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旅立ち。

おフィンフィン。

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「他人に自分の事を解説されるのは、実に恥ずかしぃ」
『すみませんローシュ、私のせいで』

「いや、配慮出来なかった私も悪いのよ」
『本当に大丈夫ですか?何処か辛く無いですか?』

「全然、平気なのよぉ」

『寧ろ、逆に今まで』
「いえ、回数じゃないの、それは無いから大丈夫。ネオスこそ大丈夫?」

『流石に最後は引き攣れる感じで少し痛かったですけど、はい、大丈夫です』
「ごめんね、全部ずっと見てたワケじゃないんだものね。もっと聞いてくれて良いから、他に何が聞きたい?」

『ルツさんもコレだけの回数なんですか?』
「アーリスとの組み合わせだとね」

『多い方が良いですか?』
「それだけ沢山したいって思ってくれてるのは嬉しいけど、次の日に仕事が有ると程々が良いわね」

『でも、アーリスの恩恵が有ると思うとつい、したくなってしまいますね』
「じゃあ指輪を外して」

『はい』

 アーリスと交代で最後まで確認しましたが、アヴァグドゥの名をローシュは言っていないんですが。

「ふむ、唯一お前が確認出来ぬ世界が有ろうよ」

《夢ですか》
「そこで承諾したんでな、アレの顔の時点で共有していると同義なのだよ」

《明確に同意を得るべきでは》
「ローシュの為とは言えど覗いておった分際で何を言うか、もう気付いておるのだろう、魔女狩りが終わるまでは平穏に過ごせぬと」

《させる気ですか》
「アレが止めて止まる玉か、国を出た時点で流れは決まっておったのだよ」

《帰ります》
「そうして攻め入られるまで待つ、か。籠城戦は消耗戦、被害が多いのはどちらか分かるだろう」

《ローシュを犠牲には出来ません》
「だからだ、守る為に与えているのだよ」

《本人が望んでいないのに》
「先を知らぬでな、それとも知らせるか、恐ろしい先が待ち受けていると」

《他に》
「適格者が居ると思うか、ならば誰だ、ココに来るまでに誰と会ったと言うのだ。分かるだろう、他に居らんからこの流れなのだと」



 刺繍職人を載せ、フィンランドのオウルへ。
 ベリーで有名なのよねココ。

 けど。

「えー、コレからなのね、ベリー」
《帰りにでも採りながら進みましょう》

「そうね」

 私達は暫く陸路でロウヒ様やイルマリネン様探し。

 アンジェリークと職人を載せた船はココで少し仕入れてから、ロシア自治区のサンクトペテルブルグへ。
 そこから陸路で黒海に面するロストフナドヌーまで行き、再び船に乗り、ルーマニアへ。

 他の陸路だと魔獣か野盗かその国の兵に蹂躙される可能性が高いし、キャラバン的にも商売をするには良いのよね、このルート。

『私がしっかりお守りしますね』
「そう無理しないで、寧ろ刺繍を頑張って。今の時期は陸路の方が過ごし易い筈だから、色々と食べて学んで」

『はい』
「“言葉を覚え過ぎて刺繍を忘れないでね”」
『“はい、ありがとうございます、刺繍を認めてくれて”』

「“認めるも何も、もう少ししたらアチコチで人気になるんだから大丈夫、良い品物ならオスマンの王族だって認める筈だから頑張って”」
『“はい”』

 そしてウムト達の船はスウェーデンのストックホルムや、ノルウェーのラルビク、オランダ・ベルギー・フランスと移動して。
 スペインが問題なのよね、ポルトガルとモロッコが抑えてくれてるらしいんだけど、そこさえ通り過ぎたら地中海で好きに動ける。

 行くならモロッコとエジプトよね、モロヘイヤも今位の時期だろうし。

「ルツ?」
《少し離れたイーと言う場所から水路だそうで、行きましょうか》



 蚊が凄い。

《ふぇぇ、コレ、ベールが無かったら大変ですよローシュ様》
「そりゃハーブも発展するわよね、下手したら病気になるもの」

《絶滅させたらダメなんですかね?》
「蜂と同じで受粉だ鳥のエサだからダメなのよ、残念だけど」

《なら蜂と鳥を増やすとか?》
「あぁ、オウル、梟を増やすのは良いかも?」
《ココでは風の精霊達イェル・ルサリィに相当する、女神イルマタールが良いのかも知れませんね》

《忘れとったであろう?》
《とんでもない、機会が無かっただけですよ》

「そう、混ざって大丈夫なんですか?」
《風や空気を分けられようか、無理じゃろうよ》

「まぁ、そうですけど」

《聞く限り、デュオニソス様相当は》
《ペッコじゃろね》
「そうホイホイと」
『細かい事は気にしない、要はどう理解するか、僕らの神性が揺らぐのは民草に浸透してからだよ』

《又は駆逐されるか》
《じゃの》
『文化侵略、ローシュが気にしているのはソレとは違うから大丈夫』

「知らなくてごめんなさい」
『無理も無いよ、凄く遠いんだもの』
《しかも文化侵略を経て壊滅状態なのじゃろ、仕方あるまい》
《どんな方なのですか、大魔女ロウヒとは》

《案内してやるで、セレッサよ》
「ちょ、浮くとか」

 ローシュ様だけが浮いて、セレッサの手の中にローシュ様が収まって飛んで行っちゃったのに。
 船頭の人は何も無かったみたいに船を動かしてる。

『認識阻害の魔法、ちょっと風が強く吹いた程度、僕らが話してる事も普通の世間話に聞こえてるだけ』
《その、僕らにも本当ならこうした魔法は使えるんですよね?》

『封印されたり途絶えたり、復活したり、また滅んだり』
《概念として統一されておらんで、脆く弱いのじゃよ》

のろい、まじない、そうしたモノが源流とされています》
『更に言えば約束』
《ギアスじゃよね》
《アレが魔法の最初なんですか?》

《とも言われておるが》
『魔法とは不思議なモノだとされてる、火を起こすのに不思議な道具を使えばそれは魔法の道具』
《空気から水を取り出しても魔法。因果が分からなければ魔法とされる、ですがソレを魔法と言うかどうか、見る者によって変わりますからね》

《結局は人々に概念として根付くか、じゃよね》
『けれど危ない事に使えば簡単に人は滅ぶ、人が滅べば神も滅ぶ、だから敢えて使えさせなくしたりしたんだけど』
《ローシュ様みたいな人が来て、使ったら》
《ソレを魔法と呼ぶでしょうね》

『だから使い方に道筋を作った、そうして国毎に違う魔法を教える事にした』
《そう導いていたのが聖女、巫女、魔女なんじゃけど》
《魔女狩りが起きてて、ソレだと途絶えちゃいますよね?》

《魔法を使わぬとするだけなら良いんじゃが、他にも使わせぬとなれば、じゃよね》
『神が居なくなればその地では魔法も使えなくなる、と思ったんだろうね』

《そうして私達の国が真っ先に選ばれた、向こうでの一神教の敵、滅ぼしても構わないと。そうして実際に神話体系は完全に崩され、神の座が空白となった》

『でも人は神に願ったり縋ったりする、元の神話の神は消えたままだけど、ワインに関連するデュオニソスは残った』
《そして妻のアリアドネ神も加わり、僅かに残った精霊らが民を支えた》

《魔法も魔導具も便利過ぎじゃからね、危険を遠ざける為に行った者もおるが》
『環境を整えるか滅ぼすか、簡単なのはどっちか分かるよね?』

《でも、蚊みたいにバランスが崩れるんじゃ?》
《いえ、向こうと同じ様な世界になるだけ、世界は滅ばないとローシュが証明しているんですよ》

『でも良いか悪いかで言ったら、良いとは思えないよね』
《じゃから敢えて消える事にしたんじゃよ、魔法を残す為に》
《ですが、上手くいきませんでしたね》

『ね、結局は私利私欲の為に文化侵略をしようとしてる、そうして魔法まで消して科学を成長させようとしてる』
《毒物、薬物、ローシュの世界で言う化学兵器が有れば、魔導具や魔法を使わずとも虐殺は可能ですからね》

『そうして武器で隣国を脅し、言う事を聞かないとなれば略奪し、地と人を汚す』
《領地を拡げ、統一し、理想の国を作ろうとする》
《結局はユートピア思想じゃよね》

《ユートピアって、天国みたいな場所の事ですよね?》
《そう思わせれば良いんですよ、と言うか他が全て地獄なら、その地こそがユートピア》



 飢えず、争わず、全てが平等。
 労働も苦も、病も何も無い国、ユートピア。

『散々、アンジェリークとジェイソンと、マン島で耳が腐りそうになる位に聞かされましたよ。ユートピア思想』
《ネオスやファウストにはまだ聞かせてませんでしたね、どうぞローレンス》

『全ての欲しいモノが揃う楽園、功績を上げれば行ける天国の様な場所、理想が全て叶うのが理想郷だそうで。ただ問題なのが、誰にとっての功績を上げれば行けるのか、どの性別にとっての理想郷なのか』

《理想の女性が処女の状態で存在してくれてるそうですよ、永遠に》
《何か、痛そうなんですけど?》
『だろうね、何度も何度も、再生しても突き破られるんだから』

《そうした甘い言葉で誘導し、意のままに操ろうとする者が居る。本来は女性を大切にし、道徳や衛生観念を守れと伝えていた事を、悪用する者が存在している》

《それって、転移転生者にしか無理なのでは?》
《はい、なのでウチで捕らえた者が偽者だった時点で、存在は確定したも同然なんですが》
『何処に居るのか、名前も何も分からなかった』

《今もなんですか?》

《いえ、名も姿も分かってはいますが、所在は不明のままです》
《じゃが回ってみてハッキリした事は有るでな》
『僕らが居る様な土地にはもう居ない、多神教の根付く地は敵地でもあるからね』

《でも手は出せないんですよね?》
《ローシュの様な者になら、神々は教える事は可能ですから》
《神託でもな、じゃが明確に敵対国となれば民に被害が出るで》
『しかも介入度合いとしては過度になってしまう、だから』

《だからローシュ様に殺させるんですか?》
《いえ、殺すのは私達ですよ》



 なら私はどうすべきなのか、そう考えている間に神々は消え、プダスヤルヴィに着いた頃。
 セレッサがアーリスの肩に。

『セレッサ、ローシュの所に連れてってくれるの?』

 彼女、と言うべきなのか、セレッサが道を外れ森へと飛んで行くと。
 ドアが。

《開けろ、と言う事ですかね》
『僕が開けるよ』

「凄い、本当に繋がった」
『まぁ、この位はな、容易いさ』

「あ、彼はワイナミョイネン様、それとコレは。何処に、でも、ドアね」

『なら寧ろ、何処でもド』
「まぁまぁ、先ずは彼らを良いですか?」

『ぁあ若者達よ、良く来た、さぁ上がりなさい』
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