入れ替わった彼女

チャロコロ

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君は誰? 5

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 その力は次第に強くなってくる。
 彼女は笑っていた。
 顔だけ眺めていると惚れ惚れするほど美しかったが、彼女の突飛な行動とのギャップが背筋を凍らせる。
 「ふふっ、ふふふふふふっ」
 今まで訊いたことのない笑い声を上げながら、ぞうきんを絞るように手首を絞めつける。ギリギリと骨が砕かれる音が聞こえてきそうな勢いだ。
 言いようのない恐怖が襲う。力では私の方が強い。
 そんなことは分かっている。だが、恐怖心というのはそんな単純なものではない。そんな思いを強く実感した時、遥が俯いて何かを呟いた。思わず訊き返す。
 「……よね?」
 「なっ……、何?何だよ」
 「……よね?」
 言葉を聞き取れない。
 「何?はっきり言ってくれ」
 遥は顔を上げると、はっきりした口調で言った。
 「何も見てないよね?」
 カバンの中を覗き見た時の遥の顔がフラッシュバックのように脳裏をよぎった。
  彼女はやはり気付いていたのかも知れない。
 「何も見てないよ、安心しな。それとも何か見られたらまずい物でも持ってたのか?や
 ばいクスリだとか……。そうだとしたら、俺は相手が誰であっても警察に通報してるぞ」
 落ち着いた声で言った。遥は動きをとめると、私の手首から手を離した。
 「ううん、少し気になっただけ。おやすみ」
 遥は踵を返すと何事もなかったように帰っていった。彼女の後ろ姿を見送ってから扉を閉めるとすぐにU字ロックをかけた。
 その後ロックが掛かっているか何回もチェックしながら、ドアスコープを覗いて彼女が戻って来ていないか確認した。
 遥が戻ってくる様子はない。帰宅したようだ。ベランダのカーテンの隙間から外を見ると、遥が私の部屋を見上げていた。その眼は見開いており、繰り返し何かを呟いていた。カーテンに身を潜めながら同じ動きをする唇の動きから必死に言葉を読み取る。
 さない、さない、さない、さない、ゆるさない……。
 許さない。
 ユ・ル・サ・ナ・イ
 彼女に合わせるように同じ言葉を口にすると、頭から冷水を掛けられたかのような悪寒が走り、勢いよくカーテンを閉めると床に座りこんだ。
 はあ、はあ、はあ、という乱れた息遣いと共に「何も見てないよね?」という彼女の言葉が重くのしかかる。
 許さないというのは、私がカバンを見たことに対してだろうか?あるいは他に何かがあるということか……。
 どちらにしろ、今日の遥の行動は異常だった。
 彼女の迫力に私は咄嗟に嘘をついた。いや、嘘をつくしかなかったんだ。そう自分に言い聞かせた。
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