軽く蹴った。コロコロと転がる小石がやがて動きをとめる。
 絵里の心音の高鳴りは一向に収まる気配を見せず、心臓の音が耳にまではっきりと届いた。絵里はそれを悟られないよう、背中を見せた。
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