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更にその後。

顕現。

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「モルガン・ル・フェイ様がユーゴスラビア王国に、オミシュに顕現なさった事を、お慶び申し上げます」

 ローシュもだけど、ヴニッチ夫人達が川を真っ赤にした後、そのまま近隣の村に赤く染められた生地や糸を持って行って、そのまま噂を広めた。
 真っ赤な戦車の女神、モルガン・ル・フェイの生まれ変わり、ロッサ・フラウが領地を落としてるって。

 聖なる書物を信じてると凄く利くし、そうで無くても赤い川の衝撃は凄かったみたいで、オミシュの海が真っ赤になったからって領主が降伏しにスプリトまで来た。
 領民も自分も、モルガンの事は少しは知ってるから、戦の女神に抗う気は無いって。

 領民と領主、それとローシュが認めたからこそ、モルガンは神様として顕現出来た。

《赤い屋根は私への捧げ物、良く言ったモノだね。全く、感心させられたよ》
「いえいえ、上空からの景色と紋章のお陰です」

《カチッチ家の赤き竜。一神教が作り上げた城も紋章も利用するとは、素晴らしいな、どうだ神にならないかロッサ・フラウ》
「絶対に嫌ですわ」

《だろうね。それで、この先は海沿いを進むにしてもだ、Pločeプロチェに流れるネトレヴェ川はどうするんだろうか。大きな川だよ、普通なら船か、かなり遡るか、近くに橋は無いよ》

「ぁあ、そうですよね、確かに。けど取り敢えずは行ってから決めちゃおうかな、と」
《良いね、そう適当なのが良い、臨機応変さは大事だ》

「ありがとうございます」
《まだこの街を離れられる程の力は無いんだ、精々頑張っておくれよ》

「はい」

 それからは一神教の人達が整地してくれた海沿いの道を、モルガンが出してくれた赤い馬を使って馬車で南下する。
 様子見と散策。

『海、綺麗だね』

「ココ、多分、いつか観光地になるのよね」
《そうですね、地図上の発展の仕方からしても、海の穏やかさにしても》

「こう、整地と地図は有り難いのだけどね」
《一神教の良い側面だけが働くなら、良いんですけどね》
『ね、早く平和になると良いね』

 セレッサと妖精は今日1日、木材の運搬のお仕事。
 フランク王国で切り出されて四角く成形された木材をブリテン王国まで飛んで運んで、2人だけが使える魔道具の小窓を通ってフランク王国に戻って、また運んで。

 ジッとしてるのがイヤみたいで、ほっとくと近くの湖を探索しに行っちゃうし、今日は馬車移動だからって木材を運びに行ってる。

 多分、全部計算して行動してるんだろうけど、そこは黙っておく。
 ローシュに気を遣わせない為の、セレッサなりの気遣いだろうし。

「ご挨拶に行ったハワイ島もだけど、観光地化を望むなんてね」
《平和になれば人が見聞の為に往来する、なら、最初からその前提でもてなす方が和平交渉としては正解かと》
『けど日の出国はネオスを代理にって、ローシュを避けてるんだよね?』

「相当、痛い目に遭ったからこそ、人質が必要なんでしょう」

 他と違って内情は知れないまま。
 けどネオスにはお醬油とかお酒の作り方を教えてくれてて、藍染めとか紅染めも、そうした武器にならない事なら何でも教えてくれてる。

 それこそ貝の養殖も。

『ホタテ、美味しかったなぁ』
「でしょ、バター醬油こそ求めてた調味料」
《ウチだとムール貝ですけど、もしかしたら他の貝類も好きに食べられる様になるかも知れませんね》

『海に鉢を沈めるって、何か神話みたいだよね、それで貝が育つ』
「イシカゲ貝ね、知らなかったわ」

 他にも貝類の養殖が色々と行われてて、浜には稚貝を撒いたり、ホタテは穴を開けて紐を通して海に吊るす。
 食べる為に労を惜しまない所は変わらないって、ローシュは喜んでたけど。

《向こうでアナタが知らないとなると》
「専門家か何かが転移転生をしての事よね、だからこそ、今生きてるからこそ接触させない為なのか」

《揉め事の最中なのか》
「中つ国の情勢は入らないのよね?」

《一神教と同じく、既に存在している歴史年表と同じ事しか公表していませんが、地方では凶獣が出たとの噂も有ります》

「四凶、こう、名を言わないって事も重要かも知れないのよね」
《名は存じているんですね》

「3体は有名だから、後の1体は覚えてないのよねぇ」

《同じ成立過程だと思いますか?》
「四罪とも繋がりの有る四凶、でしょうね、大罪や悪魔と同じ。善きを表す為、悪を用いて説明してしまい、成立してしまった。そうなると魔渦も、かしら」

 淀んだ魔素溜まり、獣が魔獣になる場所。
 魔王が獣から魔獣になって、悪魔になって、魔王になった場合。

《そう、考えた事は無かったんですが》
「思い付きだからね?」

《いえ、有り得ないとは言えないかと。中つ国も含めて亜細亜と言わせて頂きますが、吹き溜まり、淀み溜まる場所を特に忌む文化が有るからこその考え方かと》

「まぁ、どちらかと言えば確かにそうだけど、問題はどう成立したか」
《聖域の対比として成立したのでは》

「けど忌み地や禁域、禁足地としているのは、主に地から出る毒ガスを避けさせる為よ?」
《ですが火山や温泉は私達にすら珍しく、馴染みが無く》
『元はガスの危険性を伝える為だったのに、変化した、とか?』

《かも知れませんし、敢えて意図したか、利用されたか》

「何か、全部、かも知れないわよね」
『だよねぇ、随分前からだって聞くし』
《最悪は、ソロモン神が敢えて広めた可能性も、有るかと》

「魔王を、成立させる為に?」
《彼の噂以降、魔王と呼ばれる類の悪が、特に出現していないので》

 神様が成立する様に、悪や不安が形になって成立する事も有るかも知れない。
 それが四凶や大罪かも。

 そうなると。

「そうなると、敢えて大罪を成立させて、安定を図ったのかも知れないのよね」

《そう、敢えて、だと思いますか》
「何でそんな、そんなにソロモン王を恐れて欲しいの?」

《いえ、寧ろ、やはり諸悪の根源かも知れないなと》
「そう調べればそうした情報が集中する、そう思わず情報収集をしてみてどうなのか、でしょうよ。と言うか難儀よね、一神教が素地の多神教者って。この世に私とアナタしか居ない場合しか、完全なる悪と善は成立しません、よって完全悪は存在しません」



《なら完全なる善は》
「神様がいるから有ります、完全なる善とは和平、平和、融和です」

 言い切る事も大切よね。

《天才では?》
「次にその言葉を言ったら、議論を打ち切る合図と看做みなします」

《分かりました、では観光地化の話に戻りましょうか》
「あ、そうよ、そこだったわ」
『何を悩んでるの?』

「何処まで、どうするか。完成形を齎せば偽一神教と変わらないし、特色、個性を活かして欲しいのだけど。そう、加減が分からないのよ、何処まで何をすれば良いのか」
『話し合いに行ったら?』

「それしか無いわよねぇ」
《手前のGradacグラダッツでプロチェの様子見をし、グラダッツかプロチェで足止めされている素振りをしてみては》

「次のMakarskaマカルスカ次第ね」

 そうして着いたマカルスカは、地図とは違い、数人が細々と暮らしている状態。
 海沿いは穏やかだとは聞いてたけど、こう、辛うじて人が残っている状態って。

『アンタら、新任の領主か、ナポリからか』
「どうも、ロッサ・フラウです、新任の領主の代理でプロチェまで行こうとしてるんです」

『ぁあ、珍しいな、オミシュが落ちたか』
「コチラが書類と、印章の指輪です」

『アレは、どう死んだんだ』
「いえ、生きて降伏なされたので無事ですよ」

『そうか、ならアンタはスプリトのか』
「いえ、もっと先のザダル、その前はリエカから参りました」

『ならナポリのか』
「いえ、ですが、お詳しいのですね村長さん」

『ココら辺の村は戦には巻き込まれない、飲み水を守る者が必要だからな。そう水と魚は敵味方に関係無く提供してるんで、少し詳しいだけだ』
「コチラ側の道を使う者が居るんですね?」

『特に夏場にな、それこそ目の前の国からも。保養地だ、とか言ってな、領主や何かがココで好き勝手させてスプリトから戻す。綺麗にすんのも維持するのも俺ら、なのに俺らを自分達の国の言葉でそしる、罵り言葉なんかとっくに分かってるって言うのにな』

「目の前の国は女王に交代しましたので、暫くは穏やかに過ごせるかと」
『やっぱりナポリの貴族じゃねぇか』

「いえ、ただ、詳しく話すとアナタが殺されるかと」

『なら聞かないでおくが、ソッチは何が聞きたいんだ』
「困ってらっしゃる事と、どう暮らしたいか」

『殺されず、戦に巻き込まれず、壊されず。それが叶えば1番なんだが、どうせ暫くは無理だろう、内陸は今でも王位争いで人が死にまくってんだからな』

「今は誰が王なんですか?」
『さぁな、有力なのはセルビア州の者だって聞くが、名前を覚えた頃には変わってるんでね』

「王位は、どの様にして決められるんでしょう」
『セルビア州のベリグラードの領地を得たらと聞いたが、その前はボスナ・ヘルツェグ州の都だ、とかコロコロ変わるんで分からん。何をもってして王となるのか、王位を得られるかも分からんのに、若いのは領地の奪い合いをしたがる』

「聖杯、ご存知ですか?」

『やっぱり教会の者か』
「いえ、王位を得るのに聖杯が必要だと、私が居た国で言われていた事も有ったので」

『聖杯』
「珍しい、金属の杯なんですけど、ご存知無いですか?」

『いや、全く』
「もし見付けたら、統治されたい方に届けて下さい、不思議な力が有るそうですから」

『あぁ』
「では、失礼致しますね」

 聖杯戦争、ココで利用しちゃう事になるけど。
 まぁ、戦略の為なので。

《ココでアーサー王の聖杯伝説を出すんですね》
「下調べをしてからね、既に教会派が何か噂を流してるかもだし」
『使い勝手が良いのを探してるのかもね、ヴニッチとアルモスの近くにも居るし』

 アーリスが見抜いたのよね、同じお香だ、って。
 ルツがウムトに尋ねてくれて、お清めのお香だと確定している。

 その同じ匂いがヴニッチ家とアルモス候の侍従から、今でも、時折漂ってるみたいで。
 白銀が見た事も無い位に眉間に皺を寄せて、凄い怪訝な顔をするのよね。

 天使除けのお香なのかしら。

「天使様、ご助力をお願い出来ますでしょうか」
『勿論ですよ』



 ローシュが天使から得た情報としては。

《既に聖杯を奪い合わせているんですね》
『強さに関係無く渡して、便利に使う為の道具の道具にしてる。杯って確かに道具だけど、良いのかな、聖なる杯なんでしょ?』
「統治の為、大義の為、直接争わない良い方法だし。私も知ってるからこそ、利用しようとしたんだし」

《そうなると、転移転生者が》
「それかキャラバンと同じで指南書が存在してるのか、そうした知識を悪用しているのは悪人か、善人か。天使さんに人柄を尋ねても悪く言わないから分からないのよね、しかも一神教と言っても種類が有るし」
『けど殆ど男の長子制度なんでしょ?』

《表立っては、動ける者に権力を持たせた方が良い場合も有るので、表面上は男性を家長としている場合も有りますね》
「ココだって男の方が偉い、とはしてるけど、結局は妻の方が強いし」
『アルモスの奥さんもヴニッチの奥さんも、肝が据わってるもんね』

「他の奥様もね、コッチがビビってるのにまぁグイグイと」
《強く賢い奥方こそ宝、ですからね》
『そうそう、だから気を付けてね、特にアルモスに』

 何を言ってるのか、と怪訝な顔を。

「何故」
《奥方が許せば、逆にアルモス候から誘いが有るかも知れませんよ》

「私、普通の人間扱いになったの?」
《寧ろ彼が捧げモノ扱いかと》
『僕らがローシュのだって思ってるみたいで、ちょっと相談された』

「逆、寧ろ普通じゃないと言うならアーリスの方なのに」
『侍従みたいにしてるからだと思う、料理を取りに行った時に聞かれたから、それでルツに見張らせてたの』

「ぁあ」
『襲われるより絆されるかもって、お願いされたら、奥さん達に泣き付かれたら困るでしょ?』
《要らぬ供物を捧げられる神もいらっしゃるかと》

 神の様でありながらも神では無く、ローシュはいつまでも人であろうとしている。
 だからこそ人を捧げられるとは思っても無かったらしく、妖精が嫌な香りを嗅いだ時の様に、酷く眉間に皺を寄せて。

「考えもして無かったわ、恐ろしい」
『ほら』
《敬われ慣れろとは言いませんが、そうした観点からも気を付けて頂いた方が宜しいかと》

「善処します」
『大丈夫、僕らも気を付けるから』
《ですね》

 そしてプロチェ手前のグラダッツに着いても、ローシュは同じ問答を繰り返した。

「困ってらっしゃる事と、どう暮らしたいか、お伺いしても」

 答えは同じく。
 諍いの無い平定を、和平を望む、と。

 ただ。

『教会には逆らえない、私らに根付いてしまっているからね、そこだけは守って欲しい』

「分かりました」

 グラダッツの山を越えた先の集落、Vrgorskoヴルゴルスコの平地は、教会を持つ一神教に与えられた地。
 度重なる氾濫により定期的に水没していたが、プロチェの湖畔へ繋がるトンネルを作り排水させ、平地を齎した。

 その恩恵への対価は、教会専用の農地。

『お米、作ってるんだね』

 白い食べ物は聖なる食べ物。
 その中に当て嵌まるのが。

「そうよね、トリエステでも普通に食べてたものね、お米」

《ローシュ》
「何か、悪い事をコッチがしてるみたいな気分だわ」

『奪って利益にするワケじゃないし、戦を無くすのが目的なら同じだし、良いんじゃない?』

「同じ方向でも、少し違うと全く別の道になる。教会と接触すべきかしら」
《情報が足りないので、もう少し探ってからにしませんか?》
『そうだよ、悪人に使われる善人かもだし、良い事をしてるからって善人とは限らないんだし。セレッサが戻って来るまで、ココで様子見しよう』

 教会派の者が多く、信仰も厚い地グラダッツで過ごす事に。
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