旧校舎の少女

チャロコロ

文字の大きさ
上 下
2 / 42

しおりを挟む
 気がつくと君島は自分の席に座ったままだった。
 寝てしまったのだろうか……。 
 「おいっ、君島」
 はっとして身体を起こすと、同じクラスの鈴原悠斗(すずはらゆうと)が立っていた。
 「いつまで寝てんだよ?」
 鈴原の声にホッとしつつ、言葉を返せないでいた。
 さっきのは夢だったのか……。しかし、あまりにも現実感があった気がした。
 「なになに?咲良ちゃんどうしたの、ひどい顔して」
 気配を察知した笹原雅樹(ささはらまさき)が興味深げに近づいてきた。君島のことを咲良ちゃんと馴れ馴れしく呼ぶのは男子生徒で彼だけだった。
 「あんたと違って勉強してるから疲れてるのよ」
 君島は悪態を付きながら教科書をかばんに放り込むと、勢いよく席を立ったが、立ちくらみがして少しよろめいた。
 「おいおい大丈夫かよ?何か顔色悪いぞ。身体が熱い気もするし、風邪じゃねえのか?」
 心配した様子で鈴原が君島の顔を覗き込む。
 「うん、大丈夫だと思う」
 君島は答えながら、さっきの出来事を思い返していた。
 本当に夢だったのだろうか?
 君島は旧校舎を振り返った。いつもと様子が違う彼女に、2人は首を傾げた。
 「旧校舎が何かあるのか?」
 鈴原の問いに、君島は率直な疑問を口にしてみた。
 「旧校舎の二階って……」
 「うん?」
 「旧校舎の2階って、今は使ってないよね?」
 「ああ、確か2階に上がるとすぐ扉が設置されて、鍵も掛かっているはずだ。あの通り
 古い建物だしな、デブが歩いたら1階まで落ちちまうよ」
 冗談なのか、本気なのか分からない口調で鈴原は応える。
 「変な夢だったかも知れないんだけどね。そこに、そこにね……女の子が立ってたの」
 「そこって、2階にか?」
 「うん。顔は分からなかったけど、長い黒髪が綺麗だったのだけははっきり覚えてる。 
 その娘がこっちを振り返っている途中で、私寝ちゃったの。まあ、最初から寝てて夢を
 見てただけかも知んないけどね」
 「……それって、縷々子さんってやつじゃない?」
 笹原が困惑した様子で『縷々子(るるこ)さん』の名を口にした。
 縷々子さん……。
 君島はその名前に訊き覚えがあった。
 旧校舎に出るという霊の名前だ。
 この高校の生徒であれば、必ず一度は訊いたことのある話だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

呪配

真霜ナオ
ホラー
ある晩。いつものように夕食のデリバリーを利用した比嘉慧斗は、初めての誤配を経験する。 デリバリー専用アプリは、続けてある通知を送り付けてきた。 『比嘉慧斗様、死をお届けに向かっています』 その日から不可解な出来事に見舞われ始める慧斗は、高野來という美しい青年と衝撃的な出会い方をする。 不思議な力を持った來と共に死の呪いを解く方法を探す慧斗だが、周囲では連続怪死事件も起こっていて……? 「第7回ホラー・ミステリー小説大賞」オカルト賞を受賞しました!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...