旧校舎の少女

チャロコロ

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生前の存在

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 「どうしたんですか先生。この女の子は誰なんですか?」
 鈴原が戸惑った様子で訊ねると
 「私が訊きたいくらいよ。廊下を歩いてたら突然私の前に現れて、理由を訊く間もなく
 手を引っ張ってここに連れて来られたんだから」
 女の子は屈託のない笑顔で2人を見た。
 「ふふふ、ははっ。ははははっ。こりゃ参ったな」
 佐々木先生が顔を腕で隠しながら笑い出したかと思うと、大きな口を開けて笑いを噴き出した。鈴原と三嶋が茫然と彼を見つめる。
 「いや、悪い。三嶋先生も。突然笑ってしまって申し訳ないです。鈴原、俺も縷々子さ
 んのことに詳しい訳じゃねえぞ。だが知ってる限りのことは教えてやる」
 「ありがとうございます」
 鈴原は深く頭を下げた。
 「ああ三嶋先生も訊いていってもらえますか?この学校で噂になってる『縷々子さん』
 って幽霊知ってるでしょ?その噂のモデルになった少女と私は高校時代のクラスメイト
 だったんですよ」
 「そうだったんですか?知りたいけど、少し怖いかも」
 三嶋先生の顔が恐怖で引きつった。佐々木先生はついでと言った感じで女の子に眼を向けた。
 「お譲ちゃんは退屈かも知れないけど、少し待っててな」 
 少女は無言で頷いた。
 

 4人は図書室に置かれたイスに座った。
 パイプで作られた簡易なもので、座るとひんやりと冷たい感触が伝わってきた。
 テーブルを囲んで各々が顔を合わせると、書庫からアルバムを持ち出して来た佐々木がパタンとアルバムを置いた。
 「何から話したらいいかな。
  うーん、俺が江藤、ここでは縷々子さんと言った方がいいかな。
  彼女と初めて話をしたのがいつなのか、はっきりとは覚えていないが縷々子さんは入
 学当初から男子生徒に人気があってな。
  鈴原も見ただろう?あの顔だったらモテて当然だ。
  彼女は活発なタイプの生徒ではなかった、いやむしろ大人しいタイプの女性だった。
  それでも縷々子さんの人気は絶大だった。
  そんな俺も彼女のファンの1人だった。
  縷々子さんが体育の授業でサーブを打った、授業で当てられた問題を解いた、彼女と眼
 が合った、廊下を歩いていた……。
  とまあ、彼女が何かする度に当時の男子生徒が色めきたってたって訳だ」
 当時を思い出したのか、佐々木がいかつい顔に似会わない照れ笑いをした。
 「そんなマドンナ的存在だった縷々子さんが放っておかれる訳がなかった。
  彼女は数多くの男子生徒から交際を申し込まれていたが、全て丁重に断っていたんだ。
  それでも次から次へと男子生徒が近づいてきては玉砕する。
  縷々子さんは誰にも手が届かない存在だったんだよ」
 「すごいですね、そんなに人気があるなんて。うらやましいなあ」
 三嶋先生が感心した様子で微笑んだ。
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