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第3章 好意。

18 片思い。

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 僕達はヴァッシュ家に着いて直ぐ、応接室に通され、サミュエル令息を待つ事に。

 そして、彼が直ぐに来たかと思うと。
 僕を見やり、涙目に。

《僕が、誰よりも先に、アナタに目を付けていたのに》

 全く嬉しく無いんですが、僕の予想が当たってしまいました。
 その驚きが先に出て、それこそ強く出てしまい、暫し困惑し固まっていると。

「初めましてサミュエル様、アニエス・ジュブワと申しますが、何処かでお会いしましたでしょうか?」

 アニエス令嬢が迎撃を。
 流石、慣れてらっしゃる、僕も見習わなくては。

《確かに面識はないですが、アナタの良さに先に気付いたのは僕なんです。もっと貞淑で思慮深い方だろうと思っていたのに、どうして騎士からあんな演技紛いの口説き文句で、落ちてしまったんですか》

 僕が相手にしている女性も、ですが。
 どうして、ご自分が相手と交流を深めていたと主張する様に、自分の知らぬ間に相手と誰かが交流を深めているかも知れないと思わないんでしょうか。

 見えない場所で行われた行為を無視出来る、ある意味では、そうした才能が有る特殊な方なのかと。

 ですが、こうして2人目がいらっしゃる。
 この方も僕が相手をしている方も、真面目で真剣でらっしゃいますし、ある意味で揺らぎが無い。

「あの、既にお相手の方のご家族とも会わせて頂いて、あの時には既に婚約は成立していたのですが」
《では、なら、僕を傷付ける為ですか。どうして》

 物語を読んでいる時、こんな場面ではこうしよう、ああしようと考える事は簡単なんですが。
 いざ、目の前にしてしまうと、やはり困惑が勝ってしまう。

「私としては全く面識も無いですし、傷付ける利も損も無いのですが、どうしてそう思われるのでしょう」
《僕は、卒業を機に婚約を申し込もうと、準備していたのに》

「私には全く推し量れない事なのですが、どう、配慮す」
《アナタは見事に耐えていました、そして下位から上位へと諫言もした、見初められないと思う方がどうかしています》

『あの、幾ばくかの理屈は分かるんですが、どうしてアナタに見初められるだろう事が彼女に想定出来たんでしょうか』
《同業他種ですし、僕は品行方正に過ごしていました、そして外見も似ている。アニエス令嬢が選ぶべきは僕、僕がアニエス令嬢を見い出した様に、アニエス令嬢も僕を見い出すべきだったんです》

『全く関わりの無い者には、流石に難しいかと』
《アニエス令嬢は優秀です、だからこそ王太子殿下が見初めたとの噂も信じられていた、アナタはアニエス嬢が優秀だとは思わないんですか?》

 凄い、どうして、こうした方々は統一された思考をしているんだろう。
 隙あらばコチラを責める、まるで相手を知らない、理解していないのだとコチラを責める。

 分からない、全く意味が分からない。

『僕は理解しているつもりですが』
「優秀だと思って下さるなら、どうして騎士爵との婚約を歓迎して下さらないのでしょうか。物語ですら相手の幸せを願います、ですが何故、人を雇い私に嫌がらせを」
《嫌がらせでは無いんです、ただ、話し合いがしたかっただけなんです》

「話し合いでしたら」
《全く面識が無い僕に会い、僕の諫言を受け入れてくれましたか》

 冷静さと狂気が混在している。
 何故、どうしてこの様になってしまったんだろう。

 いや、好いているからこそ、こうして理屈で固めているに過ぎないのかも知れない。

『お好きだからこそ、でしょうか』

 幾らアニエス令嬢が優秀でも、騎士爵と勲功爵は同等。
 爵位の差が有り、周囲への説得には何かしらが必要となる。

 確かに彼は根回しをしていたかも知れない、けれど、気持ちを伝えなければ。

「どうして、お伝えして」
『周囲の説得に失敗しては傷付けてしまう、真剣でらっしゃったんですね、本当に』

 きっと、人をやった事も、本当は嫌がらせの意も含んでいた筈。
 発露させる場所も無い気持ちの矛先が既に自身を傷付けている、そうして鬱憤も溜まり、相手を少しだけ傷付ける事に繋がってしまった。

 全ては、振り向いて欲しいが為。

《どうして、待っていてくれなかったんですか》

 今なら、少しだけ以前のメナート様の事が分かる気がします。
 先ずは気持ちを知って欲しかったんですね、結果よりも先に。

「ご実家がご商売をしてらっしゃるならお分かり頂けるかと思いますが、案だけで従業員の気持ちは動きません、意を伝えて頂けなければアナタ様でも察する事は不可能かと」

 どうしてバスチアン様が僕に意を伝えたのか。
 それは全ての状況が整い、後は伝えるだけ、となったからこそ。

 そこまで、バスチアン様が僕を思っていた。
 いや、想ってくれている、今も。

『仮に、待って頂けるとしても、アナタならもっと何か出来た筈です。その事を良く分かっているからこそ、後悔から人を差し向けてしまったのかも知れない、先ずは謝罪しご両親にお話し下さい。でなければ僕が父に言います、どうか賢明なご判断をなさって下さいサミュエル令息、アニエス令嬢の為にもお願い致します』

 彼もまた、無意識に無自覚に問題から目を逸らしていた。

 そう目を逸らし続けたまま歩けば、いつかは道を逸れてしまう。
 それは僕ら子供にも、大人にも起きてしまう事。

 そして、情愛に目を逸らされてしまうのは、誰にでも起こってしまう事。

《申し訳御座いません、ジュブワ男爵令嬢》



 事実は小説よりも奇なり。
 ガーランド様が言った通り、横恋慕でしたが。

 流石にコレを避ける手段は、無いですよね?

「あの、ガーランド令息」
『はい、どうしましたか?』

「コレは、どう、避けられたのかと」
『いえ、無理かと。関わりが有るなら兎も角、全く接触の無い方の事を察するのは不可能ですよ、気取る方法が無いんですから』

「ですよね」

 取り敢えず、サミュエル様のお母様から謝罪頂きましたし、後は親が対応する事。

 そうです、問題はガーランド令息の用事ですよ。
 今回は直ぐに解決しましたし。

『あぁ、騎士爵の事ですね』
「いえガーランド令息の事ですよ、アーチュウ様に関しては解決してからでお願い致します、あの様な方に関して私は不得手ですから」

『ですが見事にいなしてらっしゃいましたよ、迎撃のされ方が実に見事でしたから』
「アレはお店に来る無礼な方のお陰なんです、さも知り合いだから値引きしろと無茶を言う方もいらっしゃって、ですので実戦の成果とも言えますね」

『成程、既に実戦をこなしてらっしゃるから』
「それよりガーランド令息の用事です、どの様な件でらっしゃるんですか?」

『少し、着いたらお時間を頂けますか』
「はい、勿論ですよ」

 そして、家に着き報告を終え、庭先でどの様な件かをお聞かせ頂いたのですが。

『どうすべきかと悩んでいたのですが、半ば解決してしまったので、問題はアニエス令嬢がどう思うかだけですね』

「解決?」
『僕は全く気付かなかったんですが、その間に根回しをしてらっしゃったそうで、それだけ思って下さったんだと納得したんです』

「あぁ、サミュエル令息の件で」
『はい、ですので後はアニエス令嬢がどう思われるか、ですね。全てを理解し合う必要は無いですが、適切な距離を保つのは情報共有が必要ないですから』

 貴族の上位、それこそ最高位でらっしゃる王こそが、受け入れるべき問題。
 女性が受け入れられない場合、男性に手伝って頂くそうで、シリル様から聞かされた時は非常に驚きました。

 そして何故アーチュウ様に婚約者がいらっしゃらなかったのか、その理由も念の為の予備だと言われ、アーチュウ様が愕然としてらっしゃいましたけれど。
 アレは流石に冗談かと。

 どんな事をしてもミラ様を手に入れる、それがシリル様ですし、他にもご姉弟がいらっしゃいますし。

「子が成せない非生産的な情愛だとされていますが、もし私がどなたとも子を成せないなら結局は同じ事ですし、それでもお2人が。ご両親も納得させられるのでしたら、特に問題は無いかと?」

『それこそ、生理的嫌悪は』
「男性なら兎も角、寧ろ私は安心すれど嫌悪する立場では無いかと、それとも男女共にお相手出来るのですか?」

『僕自身でも、どう、なのか』
「あ、どちらにもご興味が無いのでしたら無理にお付き合いする事は無いかと、そうした方もいらっしゃるのだと先生から伺っておりますから」

『そうした事にも理解の有る方なんですね』
「はい、皆が皆妊娠しては集団を守れませんから、一定の割合で出る必要な存在。だそうです」

『成程』
「宜しければ会ってみませんか?とても面白い方ですよ」

『ありがとうございます、では、少しだけ』
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