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第2章

35 秋よ、去れ。

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《まぁ、ワシがロウヒじゃよね》

 うんうん、と頷いているのはパトリック。
 黙って固まっているのがキャサリンで、ウォルターは。

『薄々、ですがまさか、と』
《だって神話とか寓話そのものだもんね》
《そこはアレじゃよ、古典は踏襲しとくべきじゃろ?》

「え、じゃあ、この家は?」
《本物じゃよ、本物のワシの家じゃて》

「でも、じゃあ、お孫さんは」
《そりゃ居るぞ、代々血縁者からロウヒは覚醒するるでな、長生きがワシの使命でも有るんじゃよね》

「だとして」
《来客用じゃよね、本来の家は別に有るでな、助かったぞい》

「なん、もー、じゃあ可哀想なおばあさんは居なかったんだよね?」
《じゃの!》

 事の発端は、何気ない会話からだった。
 何処に行くのか、何をしに行くのかおばあさんに聞かれて、家も綺麗になったし本当の事を言って去ろうと思って。

 全部、正直に言ったら。
 こうなって。

「はぁ」
《うむ、実に真面目じゃったよね、好感触じゃよ》

「もー、恥ずかしい、何かもう本当、恥ずかしい」
《何を恥ずかしがる事が有ろうよ、真面目で親切で思い遣りが有り、ワシの気持ちに寄り添ってくれたで。じゃからこそ、こうしてネタバレしたんじゃし》

「何か、凄く、弄ばれた気分」
《まぁ、仕方が無い事じゃな、半分は弄ぶ気じゃったし》

「もー」
《ほれほれ、パンケーキを焼いてやるでな、機嫌を直せ》

 神様だって分かったけど。
 頭を撫でられる手は、おばあさんの手だし、感触だっておばあさんが撫でる感触で。

 なのに、神様だって。

「それ、手伝った方が良い?」
《体は人間じゃからね、頼むぞい》

 そう言って僕とキャサリンがパンケーキを焼いてる間に、アイス作って添えてくれて。
 それからロウヒとは何か、教えてくれて。

「そうなると、魔道具の管理人って感じじゃない?」
《じゃの、イルマリネンが好き放題に作る魔道具の管理、じゃな》

「そのイルマリネンさんは?」

《あぁ、流石に見えぬか、ずっと居るぞぃ》

 ロウヒおばあさんが指差した先には、空のお皿。
 置いた記憶も無いのに、何か違和感が。

「認識、阻害の魔法?」
《その原型じゃな、本来ならば神と単なる人の接触は禁止じゃて》

「でもロウヒおばあさんとは会えてるじゃん?」
《そりゃ皮は人間じゃし、繋ぎが居らんと困る事も有ろうよ》

「え、じゃあ転生者の為?」
《そこまでは言わんよ、好き好んでこうしとるんじゃよ》

「こう、って」
《イルマリネンの花嫁じゃよ、のう、旦那様や》

 その視線の先に目を向けると、お皿の上に、ピアスが3つ。

「アレ、有った?」
《今出したんじゃよ、ソレがお主らの願いの品じゃ》

「え、でも、僕、何もしてないんだけど」

《物語じゃったらゲットしとる流れじゃろ》
「でも対価は?作るのだって大変でしょ?」

《良く育ち良く栄えれば宜しい。その為には却って役目だ役割だと有れば、妨げになろうよ、お主らの義務こそ繫殖じゃ!》

「繫殖て」
《アレじゃ、善玉菌じゃよ、悪玉菌を凌駕する善玉菌で悪を駆逐じゃ》

「そんな、いや子育てが簡単とは言わないけど」
《そこじゃよ、如何に良い子を育てるか、難しいのは良く分かっておろう》

「まぁ、そうだけど」
《全時代、全世代の課題じゃ。それこそ神も仏も分け隔てなく、如何に難しいかは分かっておるで。何事も適材適所、先ずは月経に慣れる所からじゃな》

「あぁ、それに悪阻とか、陣痛もだよね」
《大丈夫じゃて、慣れる忘れる何とかなるでな。ほれ、臍か舌か出せ出せ》

「あ、はい」

 妊娠する事を考えると、どうしても舌を選ぶ事に。
 クッソ痛かった、マジで。



《ふむ、実に愛らしいのぅ》

 僕もウォルターも見惚れてて、すっかりキャサリンの事を忘れてたんだけど。
 彼女、女色家なんだよね。

《イーライ様、私も仲間に入れて下さい》

「んー、キャサリンは何か違うんだ、ごめんね」

 そう言われ、キャサリンは僕らの方を見やると。
 満面の笑みで。

《驚きましたか》
《もー、本当に心臓が止まるかと思ったよ》
『冗談が過ぎる、止まったぞキャサリン』

《女なら何でも良いワケでは有りませんが》
《ごめんよ、うん》
『すまなかった』

《ふふふふ、実に面白いのぅ。どうじゃ、お主も要るか?》
《いえ、未だに彼らの様に想える相手が居りませんので、どうか他の者にお与え頂ければと思います》
「本当に良いの?」

《そうなったら、また尋ねさせて頂こうかと》
《ふむ、来訪を許してやろう。良い仲間に恵まれたの》
「はい」

 安心したからか、またイーライを眺めちゃって。

 ムチムチだな、可愛くなったなって。
 そんなに変わって無い筈なのに、凄く可愛く見えて。

《ふむ、成程、確かに髪が問題じゃな》
「あー、伸ばす文化が無かったからなぁ」

《そこはまぁ、辻褄合わせも神の仕事じゃよね、ほれココにお座り》
「はい」

 いつの間にかロウヒが持っていたクシで、イーライの梳くと。

《凄い、キモイ》
《凄いですよイーライ様、クシから毛が生えるみたいに伸びて》
「えー見たい見たい」
《まぁまぁ、待つんじゃ待つんじゃ》
『長めで頼みます』

《勿論じゃよ》

 長い髪のイーライはもう、可愛くて可愛くて。

《孕ませたぃ》
《待て待て、コレはまだ下準備じゃ。そうじゃな、お主らは風呂でも沸かしておけ》

《行ってくる》
『任せた』



 イーライの髪を伸ばしたかと思うと、今度はハサミで切り落とし。

《カツラを作るでな、予備じゃよ予備》
『成程』
「あぁ、はい」

 そしてもう1度、髪を梳き始めると。

《痒いじゃろ、頭》
「さっきもだけど、今はマジでヤバい」

《じゃよね、全員の準備が整ってからじゃ。ドレスの用意は有るんじゃよね》
《はい、出してきます》

 そして部屋には、私とイーライとロウヒだけとなり。

《先人達が望んでおったのは、平和、平穏。それに差異の無い外見じゃ、混ざれば混ざる程、整った見た目になるんじゃろう》

「あぁ、確かに記事を見たけど」
《見目が良い者の使命は、産めよ増やせよ。じゃがな、適さん者も多いで、誰にでも出来る事では無い。お主らには、ある意味で立派な役割が有るんじゃ、焦り気負う必要は無いでな。暫くは好きに過ごすと良い》

「そう言われると、身が持ちません」
《お盛んじゃからなぁ、少しは飽きられる心配をせい?》
『あ、はぃ』

《冗談じゃよ。じゃが少しは加減してやらんとな》
「そうだそうだ」
『善処します』

 それからイーライが風呂に入っている間に、順番に髪を伸ばし、切り落とし。
 そうしている間に。

「凄い、いつの間に。ありがとうございます」

《くふふふ、キャサリンや、消化に良い料理を教えてやるでな、暫く好きにさせてやろう》
《はい》

 離れに行くまでの僅かな間。
 イーライがぎこちなく歩き、動いているだけで。

『誰かを孕ませたいと思える日が来るとは、思わなかった』
「まだ旅の途中だから今度ね?」
《じゃあ変身を解いて、じゃないと襲っちゃう》

「解いたら襲わない?」
『《襲う》』

「ですよねぇ」

 女性の服を着た、長い髪のイーライは。
 男であれ女であれ、相変わらず可愛い姿のまま。

 妖艶で、愛らしく。
 孕ませるべきだとしか思えない。
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