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旅立ち。
黒海を渡って来た、噂の女。
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淫靡でふしだら、男を誑かし、のし上がった女だと。
そう聞いていたのだが。
『随分と所帯じみているのだな』
「まぁ、使用人モドキもしていましたので」
『そうか』
「彼女達も単に若く見えるだけで、相応の年も重ねていますから、ご心配無く。後は、何かご用でも」
『いや、構わず続けてくれ』
薄汚れた部屋を与えてみたが、少し文句を言ったものの、自ら掃除をし。
洗濯、料理までもを一通りこなし。
ボロ衣を与えれば見事に繕い、刺繍を施し身に纏い。
手近な者に誘わせても靡かず、操を貫き通し。
賄賂も贈り物も一切、受け取りもしなかった。
「殿下、バザールへ行きたい場合の手順をお伺いしたいのですが」
『あぁ、なら明日にでも行ける様に手配をしておこう』
「ありがとうございます、では、失礼致します」
翌朝、陛下から預かっていた衣類と装飾品を渡し、同行する為に待っていたのだが。
『俺には来るな、と』
「大勢で動いては目立ちますし、ソレが目的では無いので」
『あぁ、男漁りか』
「いえ、ですがご心配ならご一緒に平服で最小の護衛で回っても構いませんが、どうなされますか」
『もう良い、勝手にしろ』
「では、失礼致します」
そう言って部屋に戻ったかと思うと、ボロを纏いバザールへ。
―――同情心を煽り、男漁りに使う気だろう。
いや、遊び易い様にだろう。
そう噂されていた通り、付けていた護衛からは男漁りをしていた、との報告が。
やはりな、問い質してみるか。
『やはり、男漁りか』
大きな溜め息を、ワザとらしい。
「どうして、コレだけの荷物持ちつつ買い回りながら、男を漁れると言うのですかね」
『何処かに預け、漁るなど、お前の様な女になら簡単な事だろう』
「そんな便利な場所があるのですか」
『引っ掛けた男にでも預ければ良いだろうに』
「つまり、公式の荷物の預け場は無いのですね?」
『あぁ、有るワケ無いだろ』
「成程。ですが荷物を持ち歩きながら買い物をしていただけ、そしてハマムやカフェには寄りましたが、男漁りはしていません。もう良いですかね、荷物を下ろしたいので」
俺が見ていないの良い事に、認めないか。
『ふん、好きにすれば良いさ』
「では、失礼致します」
周りが言う様な女性には思えない、けれど。
『アレがボロを出すまで、お前は近寄らない方が良いかも知れないな』
《かも知れませんが》
『火のない所に煙は立たぬ、煙が立つだけの裏が有る筈だ』
《それでも、王命は傷付けぬ様に、相応に扱えとの事ですし》
『目立つ傷が無ければ良いのだろう、何せ相応、なのだからな』
《兄上》
『分かっている、お前は優しい奴だ。そうだな、お前が優しくすればボロを出すかも知れない、お前はお前で好きにすると良い』
《はい、分かりました、ですけどどうか穏便にお願いします》
『おう』
優しく。
とは言われたものの。
「結構です、お気持ちだけで品物は結構です」
《あ、遠慮なさらないで下さい、兄の事も含めてのお詫びですので》
「いえ、結構です。では、失礼致します」
宝飾品も布も一切受け取っては貰えず。
手紙は読めないからと突き返され、本を与えれば取引明細なるモノを書かされ。
《何なら、快く受け取って下さるんでしょうか》
「真心、ですかね」
あぁ、噂は全く出鱈目だったんだ。
そう確信した瞬間、僕の心は彼女のモノになってしまった。
下心も無く、バザールへ同行すると言う兄上の誘いも、敢えて避けてくれての事。
そして食事の事でも、僕らを守る周りの者に気を使い、敢えて自分達だけで大丈夫だと。
こんなにも優しく、頭も良い。
そんな彼女を手放したくなくなってしまった。
なのに。
『まだ、俺は信じたワケじゃないからな』
《すみません、兄は僕を可愛がるあまり心配していて。次までには必ず、説得してみせますから》
「いえ、ご心配には及びませんのでお気遣いは無用です、僅かですが大変お世話になりました。では、失礼致します」
《では、次は僕ら兄弟の家へ》
『ご案内致しますね』
「お世話になります」
『精々チヤホヤされてれば良いさ』
《兄上》
前の兄弟の家では、随分と質素な暮らしをさせられていたらしく。
「ハマムが、有るんですか?」
『勿論』
《前の家にも有った筈なんだけれど》
「あぁ、なら在り処を聞き流していたのかも知れません、生まれも平凡ですので」
《ココでは誰か使用人に言い付けてくれれば、自由に使ってくれて構わないよ》
『俺達も使う場所ですからね、使っていたら直ぐにとは言えないですけど、言ってくれれば使える時間をお伝えします』
「成程、ありがとうございます」
噂とは真反対。
謙虚で控えめ、下働きの仕事は勿論、刺繍もしっかりとこなす。
身のこなしは上品で、けれども他の者が言う様に、確かに淫靡ではある。
布越しにも分かる豊満な体、けれども決して肌を見せず、礼儀正しい。
薄衣越しにも崩れぬ表情を、かき乱してみたい。
《そう思わせるからこそ、煙を誰かが立てたのかも知れないね、自分の手中に収める為に》
『成程、長兄にも魅力的に見えますか』
《エレンもですか》
『だとしても、俺は手を出すつもりは無いです』
《譲ってくれるとは、でも後で欲しがってもあげませんから》
『そうならない様に頑張って下さい、四弟も気に入っている様子だったんだし』
《はいはい、ありがとうエレン》
二兄は気に入らなかったらしいが、四弟と長兄が落ちた。
長兄は女がウチに来て以来、直ぐにも部屋に通い詰め。
3日目には好みを聞き出し、贈り物を上手く受け取らせてはいたが。
『ご迷惑では』
「まぁ、そこそこ、そもそもココで暮らす気は無いので。ですけど兄弟達の誤解は解くからと、もう少し冷静になる様に諌めて頂けませんか」
『難しいですね、諌めれば横恋慕と勘違いされてしまうかも知れないので』
「あぁ、じゃあ、彼が嫌いそうな何かを教えて下さい。食べ物でも、人の好みでも」
面白い案ではあるが。
『寧ろ、アレは意外と飽き性なので、抱かれてしまえばどうでしょう』
淫売なら、コレで食う筈だが。
「彼が他に気に入っている者を身代わりに、とか出来ませんかね」
『成程。ただココに入れるには少々、難アリの娘でして』
「ほう」
『踊り子なんですよ』
「あぁ」
『なのでまぁ、1回させれば収まるかと』
ほら、お墨付きも同然だ。
「そこでドハマりされる危険性は、あぁ、王位が欲しいですか?」
『まさか、そこまでアレがバカだとは思ってもいませんし、表より裏で動きたいので排除は望んでませんよ。だから間に立とうとしてるんですし』
「なら、ドハマりしたら?」
確かに、噂が立つ程なんだ。
それこそ、そうなったら。
『まぁ、そこはもう、運命だと思って受け入れますけど。そんなに凶器なら協力しますから、どうか穏便に過ごして貰えませんかね』
「なら、是非、ご協力をお願いしますね」
この女、コレが狙いだったのかと思う程、俺の扱いが上手かった。
俺にその気が無いのを言い事に、俺を気に入っているので無理だと兄弟達への方便に使い始めて。
《エレン》
『言いましたよね、俺にはその気が無いって』
《本当に良いのかい?》
『勿論ですよ』
仕返しのつもりで、侍女諸共酔わせ、長兄を部屋へと引き入れた。
そして翌日には手付けにした、と。
ただ、やはり、他の女と同じで大した事は無かったと。
相変わらず好意は有るらしいが、徐々に関心が薄れていき。
「お世話になりました」
《離れるのは寂しいけれど、必ず兄弟達を説得してみせるよ》
「いえ、お国を第1にお考え下さい、では」
《あぁ、エレン、送りを頼んだよ》
『はい』
この女、全く態度が変わらない。
それこそウチに来る前とも、何もかも。
「踊り子の情報、大変有意義に使わせて頂きましたので、ご心配無く」
『は、じゃあアンタ』
「してませんよ」
『あぁ、そうか』
「はい」
『ならアンタ、マジで相当の凶器持ちなのか』
「まぁ、自国でも傾国のと噂はされてましたが、試してみますか」
『イヤ、俺が王族じゃなくなったら頼むわ、1回だけ』
「考えときます」
なら、あの噂は何処までが本当なのか、益々分からなくなったぞコレは。
そう聞いていたのだが。
『随分と所帯じみているのだな』
「まぁ、使用人モドキもしていましたので」
『そうか』
「彼女達も単に若く見えるだけで、相応の年も重ねていますから、ご心配無く。後は、何かご用でも」
『いや、構わず続けてくれ』
薄汚れた部屋を与えてみたが、少し文句を言ったものの、自ら掃除をし。
洗濯、料理までもを一通りこなし。
ボロ衣を与えれば見事に繕い、刺繍を施し身に纏い。
手近な者に誘わせても靡かず、操を貫き通し。
賄賂も贈り物も一切、受け取りもしなかった。
「殿下、バザールへ行きたい場合の手順をお伺いしたいのですが」
『あぁ、なら明日にでも行ける様に手配をしておこう』
「ありがとうございます、では、失礼致します」
翌朝、陛下から預かっていた衣類と装飾品を渡し、同行する為に待っていたのだが。
『俺には来るな、と』
「大勢で動いては目立ちますし、ソレが目的では無いので」
『あぁ、男漁りか』
「いえ、ですがご心配ならご一緒に平服で最小の護衛で回っても構いませんが、どうなされますか」
『もう良い、勝手にしろ』
「では、失礼致します」
そう言って部屋に戻ったかと思うと、ボロを纏いバザールへ。
―――同情心を煽り、男漁りに使う気だろう。
いや、遊び易い様にだろう。
そう噂されていた通り、付けていた護衛からは男漁りをしていた、との報告が。
やはりな、問い質してみるか。
『やはり、男漁りか』
大きな溜め息を、ワザとらしい。
「どうして、コレだけの荷物持ちつつ買い回りながら、男を漁れると言うのですかね」
『何処かに預け、漁るなど、お前の様な女になら簡単な事だろう』
「そんな便利な場所があるのですか」
『引っ掛けた男にでも預ければ良いだろうに』
「つまり、公式の荷物の預け場は無いのですね?」
『あぁ、有るワケ無いだろ』
「成程。ですが荷物を持ち歩きながら買い物をしていただけ、そしてハマムやカフェには寄りましたが、男漁りはしていません。もう良いですかね、荷物を下ろしたいので」
俺が見ていないの良い事に、認めないか。
『ふん、好きにすれば良いさ』
「では、失礼致します」
周りが言う様な女性には思えない、けれど。
『アレがボロを出すまで、お前は近寄らない方が良いかも知れないな』
《かも知れませんが》
『火のない所に煙は立たぬ、煙が立つだけの裏が有る筈だ』
《それでも、王命は傷付けぬ様に、相応に扱えとの事ですし》
『目立つ傷が無ければ良いのだろう、何せ相応、なのだからな』
《兄上》
『分かっている、お前は優しい奴だ。そうだな、お前が優しくすればボロを出すかも知れない、お前はお前で好きにすると良い』
《はい、分かりました、ですけどどうか穏便にお願いします》
『おう』
優しく。
とは言われたものの。
「結構です、お気持ちだけで品物は結構です」
《あ、遠慮なさらないで下さい、兄の事も含めてのお詫びですので》
「いえ、結構です。では、失礼致します」
宝飾品も布も一切受け取っては貰えず。
手紙は読めないからと突き返され、本を与えれば取引明細なるモノを書かされ。
《何なら、快く受け取って下さるんでしょうか》
「真心、ですかね」
あぁ、噂は全く出鱈目だったんだ。
そう確信した瞬間、僕の心は彼女のモノになってしまった。
下心も無く、バザールへ同行すると言う兄上の誘いも、敢えて避けてくれての事。
そして食事の事でも、僕らを守る周りの者に気を使い、敢えて自分達だけで大丈夫だと。
こんなにも優しく、頭も良い。
そんな彼女を手放したくなくなってしまった。
なのに。
『まだ、俺は信じたワケじゃないからな』
《すみません、兄は僕を可愛がるあまり心配していて。次までには必ず、説得してみせますから》
「いえ、ご心配には及びませんのでお気遣いは無用です、僅かですが大変お世話になりました。では、失礼致します」
《では、次は僕ら兄弟の家へ》
『ご案内致しますね』
「お世話になります」
『精々チヤホヤされてれば良いさ』
《兄上》
前の兄弟の家では、随分と質素な暮らしをさせられていたらしく。
「ハマムが、有るんですか?」
『勿論』
《前の家にも有った筈なんだけれど》
「あぁ、なら在り処を聞き流していたのかも知れません、生まれも平凡ですので」
《ココでは誰か使用人に言い付けてくれれば、自由に使ってくれて構わないよ》
『俺達も使う場所ですからね、使っていたら直ぐにとは言えないですけど、言ってくれれば使える時間をお伝えします』
「成程、ありがとうございます」
噂とは真反対。
謙虚で控えめ、下働きの仕事は勿論、刺繍もしっかりとこなす。
身のこなしは上品で、けれども他の者が言う様に、確かに淫靡ではある。
布越しにも分かる豊満な体、けれども決して肌を見せず、礼儀正しい。
薄衣越しにも崩れぬ表情を、かき乱してみたい。
《そう思わせるからこそ、煙を誰かが立てたのかも知れないね、自分の手中に収める為に》
『成程、長兄にも魅力的に見えますか』
《エレンもですか》
『だとしても、俺は手を出すつもりは無いです』
《譲ってくれるとは、でも後で欲しがってもあげませんから》
『そうならない様に頑張って下さい、四弟も気に入っている様子だったんだし』
《はいはい、ありがとうエレン》
二兄は気に入らなかったらしいが、四弟と長兄が落ちた。
長兄は女がウチに来て以来、直ぐにも部屋に通い詰め。
3日目には好みを聞き出し、贈り物を上手く受け取らせてはいたが。
『ご迷惑では』
「まぁ、そこそこ、そもそもココで暮らす気は無いので。ですけど兄弟達の誤解は解くからと、もう少し冷静になる様に諌めて頂けませんか」
『難しいですね、諌めれば横恋慕と勘違いされてしまうかも知れないので』
「あぁ、じゃあ、彼が嫌いそうな何かを教えて下さい。食べ物でも、人の好みでも」
面白い案ではあるが。
『寧ろ、アレは意外と飽き性なので、抱かれてしまえばどうでしょう』
淫売なら、コレで食う筈だが。
「彼が他に気に入っている者を身代わりに、とか出来ませんかね」
『成程。ただココに入れるには少々、難アリの娘でして』
「ほう」
『踊り子なんですよ』
「あぁ」
『なのでまぁ、1回させれば収まるかと』
ほら、お墨付きも同然だ。
「そこでドハマりされる危険性は、あぁ、王位が欲しいですか?」
『まさか、そこまでアレがバカだとは思ってもいませんし、表より裏で動きたいので排除は望んでませんよ。だから間に立とうとしてるんですし』
「なら、ドハマりしたら?」
確かに、噂が立つ程なんだ。
それこそ、そうなったら。
『まぁ、そこはもう、運命だと思って受け入れますけど。そんなに凶器なら協力しますから、どうか穏便に過ごして貰えませんかね』
「なら、是非、ご協力をお願いしますね」
この女、コレが狙いだったのかと思う程、俺の扱いが上手かった。
俺にその気が無いのを言い事に、俺を気に入っているので無理だと兄弟達への方便に使い始めて。
《エレン》
『言いましたよね、俺にはその気が無いって』
《本当に良いのかい?》
『勿論ですよ』
仕返しのつもりで、侍女諸共酔わせ、長兄を部屋へと引き入れた。
そして翌日には手付けにした、と。
ただ、やはり、他の女と同じで大した事は無かったと。
相変わらず好意は有るらしいが、徐々に関心が薄れていき。
「お世話になりました」
《離れるのは寂しいけれど、必ず兄弟達を説得してみせるよ》
「いえ、お国を第1にお考え下さい、では」
《あぁ、エレン、送りを頼んだよ》
『はい』
この女、全く態度が変わらない。
それこそウチに来る前とも、何もかも。
「踊り子の情報、大変有意義に使わせて頂きましたので、ご心配無く」
『は、じゃあアンタ』
「してませんよ」
『あぁ、そうか』
「はい」
『ならアンタ、マジで相当の凶器持ちなのか』
「まぁ、自国でも傾国のと噂はされてましたが、試してみますか」
『イヤ、俺が王族じゃなくなったら頼むわ、1回だけ』
「考えときます」
なら、あの噂は何処までが本当なのか、益々分からなくなったぞコレは。
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