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更に更に、その後。
ガーゼガーデンパーティーサーガ。
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快晴の中、前回のお茶会から2週間後、夜会から1週間後の今日。
修道院の庭園で、私名義ローシュ様発案のモスリンドレスパーティーが開催された。
『ローシュ様の用意したアジアのモスリン、シャリシャリしてて軽やかだって好評ですね』
「フランソワ、様、無し」
『じゃあ、お姉様』
「却下」
『えー』
「何なのよ?」
『尊敬を表したいんです』
「十分頂いております、ほら、見回りを再開させて」
『ふぇい』
パンドラ物語の事をアーリスさんから聞いて、私もフェルナンデスも箱に残ったのは希望だ、と答えた。
そしてローシュ様の答えを聞いて、コレはもう、尊敬に尊敬を重ねて表したいのに。
『フランソワ』
『アーリスさん、何か?』
『クララが来ちゃってる』
『えー、招待状は出してないのに、誰と?』
『教会側から、謝る機会にって』
『誰に、なんでしょうね』
『そこは確認した、ローシュとフランソワだって』
『ぎゃふん、って言わせたいんですが』
『どっちに?』
『両方デス』
『だよね、じゃあ、コッチで用意した手順で良い?』
『えっ、用意してたんですか?』
『ローシュがね、念の為にって』
『流石です、お姉さ』
ガブちゃんから事前に聞かされてたから良かったものの、修道女と言うかシスター連れのクララちゃんが特攻して来たので、先ずは私だけで対応する事に。
『先日は』
「貴女から謝罪を頂いても、絶対に許しません。後は何か?」
《ですがローシュ嬢、ココは慈悲の》
「心にもお金にも時間にも限りが有るんです、許さないと心が狭い、と仰っしゃりたいなら勝手に仰ってて結構。お好きに広めて下さって構いませんよ、但し、コチラも相応のお話をさせて頂くだけ。後は何か?」
《神は隣人を》
「許さぬ者、赤き衣を纏った者を非難なさるので?」
《それは、それは詭弁と言うんですよローシュ嬢》
「ほう、では詭弁はどちらか。知り合いに枢機卿や大司教を努めてらっしゃる方が居るので、そうですね、直ぐに呼びますので暫くお待ちになってて下さいね」
《いや、何もそこまで》
「貴女が判断なさるんですかシスター。それは本当に、正しい事だと?」
《アナタは彼女に何を要求なさりた》
「何も、得るモノは何1つ有りませんし、害虫になりそうな羽虫なので消えれば良いとは思ってはいますが。こんな愚かな子でも死ねば悲しむ親御さんが居ると思うと、やはり何も無いですね、要求する事は何も無い」
《何も、そこまで》
「ソチラの味方をしながら仲裁者気取りですかシスター、偽預言者は断罪されるのですよね、大丈夫ですか?」
《偽預言者などと、誹謗中》
「開き直りに来た、と。少しお待ち下さい、今直ぐにアナタの上を呼んで参りますから」
事前に知れていたからこそ、ブランコヴィッチ家とネマニャ家から事前に紹介して頂いた枢機卿と、アウグスティヌス大司教を既に呼んでいる。
本当だと思っていないのか、ドアを閉める間際、脅しや権力には屈しない。
だとか言っていたのに。
《申し訳御座いません、彼女が、あまりに不憫で》
『ほう、どの様に不憫なのでしょうかね』
《婚約者になる筈っ》
『すみませんシスター、もう良いんです、私が悪かったのです、だからもう』
『いえ、コレは名誉に関わる事ですので詳しく調べさせて頂きます』
《それにですね、そもそも不憫だからと言って泣き付く者全ての要望を受け入れては、統治は不可能なんですよ。そう味方の少ない領主の味方となるのが教会の仕事でもあると言うのに、下調べもせずに泣き付かれ茶会を台無しにするとは。すみませんロッサ・フラウ、またしてもご迷惑をお掛けしました》
「いえいえ、愚か者だと知らなかったのでしょうから、コレを引き取り以降は見合った者を配置して下されば結構ですよ」
『ありがとうございます』
《お気遣い感謝致します》
後は、親御さんの方よね。
『この度は』
「先ずは彼女をどう処分なさるのかをお聞きしてから、謝罪を聞くかどうか判断を下します」
『降格し男爵位となり、再教育が叶わぬ場合、爵位の返還をさせて頂きたく』
「再教育の内容を詳しく」
『先ずは、家で侍女の仕事、労働を課し、日誌を書かせようかと』
「最低でもいつからいつまで」
『2年、お時間を頂けませんでしょうか』
「何故、どうして、子育てが失敗したのだと思いますか」
『あの子は手の掛からない、素直な、良い子だと。悪い噂は妬み嫉み、そう、誰も真剣に考えてはいませんでした』
「家では良い子だった、と」
『はい』
「可哀想ですが、子供も所詮は他人、責任有る立場に居ながら見抜こうとなさらなかった。そんな方に重責は任せられない、残念ですわ、上質なアヒルが害虫を産んでしまった事が残念です」
『申し訳御座いませんでした』
欲望を叶える為、自分が小さな嘘だと思えば、許されると何故か思ってしまった子。
可哀想と言えば可哀想だけど。
『そんな、何もココまで』
「罪を犯した側が罪の重さを測る、それでは正義が成されないのでは?」
『アナタ、私の若さに嫉っ』
『失礼しました、徹底して家から出さぬ様に致しますので』
「出来なければ死が待っていると、本人だけでなく周りにもしっかりとお伝え下さいね、でなければ血筋が途絶える事になりますから」
『はい』
ドラマや映画で、いつも不思議だったのよね。
どうして理不尽な罵りを誰も止めないのか、私だったら殴るか何かして途中で止めるのに、って。
アレ、逆に敢えて言わせて、周りも同意しているって言う演出なのかしら。
いや、でも。
『ローシュ?』
「ぁあ、アーリス、大丈夫よ何でも無いわ」
『嘘、何か考えてた』
「もし、私が誰かに罵られたら」
『言い終える前に、殺したらダメ?』
「気絶位にしといて、意外と死が救いの者の可能性も有るから」
『うん、分かった、見回りに行ってくる。もう少し休んでて』
「お願いね」
《お見事でしたな、ロッサ・フラウ》
「ココでは違う名なので、どうかローシュと」
《ぁあ、失礼致しました》
「いえいえ、コチラこそ、面倒だからとお呼びしてすみません」
《ふふふ、いえいえ、面白い催しにも参加させて頂いて、寧ろ我々にご協力頂いてしまったも同然。コチラに来る機会を与えて下さり感謝しています、まだまだ、身勝手な者を全て反省させるには至っておらず》
「数が多いんですし、浅い部分で問題が起きていたら既に処分なさっているでしょうから。コレは多少の問題が起きてこそ、問題の無い地区であれば見抜くのは難しい、ご苦労が絶えないでしょうに」
《全くで、にしても本当にコレは涼しいですな、軽く柔らかく張り付かない》
「カフタンは砂漠の服装ですから、寝間着に如何ですか?」
《助かります、ですがマルティンに羨ましがられてしまいますので》
「あら、何色がお好きでかしらね、マルティン大司教」
《変わり者と思われるかも知れませんが、緑色が好きなのですよアレは》
「青色、緑色に囲まれていますものね、分かりますよ、私も青や緑が好きですから。後で用意させますので、どうか忌避無きお言葉を頂けます様に、枢機卿にも宜しくお伝えください」
《はい》
色への感覚がココも同じなのよね、何故か黄色は愚か者の象徴、特に黄色と緑の組み合わせは道化師色だとも言われてて。
紫や白は高級色、特に貝紫はどっちでも作るのが大変だし。
ただ青だけは鮮やかさや濃淡で格の違いが出る、濃くてムラが無い程に格が高い。
淡い色やグラデーション、ムラ染めは失敗だったり安い品物として扱われるからこそ、貴族は原色が基本。
そしてココでも特別な時の衣装は濃い色が良いとされてる、洗いまくって色落ちしてるのは流石に染め直すか、寝間着か作業着か。
と言うか色味が少ないのよね、赤か白か黒か青、緑色は需要が少ない。
好きなのだけどね、グラデーションとか薄い色とか。
あ。
「ルツ、贅沢をしたいの」
こうお願いされてしまうと、何でも叶えてしまいたくなるのですが。
《どの様な事ですかローシュ》
「あの織りより、もっと薄いレースを何枚も重ねたドレスが見たいの」
着たい、では無いんですよね。
《どなたに着せるんですか?》
「あ、誰が良いかしらね」
《着ないんですね?》
「着たら良く見れないでしょ?」
《ではアーリスに着せましょうか》
「良いわね、目の色と合う筈」
《青色ですか?》
「青と緑の、あの涙壺みたいなドレスが見たいと思って、フワフワのを重ねるの」
《相当の技術が必要そうですね》
「あー、そこよね、しかも贅沢に何枚も薄布を重ねるし。やっぱり難しいかしら」
《各所で王族の要望だとでも言って作らせ、ウチで縫わせれば問題無いかと》
「そこはもうお願いするわ、お金は幾らでも出させるから、宜しくね」
《はい》
そして、この話に興味を示したのが。
『素敵なドレスになりそうですよね』
《ローレンス、クララ嬢が排除されたからと言って油断しないで下さい》
『大丈夫ですよ、視線は周りを見てましたし。結婚式用のドレスを仕立てるのかと思って聞いてたんですけど、違いそうですね』
《ローシュは結婚式には興味が無いので、無いですね》
『その割にはフランソワと話し込んでましたよ、着るなら白以外だとか、花束と花冠は同じのが欲しいとか。少ない数なら楽しそうだとかも、本当に興味が無いんですかね?』
《確かに、少ない数でならとは、ですけど記憶が戻ってからローシュと》
『ルツさん、それ受け身が過ぎますよ、何でも合わせれば良いってもんじゃないんですから。先んじて用意するのも気配り、真心だと思いませんか?』
《それは、君がしたいだけでは》
『そらしたいですよ、それこそ盛大に、各国でしたい位に。だって自分のだ、自分は相手のモノだって示せるんですよ?言葉で説明しなくても分からせられる、自慢出来る場なんですから、何回でもしたい位ですよ』
《ローシュが結婚式が好きなら、ですけどね》
『参列は好きだそうですよ、見るのは好き、大勢を相手にするのが嫌なだけでは?』
《良いですよ、君が先にしても、私の思いがいつ叶うか分かりませんし》
『何か、拗ねてます?』
《私とローシュなら、どうしても大勢の前で式を行わないといけないんです、少数をと叶える事は不可能なんですよ》
『ココでも?』
《ココでなら、まぁ、少数でも可能ですが》
『何度でもしたら良いじゃないですか、信じて貰えるまで、気に入って貰えるまで改良する』
《飽きる程、する事では》
『それ、誰が決めたんですか?』
《確かに、決まりは存在してませんが》
『まぁ、独断で決めるのは勇気と時間が必要ですしね。じゃあ、見回りに行ってきますね』
どうしても、喜ぶローシュの姿が思い浮かばない。
義務感から愛想笑いを浮かべるか、無表情か、不機嫌か。
『どうしたのルツ?』
《ぁあ、アーリス、ローレンスに少し言われて考えてたんです。結婚式の事を》
『する?』
《あのローシュが喜ぶと思いますか?》
『お肉のドレスでも着せたら喜ぶかもよ?』
《それは流石に、寧ろ君が喜ぶのでは?》
『ううん、別々が良い。って言うか冗談なのに、やっぱり気になる?バカだと思われてるかどうか』
《コレが終わるまで、と思ったんですが、不安で堪らないですね》
『有り得ないと思うんだけどな』
《私も、半分はそう思ってます》
『と言うか何で結婚式の事になったの?』
《ぁあ、ローシュがドレスをと、見る目的で欲しいと言って来たんです》
『珍しい』
《それをローレンスが聞いていて、ですね》
『何色?』
《薄布を何枚も重ね、青と緑の、涙壺の様なドレスだそうです》
『へー綺麗そう』
《君に着せるそうですよ》
『えー、ローシュに着せようよ、それこそ結婚式に使えば良いじゃん』
《少数でも、断られたら死ねるんですが》
『じゃあ2人だけでしたら?』
《それこそローレンスにも言ったんですが、記憶が戻ってからの方が良いかと》
『2人で決めたい?』
《と言うか、したくないなら、無理強いはしたくないんです》
『じゃあ、別にどっちでも良いって言ったらどうするの?小さい規模なら任せる、どっちでも良い、って』
《それは、凄く困りますね》
『ルツはしたい?』
《私は、喜ばれないなら、したくないです》
『喜ぶ事なら何でもしたい』
《はい》
『けど今回は中間だから難しい、間違ったら嫌われちゃうかも、だから凄く怖い』
《はい》
『それ話し合うのも怖い?バカっぽい?』
《はい、恋愛で悩む事自体が愚かだと、今も。兎に角、気を遣わせたり嫌がられる事は全て避けたいんです、もう失敗をしたくない》
『それやっぱり話し合うべきだよ、じゃあね』
僕はローシュに嫌われる心配が無いから、ルツの相談にちゃんと乗れてない気がする。
『そもそも、ルツが嫌いじゃなくて、ルツがした事が嫌いなんだと思うんだけど』
『俺もそう思いますけど、それ、俺に言わずにルツさんに言うべきじゃ?』
『あ、確かに、言って無いや』
『もー、羨ましいなぁ、気持ちが分かるって凄く羨ましい』
『けど悲しいのも伝わって来るよ、全部、強いと強く伝わって来て。ルツが起きないって知った時なんか、ずっと涙の匂いがしてて、干からびるか溺れるかしちゃうんじゃないかと思って心配だったんだからね?』
『そんなに泣くって、好きじゃないと無理ですよ、普通』
『なのにね、何か急に、凄く怖がりになっちゃったんだよね』
『自信が無さそうですよね、あの感じ』
『僕はルツやローレンスみたいに物知りじゃないのに、ローシュは愚かだとか言わない。なのに、何が心配か分かんない』
『愚かな自分を愛されるのが嫌なんじゃ?』
『えー、ローシュも似た事言ってたけど、カッコつけても変わらなくない?』
『多分、今までの自分が逆に否定されるから嫌なんですよ、ずっと間違ってたのを認める事になるんで』
『でも事実じゃん?』
『だから時間が掛かるんですよ、昔の間違いも思い出しながら修正してるので、間違いを見られるのは恥ずかしい』
『でもローシュだよ?パルマ公すら可愛いとか言うローシュなのに』
『1つ愚かだと全て愚かなのかも知れない、他に指摘される前に治したい、今までの全て』
『あー、僕で10年ならルツは30年とか、倍以上だもんね、そっか』
『それ本当なんですか?俺の倍がローシュで、その倍がルツさん』
『うん』
『熟成された童貞』
『一応本当はもう違うんだけどね?』
『それで、与えられて取り上げられて、死ねる』
『だよね、ずっと目の前で待てって、はち切れちゃいそう』
『ぁあ、暴発したんじゃ?』
『あぁ、そうなのかもね、この前珍しく僕より先に起きてたし、確かにその日からかも』
『良い年して夢精は泣ける』
『しかも悪夢でとか、かもね』
『あー、生きてるのが奇跡』
『無事に終わらせないと』
『ですね』
修道院の庭園で、私名義ローシュ様発案のモスリンドレスパーティーが開催された。
『ローシュ様の用意したアジアのモスリン、シャリシャリしてて軽やかだって好評ですね』
「フランソワ、様、無し」
『じゃあ、お姉様』
「却下」
『えー』
「何なのよ?」
『尊敬を表したいんです』
「十分頂いております、ほら、見回りを再開させて」
『ふぇい』
パンドラ物語の事をアーリスさんから聞いて、私もフェルナンデスも箱に残ったのは希望だ、と答えた。
そしてローシュ様の答えを聞いて、コレはもう、尊敬に尊敬を重ねて表したいのに。
『フランソワ』
『アーリスさん、何か?』
『クララが来ちゃってる』
『えー、招待状は出してないのに、誰と?』
『教会側から、謝る機会にって』
『誰に、なんでしょうね』
『そこは確認した、ローシュとフランソワだって』
『ぎゃふん、って言わせたいんですが』
『どっちに?』
『両方デス』
『だよね、じゃあ、コッチで用意した手順で良い?』
『えっ、用意してたんですか?』
『ローシュがね、念の為にって』
『流石です、お姉さ』
ガブちゃんから事前に聞かされてたから良かったものの、修道女と言うかシスター連れのクララちゃんが特攻して来たので、先ずは私だけで対応する事に。
『先日は』
「貴女から謝罪を頂いても、絶対に許しません。後は何か?」
《ですがローシュ嬢、ココは慈悲の》
「心にもお金にも時間にも限りが有るんです、許さないと心が狭い、と仰っしゃりたいなら勝手に仰ってて結構。お好きに広めて下さって構いませんよ、但し、コチラも相応のお話をさせて頂くだけ。後は何か?」
《神は隣人を》
「許さぬ者、赤き衣を纏った者を非難なさるので?」
《それは、それは詭弁と言うんですよローシュ嬢》
「ほう、では詭弁はどちらか。知り合いに枢機卿や大司教を努めてらっしゃる方が居るので、そうですね、直ぐに呼びますので暫くお待ちになってて下さいね」
《いや、何もそこまで》
「貴女が判断なさるんですかシスター。それは本当に、正しい事だと?」
《アナタは彼女に何を要求なさりた》
「何も、得るモノは何1つ有りませんし、害虫になりそうな羽虫なので消えれば良いとは思ってはいますが。こんな愚かな子でも死ねば悲しむ親御さんが居ると思うと、やはり何も無いですね、要求する事は何も無い」
《何も、そこまで》
「ソチラの味方をしながら仲裁者気取りですかシスター、偽預言者は断罪されるのですよね、大丈夫ですか?」
《偽預言者などと、誹謗中》
「開き直りに来た、と。少しお待ち下さい、今直ぐにアナタの上を呼んで参りますから」
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本当だと思っていないのか、ドアを閉める間際、脅しや権力には屈しない。
だとか言っていたのに。
《申し訳御座いません、彼女が、あまりに不憫で》
『ほう、どの様に不憫なのでしょうかね』
《婚約者になる筈っ》
『すみませんシスター、もう良いんです、私が悪かったのです、だからもう』
『いえ、コレは名誉に関わる事ですので詳しく調べさせて頂きます』
《それにですね、そもそも不憫だからと言って泣き付く者全ての要望を受け入れては、統治は不可能なんですよ。そう味方の少ない領主の味方となるのが教会の仕事でもあると言うのに、下調べもせずに泣き付かれ茶会を台無しにするとは。すみませんロッサ・フラウ、またしてもご迷惑をお掛けしました》
「いえいえ、愚か者だと知らなかったのでしょうから、コレを引き取り以降は見合った者を配置して下されば結構ですよ」
『ありがとうございます』
《お気遣い感謝致します》
後は、親御さんの方よね。
『この度は』
「先ずは彼女をどう処分なさるのかをお聞きしてから、謝罪を聞くかどうか判断を下します」
『降格し男爵位となり、再教育が叶わぬ場合、爵位の返還をさせて頂きたく』
「再教育の内容を詳しく」
『先ずは、家で侍女の仕事、労働を課し、日誌を書かせようかと』
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『2年、お時間を頂けませんでしょうか』
「何故、どうして、子育てが失敗したのだと思いますか」
『あの子は手の掛からない、素直な、良い子だと。悪い噂は妬み嫉み、そう、誰も真剣に考えてはいませんでした』
「家では良い子だった、と」
『はい』
「可哀想ですが、子供も所詮は他人、責任有る立場に居ながら見抜こうとなさらなかった。そんな方に重責は任せられない、残念ですわ、上質なアヒルが害虫を産んでしまった事が残念です」
『申し訳御座いませんでした』
欲望を叶える為、自分が小さな嘘だと思えば、許されると何故か思ってしまった子。
可哀想と言えば可哀想だけど。
『そんな、何もココまで』
「罪を犯した側が罪の重さを測る、それでは正義が成されないのでは?」
『アナタ、私の若さに嫉っ』
『失礼しました、徹底して家から出さぬ様に致しますので』
「出来なければ死が待っていると、本人だけでなく周りにもしっかりとお伝え下さいね、でなければ血筋が途絶える事になりますから」
『はい』
ドラマや映画で、いつも不思議だったのよね。
どうして理不尽な罵りを誰も止めないのか、私だったら殴るか何かして途中で止めるのに、って。
アレ、逆に敢えて言わせて、周りも同意しているって言う演出なのかしら。
いや、でも。
『ローシュ?』
「ぁあ、アーリス、大丈夫よ何でも無いわ」
『嘘、何か考えてた』
「もし、私が誰かに罵られたら」
『言い終える前に、殺したらダメ?』
「気絶位にしといて、意外と死が救いの者の可能性も有るから」
『うん、分かった、見回りに行ってくる。もう少し休んでて』
「お願いね」
《お見事でしたな、ロッサ・フラウ》
「ココでは違う名なので、どうかローシュと」
《ぁあ、失礼致しました》
「いえいえ、コチラこそ、面倒だからとお呼びしてすみません」
《ふふふ、いえいえ、面白い催しにも参加させて頂いて、寧ろ我々にご協力頂いてしまったも同然。コチラに来る機会を与えて下さり感謝しています、まだまだ、身勝手な者を全て反省させるには至っておらず》
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《はい》
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あ。
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《青色ですか?》
「青と緑の、あの涙壺みたいなドレスが見たいと思って、フワフワのを重ねるの」
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《はい》
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《確かに、少ない数でならとは、ですけど記憶が戻ってからローシュと》
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《それは、君がしたいだけでは》
『そらしたいですよ、それこそ盛大に、各国でしたい位に。だって自分のだ、自分は相手のモノだって示せるんですよ?言葉で説明しなくても分からせられる、自慢出来る場なんですから、何回でもしたい位ですよ』
《ローシュが結婚式が好きなら、ですけどね》
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《良いですよ、君が先にしても、私の思いがいつ叶うか分かりませんし》
『何か、拗ねてます?』
《私とローシュなら、どうしても大勢の前で式を行わないといけないんです、少数をと叶える事は不可能なんですよ》
『ココでも?』
《ココでなら、まぁ、少数でも可能ですが》
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『それ、誰が決めたんですか?』
《確かに、決まりは存在してませんが》
『まぁ、独断で決めるのは勇気と時間が必要ですしね。じゃあ、見回りに行ってきますね』
どうしても、喜ぶローシュの姿が思い浮かばない。
義務感から愛想笑いを浮かべるか、無表情か、不機嫌か。
『どうしたのルツ?』
《ぁあ、アーリス、ローレンスに少し言われて考えてたんです。結婚式の事を》
『する?』
《あのローシュが喜ぶと思いますか?》
『お肉のドレスでも着せたら喜ぶかもよ?』
《それは流石に、寧ろ君が喜ぶのでは?》
『ううん、別々が良い。って言うか冗談なのに、やっぱり気になる?バカだと思われてるかどうか』
《コレが終わるまで、と思ったんですが、不安で堪らないですね》
『有り得ないと思うんだけどな』
《私も、半分はそう思ってます》
『と言うか何で結婚式の事になったの?』
《ぁあ、ローシュがドレスをと、見る目的で欲しいと言って来たんです》
『珍しい』
《それをローレンスが聞いていて、ですね》
『何色?』
《薄布を何枚も重ね、青と緑の、涙壺の様なドレスだそうです》
『へー綺麗そう』
《君に着せるそうですよ》
『えー、ローシュに着せようよ、それこそ結婚式に使えば良いじゃん』
《少数でも、断られたら死ねるんですが》
『じゃあ2人だけでしたら?』
《それこそローレンスにも言ったんですが、記憶が戻ってからの方が良いかと》
『2人で決めたい?』
《と言うか、したくないなら、無理強いはしたくないんです》
『じゃあ、別にどっちでも良いって言ったらどうするの?小さい規模なら任せる、どっちでも良い、って』
《それは、凄く困りますね》
『ルツはしたい?』
《私は、喜ばれないなら、したくないです》
『喜ぶ事なら何でもしたい』
《はい》
『けど今回は中間だから難しい、間違ったら嫌われちゃうかも、だから凄く怖い』
《はい》
『それ話し合うのも怖い?バカっぽい?』
《はい、恋愛で悩む事自体が愚かだと、今も。兎に角、気を遣わせたり嫌がられる事は全て避けたいんです、もう失敗をしたくない》
『それやっぱり話し合うべきだよ、じゃあね』
僕はローシュに嫌われる心配が無いから、ルツの相談にちゃんと乗れてない気がする。
『そもそも、ルツが嫌いじゃなくて、ルツがした事が嫌いなんだと思うんだけど』
『俺もそう思いますけど、それ、俺に言わずにルツさんに言うべきじゃ?』
『あ、確かに、言って無いや』
『もー、羨ましいなぁ、気持ちが分かるって凄く羨ましい』
『けど悲しいのも伝わって来るよ、全部、強いと強く伝わって来て。ルツが起きないって知った時なんか、ずっと涙の匂いがしてて、干からびるか溺れるかしちゃうんじゃないかと思って心配だったんだからね?』
『そんなに泣くって、好きじゃないと無理ですよ、普通』
『なのにね、何か急に、凄く怖がりになっちゃったんだよね』
『自信が無さそうですよね、あの感じ』
『僕はルツやローレンスみたいに物知りじゃないのに、ローシュは愚かだとか言わない。なのに、何が心配か分かんない』
『愚かな自分を愛されるのが嫌なんじゃ?』
『えー、ローシュも似た事言ってたけど、カッコつけても変わらなくない?』
『多分、今までの自分が逆に否定されるから嫌なんですよ、ずっと間違ってたのを認める事になるんで』
『でも事実じゃん?』
『だから時間が掛かるんですよ、昔の間違いも思い出しながら修正してるので、間違いを見られるのは恥ずかしい』
『でもローシュだよ?パルマ公すら可愛いとか言うローシュなのに』
『1つ愚かだと全て愚かなのかも知れない、他に指摘される前に治したい、今までの全て』
『あー、僕で10年ならルツは30年とか、倍以上だもんね、そっか』
『それ本当なんですか?俺の倍がローシュで、その倍がルツさん』
『うん』
『熟成された童貞』
『一応本当はもう違うんだけどね?』
『それで、与えられて取り上げられて、死ねる』
『だよね、ずっと目の前で待てって、はち切れちゃいそう』
『ぁあ、暴発したんじゃ?』
『あぁ、そうなのかもね、この前珍しく僕より先に起きてたし、確かにその日からかも』
『良い年して夢精は泣ける』
『しかも悪夢でとか、かもね』
『あー、生きてるのが奇跡』
『無事に終わらせないと』
『ですね』
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私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
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