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第28章 外の者と内の者。
妖精と教授。
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私がまだ幼い頃に、教授と出会いました。
《ほう、異国の子かね》
『言葉ハ、分かりマス』
《ふむ、では先ず身の上から、話し給え》
『ハイ』
嘗て、私が居た国は、妖精の居る豊かな国でした。
ですがもう、今の愛蘭はもう、ダメなのです。
とある宗教に蹂躙され、民話も神話も精霊も、文化も。
その殆どが姿を消し。
妖精は、各国に散らばる事になってしまったのです。
祖国であっても、もう母国では無い。
私は、帰る場所を失くしてしまったのです。
《ほう、では今は、どうなっていると言うのかね》
では、如何に今の国が混乱し、完全に統治されているか。
お教えしましょう。
《おはよう諸君!》
「「おはようございます!総裁!!」」
性別、年齢毎に、全てが決められています。
食事の内容は勿論、学ぶ事、趣味も3つ程の中から選ぶのみ。
女性なら刺繍、料理。
男なら乗馬や狩り、武道、そして勉学は男だけのモノ。
12才男児が選ぶべき趣味を、8才女児が選ぶ事は出来無い。
そして逆も然り。
もし、相応で無い事を選んでしまったら。
《しかもお前は左利き、では処するしかもう無い》
左利きで申し訳御座いません!
選ぶ趣味を間違えて申し訳御座いません!
学ぶべきでは無い勉学を学ぼうとして申し訳御座いません!
全ての子供達の前で、叫びながら謝罪させられ続け、鞭を打たれ続けます。
年の数だけ、鉄の鞭で。
生き残る子供は居りません。
ですが、子供達は減りませんでした。
親達は次々に、子供を差し出したからです。
信心深いのなら、子供を差し出しなさい。
そしていつしか、良き子供がアナタの下に戻るでしょう。
そう教えられ、3才までは親が育てる事が出来ますが。
以降は全て、接収されます。
そして親達は決められた農地を管理し、納め、再分配された食べ物や衣類で過ごす。
その事には何の疑問も浮かびません。
昔からそうしていた。
昔からの決まりだから、と。
そうして一揆も起こらず、国は平和そのものでした。
酒は存在しません。
煙草も眼鏡も存在しません。
絵は教会にしか有りません。
文字は聖なる書物にしか有りません。
農民を領主が管理し。
領主の管理は教区の者、そして教区の者を枢機卿が、枢機卿は教皇が管理しておりました。
ですが、外部から敵が来る事が何度か有り。
そして最後には、真っ赤な布を見に纏った、真っ赤な翼を持った女神が現れた。
私達子供は外を知りました。
何があったのか。
私達には何が無かったのかを。
《ほう、では君は自由なる言葉に対して、どんな印象を持っているのだね》
『義務ヤ責任、伴いマス』
《発音以外は問題無さそうだが、1つ、君は我々に嘘を吐いている》
嘗て、確かにそうした事が起きた国は有ったが。
その国は何百年も前に、とっくに滅んでおる。
確かにオセアニアなる国が今でも存在し、そうした思想を持つ者達が暮らしているそうだが。
今では、子供を虐げる事は禁じられている。
そう、今では有り得ない。
有り得てはならない事なのだよ。
『では、一体、私は何者なのでしょう』
《ふむ、やはり片言の愛嬌は必要だ。そして嘘を隠すにも、言葉足らずは便利な道具。君は亡命希望者、だがこの国への忠誠心と愛国心が無いのなら、我々は君をアバロンへと還さねばならない》
『私は、伴侶を探しに来たのです』
《では亡命を受け入れるとしよう》
『宜しいのですか、そうアナタの一存で』
《ほう、やはり君らですらも、ココの神仏の意を感じ取る事は難しいか。君が国に入れた時点で、神仏が存在を許したも同然、いや寧ろ君は必要とされている可能性すら有る。であるからして》
元よりワシは良いポンコツ、そして傀儡であり、この国の為に動く男。
虚栄心に満ち、学が無い事を隠す才が有り、周囲の視線を気にしない。
そんな男の、君は助手となるのだよ。
『はい、喜んで』
《ふむ、実に可愛げが無い口ぶりだ、以降は慎む様に》
『ハイ』
《宜しい、帰宅だ!》
教授は、私が妖精だと知っています。
ですが決して、何かを聞き出そうとはしません。
『コレは、歯の妖精、デスね』
《ほう、鼠にしか見えんが、どう言う事だろうか》
『鼠の歯、伸び続けマス』
《あぁ、鼠の歯と取り換えろ、そう言いながら屋根や縁の下に投げるが。コヤツは妖精なのだろう》
『間違エテ学んだ、親の財布カラ硬貨を出すしかナイ妖精、デスから』
《ふむ、やはりコチラで言う妖怪、か》
『ハイ』
《資料を用意し、提出する様に、処分は君が考える通りで構わん》
『ハイ、承知』
それ以来、家には様々な妖精が住み着きました。
ですが教授は何も言わず、何もしません。
そう、それはとても当たり前に存在し、さも最初から知っているかの様に。
《コレコレ、小泉君、コイツにしっかり躾けをせんかね》
妖精は良い者に良く懐きます。
そして学びます。
歯の妖精は、教授の枕をクルクルと回す様になりました。
きっと、枕返しと出会ったのでしょう。
『キット、教授の枕、気に入りマシた』
《爺臭い枕を好むとは、実に不可思議なヤツらだ、全く。小泉君、ほれ、そこの牛乳が入っておらんぞ、アレに暴れられては敵わん》
『ハイ』
彼は良く知っています。
誰が何者であるかを。
ですがとてもポンコツです。
とても良いポンコツなのです。
《ほう、異国の子かね》
『言葉ハ、分かりマス』
《ふむ、では先ず身の上から、話し給え》
『ハイ』
嘗て、私が居た国は、妖精の居る豊かな国でした。
ですがもう、今の愛蘭はもう、ダメなのです。
とある宗教に蹂躙され、民話も神話も精霊も、文化も。
その殆どが姿を消し。
妖精は、各国に散らばる事になってしまったのです。
祖国であっても、もう母国では無い。
私は、帰る場所を失くしてしまったのです。
《ほう、では今は、どうなっていると言うのかね》
では、如何に今の国が混乱し、完全に統治されているか。
お教えしましょう。
《おはよう諸君!》
「「おはようございます!総裁!!」」
性別、年齢毎に、全てが決められています。
食事の内容は勿論、学ぶ事、趣味も3つ程の中から選ぶのみ。
女性なら刺繍、料理。
男なら乗馬や狩り、武道、そして勉学は男だけのモノ。
12才男児が選ぶべき趣味を、8才女児が選ぶ事は出来無い。
そして逆も然り。
もし、相応で無い事を選んでしまったら。
《しかもお前は左利き、では処するしかもう無い》
左利きで申し訳御座いません!
選ぶ趣味を間違えて申し訳御座いません!
学ぶべきでは無い勉学を学ぼうとして申し訳御座いません!
全ての子供達の前で、叫びながら謝罪させられ続け、鞭を打たれ続けます。
年の数だけ、鉄の鞭で。
生き残る子供は居りません。
ですが、子供達は減りませんでした。
親達は次々に、子供を差し出したからです。
信心深いのなら、子供を差し出しなさい。
そしていつしか、良き子供がアナタの下に戻るでしょう。
そう教えられ、3才までは親が育てる事が出来ますが。
以降は全て、接収されます。
そして親達は決められた農地を管理し、納め、再分配された食べ物や衣類で過ごす。
その事には何の疑問も浮かびません。
昔からそうしていた。
昔からの決まりだから、と。
そうして一揆も起こらず、国は平和そのものでした。
酒は存在しません。
煙草も眼鏡も存在しません。
絵は教会にしか有りません。
文字は聖なる書物にしか有りません。
農民を領主が管理し。
領主の管理は教区の者、そして教区の者を枢機卿が、枢機卿は教皇が管理しておりました。
ですが、外部から敵が来る事が何度か有り。
そして最後には、真っ赤な布を見に纏った、真っ赤な翼を持った女神が現れた。
私達子供は外を知りました。
何があったのか。
私達には何が無かったのかを。
《ほう、では君は自由なる言葉に対して、どんな印象を持っているのだね》
『義務ヤ責任、伴いマス』
《発音以外は問題無さそうだが、1つ、君は我々に嘘を吐いている》
嘗て、確かにそうした事が起きた国は有ったが。
その国は何百年も前に、とっくに滅んでおる。
確かにオセアニアなる国が今でも存在し、そうした思想を持つ者達が暮らしているそうだが。
今では、子供を虐げる事は禁じられている。
そう、今では有り得ない。
有り得てはならない事なのだよ。
『では、一体、私は何者なのでしょう』
《ふむ、やはり片言の愛嬌は必要だ。そして嘘を隠すにも、言葉足らずは便利な道具。君は亡命希望者、だがこの国への忠誠心と愛国心が無いのなら、我々は君をアバロンへと還さねばならない》
『私は、伴侶を探しに来たのです』
《では亡命を受け入れるとしよう》
『宜しいのですか、そうアナタの一存で』
《ほう、やはり君らですらも、ココの神仏の意を感じ取る事は難しいか。君が国に入れた時点で、神仏が存在を許したも同然、いや寧ろ君は必要とされている可能性すら有る。であるからして》
元よりワシは良いポンコツ、そして傀儡であり、この国の為に動く男。
虚栄心に満ち、学が無い事を隠す才が有り、周囲の視線を気にしない。
そんな男の、君は助手となるのだよ。
『はい、喜んで』
《ふむ、実に可愛げが無い口ぶりだ、以降は慎む様に》
『ハイ』
《宜しい、帰宅だ!》
教授は、私が妖精だと知っています。
ですが決して、何かを聞き出そうとはしません。
『コレは、歯の妖精、デスね』
《ほう、鼠にしか見えんが、どう言う事だろうか》
『鼠の歯、伸び続けマス』
《あぁ、鼠の歯と取り換えろ、そう言いながら屋根や縁の下に投げるが。コヤツは妖精なのだろう》
『間違エテ学んだ、親の財布カラ硬貨を出すしかナイ妖精、デスから』
《ふむ、やはりコチラで言う妖怪、か》
『ハイ』
《資料を用意し、提出する様に、処分は君が考える通りで構わん》
『ハイ、承知』
それ以来、家には様々な妖精が住み着きました。
ですが教授は何も言わず、何もしません。
そう、それはとても当たり前に存在し、さも最初から知っているかの様に。
《コレコレ、小泉君、コイツにしっかり躾けをせんかね》
妖精は良い者に良く懐きます。
そして学びます。
歯の妖精は、教授の枕をクルクルと回す様になりました。
きっと、枕返しと出会ったのでしょう。
『キット、教授の枕、気に入りマシた』
《爺臭い枕を好むとは、実に不可思議なヤツらだ、全く。小泉君、ほれ、そこの牛乳が入っておらんぞ、アレに暴れられては敵わん》
『ハイ』
彼は良く知っています。
誰が何者であるかを。
ですがとてもポンコツです。
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