入れ替わった彼女

隠し事 ３

「しかし、私と佐々木は昨日のクラス会から病院に来るまで一緒にいましたよ。
　もちろんトイレに行った時とかは別行動ですけど」
　「違うんです。佐々木さんが怪我をして病院に搬送されたのは一昨日なんですよ。
　　たまたま通りかかったサラリーマンが倒れている佐々木さんを発見して救急車を呼んだ。
　　その時の彼は出血多量で意識が朦朧としていて、怪我の状態を見た医者が不審に思い警察に通報　してきたという次第です」
　「あいつは……佐々木は何と言っているんですか？」
　佐々木が一昨日に怪我をして病院に搬送されていた？そんな事実は知らない。
　昨日の腹痛も怪我の傷口が開いたことによるものということか。
　「それがですね……。手術が終わって事情を訊こうとした時には、彼は病院から抜け出して、いな　くなっていたんです」
　「あいつ、何でいなくなったんだろうなぁ。
　　いえね、あいつと私は中学時代からの同級生なんですけど、人に恨まれるような奴じゃないです　よ。通り魔的な犯行なんですかね？」
　「私達も当然それを疑いました」
　「でしょうね」
　「しかし、それなら何故佐々木さんは事情も話さずに病院からいなくなったんでしょうか？
　　それに、佐々木さんの刺された場所です」
　「刺された場所？」
　木村刑事が伊藤刑事を見ると、その刑事は手帳を取り出して説明した。
　「佐々木さんは腹部を約１５センチの深さで刺傷しています。
　　刺傷とは簡単に言うと、包丁やナイフなどの鋭く尖った物で刺されたことを意味しています。
　　殺人未遂あるいは傷害事件の疑いが高いと判断した我々警察がすぐに現場付近で凶器の捜索をし　たのですが、血痕があるのみでその発見には至りませんでした。
　　付近住人の目撃証言によると、男女が怒鳴り合っているような声が聞こえてきたので外に出る　　と、急いで走り去っていく女を見たという目撃証言があります」　
　「その女が佐々木を刺した犯人だと？」
　「ええ、女の手には光る物が見えたと言っていたことからも、凶器を持って逃走したと考えるのが　妥当だと考えています」
　伊藤刑事が手帳を閉じながら頷いた。
　「分かりました。
　　じゃあ私が佐々木を引っぱたいてでも事情を訊いて、警察の方に本当のことを話すように言って　おきます」
　「そうして頂けると助かります」
　木村刑事が私が手にしているコーヒーを飲むよう勧めたので、一口飲むと更に続けた。
　「あとですね、これはあくまで私の推測に過ぎないんですが、この事件は佐々木さんの顔見知りに　よる犯行ではないかと思っているんです」