4 / 42
悪夢
しおりを挟む
「鈴原君、どうしたの?何か顔色が悪いみたいだけど」
後ろから声をかけられて振り返ると、木島竜輝(きじまたつき)が心配そうな表情で鈴原の顔を覗きこんだ。
彼はクラスの男子生徒の中で1番身長が低くて華奢なうえ、中性的で綺麗な顔つきは女子生徒から嫉妬されてもおかしくない容姿だった。
鈴原達が事情を説明しようか考えていると、木島の後ろから更に小さい顔がひょっこりと顔を出した。川原玲子(かわはられいこ)だ。木島と川原は3年生になってから付き合うようになり、川原の容姿は木島以上に幼く、どうみても中学生にしか見えなかった。
彼女はとても大人しく、口数も少ないのでクラスでもあまり存在感がなかった。
黒い前髪をクリップで丁寧に留め、赤色のフレームメガネが印象的な川原は誰がどう見ても怪談話が苦手に見えた。
「いや、受験終わったら皆で旅行でもしたいなーって話。そしたら鈴原が俺と行くのは
ヤダーって。俺の立場ないよ」
敢えて川原を怖がらせる必要もないと考えたのか、笹原が身振り手振りを交えながら重くなりかけた空気を解かした。
その夜、君島は薄気味悪い夢を見た。
彼女は山の中の、整備されていない砂利道に立っていた。その場所に見覚えはない。
風景全体が薄赤い霧で染まっており、遠くが見えないことから考えて夕方ぐらいかと思ったが赤みは夕日のそれとは少し違っており、粘着質な赤みが空からドロドロと流れ落ちているようだった。
気配を察した君島が振り返ると、眼前で男女が向かい合い何やら立ち話をしていることに気付き、驚いた君島は少し後ずさりした。
急激に赤みを強く帯びた霧のせいで顔は分からないが、2人の身振り手振りから楽しそうに会話のやりとりをしているのが分かるが、声は全く聞こえてこない。
2人は近くにいる君島には眼もくれない。いや、見えていないのだろう。
すると、突如小太りの男が後ろから近づいて来たかと思うと、会話をしていた男に対していきなり日本刀で切り付けた。
君島はひっ、と短い悲鳴を上げると腰を抜かして尻餅をついた。
あまりに突然の出来事で手足が震え、後ずさりするのがやっとだった。
小太りの男は地面に倒れ込んだ男の胸や腹を日本刀で何度も突き刺した。
刺された男は最初こそ逃げようと身体をよじらせていたが、刺される度に動きが鈍くなり、やがて動かなくなった。
それでも小太りの男は刺すのをやめない。顔が見えなくても、この男の行動が常軌を逸しているのは明らかだった。
なんてことを……。
こっ、この人狂ってる。
助けて。
助けてっ……。
君島は瞳を強く閉じ、がちがちと震えた両手を祈るように握りしめた。
どれくらい時間が経ったのだろう。1分?10分?いや、10秒も過ぎていないかも知れない。
君島は拒否する瞼を無理やり開いた。
誰もいない。
必死に辺りを見回すと、遠くに人影を認め、意を決した君島は気付かれないよう静かに近づいた。
ようやく動きが確認できる程度の距離まで行くと、木陰から様子を見ることにする。
そこには、さっきの小太りの男と日本刀で切られた男と会話をしていた女、それに見ず知らずの女がいた。
崖……?
あまりに視界が悪いのではっきりとは分からないが、眼を凝らしてみると、三人は崖沿いで話をしていた。耳を欹てても、やはりその声は聞こえてこない。
やがて小太りの男が頷くと、崖下に大きな物を投げ捨てた。
さっき殺された男の人だ。
シルエットのようにしか見えなかったが、君島は直感した。
君島の視線はすぐに他に移った。
殺された男と話をしていた女も何かを持っていたのだ。
君島が思案に沈んでいると、女はそれを顔の高さまで抱え上げた。
抱え上げられた物は必死に動いていた、いや、暴れているといった方が正しい。
君島はそれが何か、すぐに理解した。
子供だった。
5歳か6歳くらいだろうか?幼児は自身の身に危険が及んでいることを本能的に察しているのか、手足をばたつかせている。泣いているのかも知れない。
やめて、やめてあげてよ。
その子は関係ないじゃない。
女は幼児の微々たる抵抗など意に介する様子も見せず、両手で思いきり幼児を振り上げると、勢いよく崖下に投げ捨てた。
ダメっ!
その瞬間、高くて不快な音が鳴り響くと、全身の傷口に大量の塩を塗りたくられたかのような激しい痛みが君島を襲い、彼女の意識は遠くなっていった。
薄れゆく意識の中、君島は確かに見た。
3人を静かに見つめる、縷々子さんの後ろ姿を……。
後ろから声をかけられて振り返ると、木島竜輝(きじまたつき)が心配そうな表情で鈴原の顔を覗きこんだ。
彼はクラスの男子生徒の中で1番身長が低くて華奢なうえ、中性的で綺麗な顔つきは女子生徒から嫉妬されてもおかしくない容姿だった。
鈴原達が事情を説明しようか考えていると、木島の後ろから更に小さい顔がひょっこりと顔を出した。川原玲子(かわはられいこ)だ。木島と川原は3年生になってから付き合うようになり、川原の容姿は木島以上に幼く、どうみても中学生にしか見えなかった。
彼女はとても大人しく、口数も少ないのでクラスでもあまり存在感がなかった。
黒い前髪をクリップで丁寧に留め、赤色のフレームメガネが印象的な川原は誰がどう見ても怪談話が苦手に見えた。
「いや、受験終わったら皆で旅行でもしたいなーって話。そしたら鈴原が俺と行くのは
ヤダーって。俺の立場ないよ」
敢えて川原を怖がらせる必要もないと考えたのか、笹原が身振り手振りを交えながら重くなりかけた空気を解かした。
その夜、君島は薄気味悪い夢を見た。
彼女は山の中の、整備されていない砂利道に立っていた。その場所に見覚えはない。
風景全体が薄赤い霧で染まっており、遠くが見えないことから考えて夕方ぐらいかと思ったが赤みは夕日のそれとは少し違っており、粘着質な赤みが空からドロドロと流れ落ちているようだった。
気配を察した君島が振り返ると、眼前で男女が向かい合い何やら立ち話をしていることに気付き、驚いた君島は少し後ずさりした。
急激に赤みを強く帯びた霧のせいで顔は分からないが、2人の身振り手振りから楽しそうに会話のやりとりをしているのが分かるが、声は全く聞こえてこない。
2人は近くにいる君島には眼もくれない。いや、見えていないのだろう。
すると、突如小太りの男が後ろから近づいて来たかと思うと、会話をしていた男に対していきなり日本刀で切り付けた。
君島はひっ、と短い悲鳴を上げると腰を抜かして尻餅をついた。
あまりに突然の出来事で手足が震え、後ずさりするのがやっとだった。
小太りの男は地面に倒れ込んだ男の胸や腹を日本刀で何度も突き刺した。
刺された男は最初こそ逃げようと身体をよじらせていたが、刺される度に動きが鈍くなり、やがて動かなくなった。
それでも小太りの男は刺すのをやめない。顔が見えなくても、この男の行動が常軌を逸しているのは明らかだった。
なんてことを……。
こっ、この人狂ってる。
助けて。
助けてっ……。
君島は瞳を強く閉じ、がちがちと震えた両手を祈るように握りしめた。
どれくらい時間が経ったのだろう。1分?10分?いや、10秒も過ぎていないかも知れない。
君島は拒否する瞼を無理やり開いた。
誰もいない。
必死に辺りを見回すと、遠くに人影を認め、意を決した君島は気付かれないよう静かに近づいた。
ようやく動きが確認できる程度の距離まで行くと、木陰から様子を見ることにする。
そこには、さっきの小太りの男と日本刀で切られた男と会話をしていた女、それに見ず知らずの女がいた。
崖……?
あまりに視界が悪いのではっきりとは分からないが、眼を凝らしてみると、三人は崖沿いで話をしていた。耳を欹てても、やはりその声は聞こえてこない。
やがて小太りの男が頷くと、崖下に大きな物を投げ捨てた。
さっき殺された男の人だ。
シルエットのようにしか見えなかったが、君島は直感した。
君島の視線はすぐに他に移った。
殺された男と話をしていた女も何かを持っていたのだ。
君島が思案に沈んでいると、女はそれを顔の高さまで抱え上げた。
抱え上げられた物は必死に動いていた、いや、暴れているといった方が正しい。
君島はそれが何か、すぐに理解した。
子供だった。
5歳か6歳くらいだろうか?幼児は自身の身に危険が及んでいることを本能的に察しているのか、手足をばたつかせている。泣いているのかも知れない。
やめて、やめてあげてよ。
その子は関係ないじゃない。
女は幼児の微々たる抵抗など意に介する様子も見せず、両手で思いきり幼児を振り上げると、勢いよく崖下に投げ捨てた。
ダメっ!
その瞬間、高くて不快な音が鳴り響くと、全身の傷口に大量の塩を塗りたくられたかのような激しい痛みが君島を襲い、彼女の意識は遠くなっていった。
薄れゆく意識の中、君島は確かに見た。
3人を静かに見つめる、縷々子さんの後ろ姿を……。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
呪配
真霜ナオ
ホラー
ある晩。いつものように夕食のデリバリーを利用した比嘉慧斗は、初めての誤配を経験する。
デリバリー専用アプリは、続けてある通知を送り付けてきた。
『比嘉慧斗様、死をお届けに向かっています』
その日から不可解な出来事に見舞われ始める慧斗は、高野來という美しい青年と衝撃的な出会い方をする。
不思議な力を持った來と共に死の呪いを解く方法を探す慧斗だが、周囲では連続怪死事件も起こっていて……?
「第7回ホラー・ミステリー小説大賞」オカルト賞を受賞しました!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド
まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。
事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。
一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。
その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。
そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。
ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。
そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。
第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。
表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる