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更にその後。
夜会。
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「それで逃げ出してらっしゃったんですね」
『すみません、どうにも苦手でして』
『だからアレで慣れろと言っただろうに』
『もう少し見目を落とした方で、こう』
『人は見た目では判断が付かない、良い見た目だからと言って慣れてるとは限らないんだ、見定めもせずに見た目で決め付けるのは愚か者のする事だよ。そんなんじゃ、まだまだ、相手を紹介してやれないね』
お相手を紹介するから、先ずは良い年なんだから慣れろって。
侍女として働いてた顔見知りではありますけど、そう、確かに浮いたお話の無い方でしたけど。
『でもだって、慣れ過ぎなんですよぉ』
『はっ、慣れ過ぎって、アンタが慣れなさ過ぎなんだよ』
いや、分かりますけども。
「奥様、寓話をご存知ですかね、カエルとお姫様のお話なんですが」
『アンタの所の御伽噺かい?』
「はい。姫は遊びに出掛けた森の泉で金の鞠を落としてしまうんです、そこにカエルが現れ言う事を聞けば鞠を拾って来てやる、と」
そして姫は承諾した、けれどもカエルとの約束を無視して帰ってしまった。
その夜、カエルは王城の門を叩き王へ直談判をし、事の真相を伝えた。
怒った王は姫を怒り、カエルをもてなすと、姫に寝屋を共にする様にと伝えた。
なのに姫は嫌がり。
『壁に叩き付けては、死ぬのでは?』
「まぁ、子供の力ですから。そして良く見るとすっかり人になっていたので、姫は話を聞く事に」
カエルは豊かさを妬まれた国の王子で、隣国に呪われてしまった、そして姫にしか呪いを解く事が出来なかった事を話した。
そうしているウチに眠ってしまい、起きると城には白馬に引かれた豪華な馬車が到着し、家来だと名乗る者が現れた。
そして2人を連れ王子の国へ。
その道中、王子の呪いを悲しんでいた家来の心の枷が外れる音が3度鳴り、2人は幸せに暮らす事になった。
『3度、成程ね』
『その』
「さて問題です、本当に王子はカエルにされていたのでしょうか」
『ぁあ、姫様に呪いが掛かってたかも知れないんですね、だから王様は怒ったのかも知れないと』
『若しくは、王には見慣れた容姿でも、姫は初めて見てカエルの様だと思ったか。アンタらにもそうした呪いが掛かってるのかも知れないね』
『ら?』
「私も、ですか?」
『容姿の良し悪しが必ずしも中身と同じとは限らない、そう分かっていても容姿に惑わされているのは、同じだろう』
「あ、いえ、私には既に夫が居ますので」
『王族なら、有能な者なら妾だって居るだろ?ねぇ?』
『まぁ、はい、王族では一般的ですが』
「まぁまぁ、私の事は置いといて」
『今は、ね。この話を聞いてアンタはどう思うんだい』
『その、どうして叩き付けて呪いが解けたのか、と』
『人と同じ様に痛がり、人と同じだ、人だとなったんだろう』
そう同じ人間だと認めた事で、呪いが解けた。
『あの人も同じ』
『まぁ、何処まで同じ者だと思うか。それこそ仕事仲間だったんだ、どんな者なのか分かるだろうに』
「そこは流石に無理かと、情愛への対応を見てないなら」
『そうですよ、そこです、彼が他の女性と相対しているのを見てませんから。そう比べる事も難しく』
『成程ね、アンタらは同じ悩みを抱えてるって事か、成程』
『あの』
「いえ、私は何度も断ってるんですけどね、ほら身内ですし」
『コレはね、仕事で女に間違った対応をしてるのを見て頑なになったんだ。そうだね、アレにも試練を与えるべきかどうか』
「まぁ、万が一にもお付き合いするとなれば、宜しいかと」
『ぁあ、そうした約束で金の鞠を得たんですしね』
『で、どうするんだい』
お付き合いするかも知れないとなれば、確かに。
『見定めたいですね』
『よしよし、ではそうさせよう』
まさか私の話になるとは。
確かに私にも当て嵌まると言えば当て嵌まるけれど。
「お相手がいらっしゃる方だったんですね」
『まぁ、破談後に向こうから申し入れが有ってね、こうなってるんだよ』
「ぁあ、引いてましたしね」
『けどアンタは怖いもの知らずで言い回しも上手い、無理だね、私には紹介出来る者は居ないよ』
「えっと」
『アンタの年でそこまでのはそう居ないんだよ、それこそ貴族でも更に上、王族様辺りから探さないとね』
「いえいえ、そんな」
『本当に存在するかどうか知らないが、あの例え話を出してあの子に理解させ、その気にさせた。私の思い至らなさを隠してくれた、ウチの嫁にだって出来たかどうか、そう言う所だよ』
「こう、偶々」
『例え紹介してもだ、アレは物足りなくなって直ぐに破談になるだろうさ』
「そこはもう言って聞かせますから」
『無駄だね、如何に無理か、アンタもしっかり理解した筈だ。あの笑顔を見ても、どうしてアンタは分からないんだい』
「揉めちゃったんです、社交の場で、彼が相手を褒めて私の事は一切出さなかった。仕事だからと言い訳も出来る場でしたが、敢えて彼はそうした、それが許せなかったんです」
『幾ら賢くても誰にだって欠点は有る、それがあの子の場合は情愛に関する事の未熟さ。けどあの容姿だ、親が少し加減せずに脅しての事だろうさ』
「凄い、流石です」
『そんでアンタが結婚してもそのまま、なら、アンタも少しは真剣に考えてやっても良いんじゃないのかい?』
「許せ、とは言わないんですね」
『私だって嫌な事は有るし、許せない事は有る。それに許すにしても切っ掛けが必要だろう、その切っ掛けが足りないからアンタは許さない、違うかい?』
「多分、はい」
『私は他の者には一夫一妻制を基本に話しているけど、アンタはちょっと無理だ、そうした枠の中には収まらないよ』
「それは、流石に王族でも無いので」
『分かるだろう、最悪はアンタが諍いの火種になる。賢いんだから分かるだろうに、知恵と経験は何よりの財産だ、守り手として囲うべき者も必要だと分かっているだろうに』
「いえ、そこまで賢くは」
『アンタに自覚が無くてもアレが賢いと言ったんだ、傍に置いてアンタの好きな様に飼い慣らせば良いだろう』
「そう、こう」
『利用してやれば、何だい、アンタもウブかい』
「と言うか、情愛を利用するのは、あまり好きでは無いので」
『そう真面目な所も気に入っての事だろう、だからこそ試したんだろう、アンタに気が有るかどうか不安で仕方無かったんだろうよ』
「でも、だからって」
『情愛に関しては子供も同然、だが外見は大人だ。試してもダメなら断ったら良いさ、何でも許せだなんて言わないよ。情愛は特にダメだとなれば取り返しがつかない、それだけ脆く崩れ易い、大切に扱わなきゃならないもんだからね』
「もっと前に、アナタの様な方が身近に居れば良かったんですが」
『姉妹や親類が多かったからね、コレは経験だよ、苦労した成果を生かしてるに過ぎないだけだ。向き合うのは大変だが、いずれ報われる、報われる様に生きれば良いんだよ』
「ありがとうございます」
どうしたって、向き合わないとダメなのは分かった。
けど、どうしてもあの言葉が耳にピッタリとこびり付いて、剥がれない。
『悪評を覆すには、相当の成果を出さなきゃならないのは、分かっているね』
《はい》
『しかも相手は一夫一妻の考えを持っている、相当掛るよアレは』
《はい、ですが命を賭すつもりですので、ご心配無く》
『大きく出るねぇ。だが相手がどう思うかも考えておやりよ、下手をすればアンタが波風を立てるだけにもなるんだ、そこはどうするつもりなんだい』
《あの人にはバレない様にします、そう気を引くつもりは無いので、事故か何かで終わるかと》
『そこまで考えてるなら、確かに良い機会かも知れないね、まだ話し合うには時間が必要そうだ。だが話し合うとなれば誠実に向き合うんだよ、アンタの下手な策じゃ余計に傷付けるだけだ、取り繕いや欺瞞無しにしっかり向き合うんだよ』
《はい、ありがとうございます》
『やれやれだ、成功したらしっかり便りを届けておくれ、どうしたって気掛かりになるからね』
《その事なんですが、何がお好きかお伺いしても?》
『アレに頼んでおいたから心配しなさんな、アンタは自分のすべき事をしっかりこなしなさい』
《はい、分かりました》
『ただね、そうだね、下の方のフリウーリ州は分かるかい』
《ナポリ公国からイタリア共和国と名を変えたそうですが》
『そうそう、ウチのオーストリアと面する州が少し不穏なんでね、ちょっとだけ様子を見てきて欲しいんだが』
《構いませんが》
『ベナンダンティをお探し、アンタの容姿に似たのが比較的多いと聞いてる、もしかすれば親類に会えるかも知れないよ』
《ありがとうございます》
『いや、孫がね、向こうに居てね。その様子伺いだけで構わないよ、生きててくれるなら何処だって良いんだ、生きてさえいればね』
《分かりました》
キャラバンでは円滑に、と教えられていた。
けれどもこうして仲を取り持つのは女達の仕事だ、と。
この方法を知っていれば、少しはローシュとも。
「もう良いの?」
《はい、ですが少し用事が出来ました、イタリアのフリウーリ州へ向かいます》
「あら、何でまた?」
《不穏な噂を聞いたそうで、お孫さんの様子を伺いに行ってくれ、と。それとキャラバンからも聞いていた別のキャラバンの名が、ベナンダンティの名が出たんです》
「ベナンダンティ?」
《私の容姿に似た者が多いそうで、魔女狩りの可能性を示唆しての事かと》
「確かに、陸路でコチラに来る際、通りそうだものね」
《若しくは既に潜伏しているか。なので私だけに伝えたのだと思います、アナタは戻っていても構いませんよ》
「いえ、私が行く事も想定しているかもだし、行きましょう」
《ですがもう、今回の様な手は使わないで頂けると助かるんですが》
「そうね、あそこまで見抜かれるとは思わなかったし、次は控えるわ」
《コチラのマルボルゲットまでの馬車も用意して下さったので、このまま向かってくれて構わないそうです》
「そう、じゃあ行きましょう」
ファウストもネオスもローレンスも居ない。
最初と同じなのに、何も楽しくない。
ローシュは寝てるし、ルツは新しく作って貰った魔道具で紙に字を書いてるし。
つまらない、面白くない、楽しくない。
『ねぇ、何か話してよルツ』
《ローシュが寝てますし、コレって意外と集中力が必要なんですよ、普通に書くのと同程度に》
『なら話せるでしょ』
《寝かせておいてあげては、マルボルゲットからは更に船で下るんですし》
『前と違う、違い過ぎる』
《最悪は私の同行が不可能になるかも知れないんですし、慣れて下さい》
冥界渡りに失敗して、死ぬかもって。
『そんな弱気になってたら』
《どうなるかは分からないんですから、想定しておいて下さい》
それは分かるけど。
「なに、どうかしたの」
《いえ、アーリスがつまらないと愚痴を溢してただけですよ、ファウストが居ませんからね》
「ぁあ、仲良くしてたものね、言葉を教えたりして」
『けどごめんね、寝てる邪魔して』
「良いのよ、また直ぐに眠れるし」
フィラハからマルボルゲットまで馬車で、そこからは船で。
途中のオスペダレットで船に乗って、ウーディネ近くの停留所からは馬車に乗ってウーディネまで。
暇過ぎて僕も寝たり起きたり、つまんなかった。
『つまんなかった』
「まぁ、移動日だし、しょうがないじゃない」
《また明日も移動日ですが、まぁ、直ぐ隣だそうですから耐えて下さい》
神々が言うには、少し戻った先のチヴィダーレ・デル・フリウーリにベナンダンティ達が留まっているそうで。
ただキャラバンとは上手く交流を避けていて、キャラバンからの情報は皆無。
『そうだね、もう部屋に戻ろうローシュ』
「じゃあおやすみなさいルツ」
《おやすみなさい》
こうして自分がネオスの様な立場になるとは思わなかった、ベッドの軋む音や、僅かに聞こえる嬌声に苛まれる日が来るとは。
善意だったとは言えど、ネオスに煽った事を改めて謝罪しなくては。
『すみません、どうにも苦手でして』
『だからアレで慣れろと言っただろうに』
『もう少し見目を落とした方で、こう』
『人は見た目では判断が付かない、良い見た目だからと言って慣れてるとは限らないんだ、見定めもせずに見た目で決め付けるのは愚か者のする事だよ。そんなんじゃ、まだまだ、相手を紹介してやれないね』
お相手を紹介するから、先ずは良い年なんだから慣れろって。
侍女として働いてた顔見知りではありますけど、そう、確かに浮いたお話の無い方でしたけど。
『でもだって、慣れ過ぎなんですよぉ』
『はっ、慣れ過ぎって、アンタが慣れなさ過ぎなんだよ』
いや、分かりますけども。
「奥様、寓話をご存知ですかね、カエルとお姫様のお話なんですが」
『アンタの所の御伽噺かい?』
「はい。姫は遊びに出掛けた森の泉で金の鞠を落としてしまうんです、そこにカエルが現れ言う事を聞けば鞠を拾って来てやる、と」
そして姫は承諾した、けれどもカエルとの約束を無視して帰ってしまった。
その夜、カエルは王城の門を叩き王へ直談判をし、事の真相を伝えた。
怒った王は姫を怒り、カエルをもてなすと、姫に寝屋を共にする様にと伝えた。
なのに姫は嫌がり。
『壁に叩き付けては、死ぬのでは?』
「まぁ、子供の力ですから。そして良く見るとすっかり人になっていたので、姫は話を聞く事に」
カエルは豊かさを妬まれた国の王子で、隣国に呪われてしまった、そして姫にしか呪いを解く事が出来なかった事を話した。
そうしているウチに眠ってしまい、起きると城には白馬に引かれた豪華な馬車が到着し、家来だと名乗る者が現れた。
そして2人を連れ王子の国へ。
その道中、王子の呪いを悲しんでいた家来の心の枷が外れる音が3度鳴り、2人は幸せに暮らす事になった。
『3度、成程ね』
『その』
「さて問題です、本当に王子はカエルにされていたのでしょうか」
『ぁあ、姫様に呪いが掛かってたかも知れないんですね、だから王様は怒ったのかも知れないと』
『若しくは、王には見慣れた容姿でも、姫は初めて見てカエルの様だと思ったか。アンタらにもそうした呪いが掛かってるのかも知れないね』
『ら?』
「私も、ですか?」
『容姿の良し悪しが必ずしも中身と同じとは限らない、そう分かっていても容姿に惑わされているのは、同じだろう』
「あ、いえ、私には既に夫が居ますので」
『王族なら、有能な者なら妾だって居るだろ?ねぇ?』
『まぁ、はい、王族では一般的ですが』
「まぁまぁ、私の事は置いといて」
『今は、ね。この話を聞いてアンタはどう思うんだい』
『その、どうして叩き付けて呪いが解けたのか、と』
『人と同じ様に痛がり、人と同じだ、人だとなったんだろう』
そう同じ人間だと認めた事で、呪いが解けた。
『あの人も同じ』
『まぁ、何処まで同じ者だと思うか。それこそ仕事仲間だったんだ、どんな者なのか分かるだろうに』
「そこは流石に無理かと、情愛への対応を見てないなら」
『そうですよ、そこです、彼が他の女性と相対しているのを見てませんから。そう比べる事も難しく』
『成程ね、アンタらは同じ悩みを抱えてるって事か、成程』
『あの』
「いえ、私は何度も断ってるんですけどね、ほら身内ですし」
『コレはね、仕事で女に間違った対応をしてるのを見て頑なになったんだ。そうだね、アレにも試練を与えるべきかどうか』
「まぁ、万が一にもお付き合いするとなれば、宜しいかと」
『ぁあ、そうした約束で金の鞠を得たんですしね』
『で、どうするんだい』
お付き合いするかも知れないとなれば、確かに。
『見定めたいですね』
『よしよし、ではそうさせよう』
まさか私の話になるとは。
確かに私にも当て嵌まると言えば当て嵌まるけれど。
「お相手がいらっしゃる方だったんですね」
『まぁ、破談後に向こうから申し入れが有ってね、こうなってるんだよ』
「ぁあ、引いてましたしね」
『けどアンタは怖いもの知らずで言い回しも上手い、無理だね、私には紹介出来る者は居ないよ』
「えっと」
『アンタの年でそこまでのはそう居ないんだよ、それこそ貴族でも更に上、王族様辺りから探さないとね』
「いえいえ、そんな」
『本当に存在するかどうか知らないが、あの例え話を出してあの子に理解させ、その気にさせた。私の思い至らなさを隠してくれた、ウチの嫁にだって出来たかどうか、そう言う所だよ』
「こう、偶々」
『例え紹介してもだ、アレは物足りなくなって直ぐに破談になるだろうさ』
「そこはもう言って聞かせますから」
『無駄だね、如何に無理か、アンタもしっかり理解した筈だ。あの笑顔を見ても、どうしてアンタは分からないんだい』
「揉めちゃったんです、社交の場で、彼が相手を褒めて私の事は一切出さなかった。仕事だからと言い訳も出来る場でしたが、敢えて彼はそうした、それが許せなかったんです」
『幾ら賢くても誰にだって欠点は有る、それがあの子の場合は情愛に関する事の未熟さ。けどあの容姿だ、親が少し加減せずに脅しての事だろうさ』
「凄い、流石です」
『そんでアンタが結婚してもそのまま、なら、アンタも少しは真剣に考えてやっても良いんじゃないのかい?』
「許せ、とは言わないんですね」
『私だって嫌な事は有るし、許せない事は有る。それに許すにしても切っ掛けが必要だろう、その切っ掛けが足りないからアンタは許さない、違うかい?』
「多分、はい」
『私は他の者には一夫一妻制を基本に話しているけど、アンタはちょっと無理だ、そうした枠の中には収まらないよ』
「それは、流石に王族でも無いので」
『分かるだろう、最悪はアンタが諍いの火種になる。賢いんだから分かるだろうに、知恵と経験は何よりの財産だ、守り手として囲うべき者も必要だと分かっているだろうに』
「いえ、そこまで賢くは」
『アンタに自覚が無くてもアレが賢いと言ったんだ、傍に置いてアンタの好きな様に飼い慣らせば良いだろう』
「そう、こう」
『利用してやれば、何だい、アンタもウブかい』
「と言うか、情愛を利用するのは、あまり好きでは無いので」
『そう真面目な所も気に入っての事だろう、だからこそ試したんだろう、アンタに気が有るかどうか不安で仕方無かったんだろうよ』
「でも、だからって」
『情愛に関しては子供も同然、だが外見は大人だ。試してもダメなら断ったら良いさ、何でも許せだなんて言わないよ。情愛は特にダメだとなれば取り返しがつかない、それだけ脆く崩れ易い、大切に扱わなきゃならないもんだからね』
「もっと前に、アナタの様な方が身近に居れば良かったんですが」
『姉妹や親類が多かったからね、コレは経験だよ、苦労した成果を生かしてるに過ぎないだけだ。向き合うのは大変だが、いずれ報われる、報われる様に生きれば良いんだよ』
「ありがとうございます」
どうしたって、向き合わないとダメなのは分かった。
けど、どうしてもあの言葉が耳にピッタリとこびり付いて、剥がれない。
『悪評を覆すには、相当の成果を出さなきゃならないのは、分かっているね』
《はい》
『しかも相手は一夫一妻の考えを持っている、相当掛るよアレは』
《はい、ですが命を賭すつもりですので、ご心配無く》
『大きく出るねぇ。だが相手がどう思うかも考えておやりよ、下手をすればアンタが波風を立てるだけにもなるんだ、そこはどうするつもりなんだい』
《あの人にはバレない様にします、そう気を引くつもりは無いので、事故か何かで終わるかと》
『そこまで考えてるなら、確かに良い機会かも知れないね、まだ話し合うには時間が必要そうだ。だが話し合うとなれば誠実に向き合うんだよ、アンタの下手な策じゃ余計に傷付けるだけだ、取り繕いや欺瞞無しにしっかり向き合うんだよ』
《はい、ありがとうございます》
『やれやれだ、成功したらしっかり便りを届けておくれ、どうしたって気掛かりになるからね』
《その事なんですが、何がお好きかお伺いしても?》
『アレに頼んでおいたから心配しなさんな、アンタは自分のすべき事をしっかりこなしなさい』
《はい、分かりました》
『ただね、そうだね、下の方のフリウーリ州は分かるかい』
《ナポリ公国からイタリア共和国と名を変えたそうですが》
『そうそう、ウチのオーストリアと面する州が少し不穏なんでね、ちょっとだけ様子を見てきて欲しいんだが』
《構いませんが》
『ベナンダンティをお探し、アンタの容姿に似たのが比較的多いと聞いてる、もしかすれば親類に会えるかも知れないよ』
《ありがとうございます》
『いや、孫がね、向こうに居てね。その様子伺いだけで構わないよ、生きててくれるなら何処だって良いんだ、生きてさえいればね』
《分かりました》
キャラバンでは円滑に、と教えられていた。
けれどもこうして仲を取り持つのは女達の仕事だ、と。
この方法を知っていれば、少しはローシュとも。
「もう良いの?」
《はい、ですが少し用事が出来ました、イタリアのフリウーリ州へ向かいます》
「あら、何でまた?」
《不穏な噂を聞いたそうで、お孫さんの様子を伺いに行ってくれ、と。それとキャラバンからも聞いていた別のキャラバンの名が、ベナンダンティの名が出たんです》
「ベナンダンティ?」
《私の容姿に似た者が多いそうで、魔女狩りの可能性を示唆しての事かと》
「確かに、陸路でコチラに来る際、通りそうだものね」
《若しくは既に潜伏しているか。なので私だけに伝えたのだと思います、アナタは戻っていても構いませんよ》
「いえ、私が行く事も想定しているかもだし、行きましょう」
《ですがもう、今回の様な手は使わないで頂けると助かるんですが》
「そうね、あそこまで見抜かれるとは思わなかったし、次は控えるわ」
《コチラのマルボルゲットまでの馬車も用意して下さったので、このまま向かってくれて構わないそうです》
「そう、じゃあ行きましょう」
ファウストもネオスもローレンスも居ない。
最初と同じなのに、何も楽しくない。
ローシュは寝てるし、ルツは新しく作って貰った魔道具で紙に字を書いてるし。
つまらない、面白くない、楽しくない。
『ねぇ、何か話してよルツ』
《ローシュが寝てますし、コレって意外と集中力が必要なんですよ、普通に書くのと同程度に》
『なら話せるでしょ』
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『前と違う、違い過ぎる』
《最悪は私の同行が不可能になるかも知れないんですし、慣れて下さい》
冥界渡りに失敗して、死ぬかもって。
『そんな弱気になってたら』
《どうなるかは分からないんですから、想定しておいて下さい》
それは分かるけど。
「なに、どうかしたの」
《いえ、アーリスがつまらないと愚痴を溢してただけですよ、ファウストが居ませんからね》
「ぁあ、仲良くしてたものね、言葉を教えたりして」
『けどごめんね、寝てる邪魔して』
「良いのよ、また直ぐに眠れるし」
フィラハからマルボルゲットまで馬車で、そこからは船で。
途中のオスペダレットで船に乗って、ウーディネ近くの停留所からは馬車に乗ってウーディネまで。
暇過ぎて僕も寝たり起きたり、つまんなかった。
『つまんなかった』
「まぁ、移動日だし、しょうがないじゃない」
《また明日も移動日ですが、まぁ、直ぐ隣だそうですから耐えて下さい》
神々が言うには、少し戻った先のチヴィダーレ・デル・フリウーリにベナンダンティ達が留まっているそうで。
ただキャラバンとは上手く交流を避けていて、キャラバンからの情報は皆無。
『そうだね、もう部屋に戻ろうローシュ』
「じゃあおやすみなさいルツ」
《おやすみなさい》
こうして自分がネオスの様な立場になるとは思わなかった、ベッドの軋む音や、僅かに聞こえる嬌声に苛まれる日が来るとは。
善意だったとは言えど、ネオスに煽った事を改めて謝罪しなくては。
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