上 下
129 / 188
第24章 家政婦と庭師。

2 家政婦と庭師。

しおりを挟む
《家政婦として配属されました、宜しくお願い致します》
「庭師として配属されました、宜しくお願い致します」

『君達は、夫婦なのかな』
《はい、そうなんです、なので名字が同じなんです。ふふふ》

 最初、俺は兄妹を寄越すと言われており、コレは冗談なのかと思っていた。

『そうか、家政婦が突然辞めてしまってね、引き継ぎは無いがノートに纏めてくれていたんだ。頼むよ、使用人部屋を案内する、それと妻と俺の部屋には入らないように』
《はい、畏まりました》

 とある富豪の子供が、こうして使用人として出されるには大抵ワケが有る。
 だからこそ、最初は兄妹を警戒していたんだが、特に問題は起こさなかった。

 俺と妻の部屋に入る事も無く、何を盗む事も悪戯をするでもなく。
 粛々と家の事をこなし、庭の手入れをしてくれていた。

 ただ、やはり問題の有る兄妹だった。

 何処ででも仲睦まじい夫婦の様に接し。
 夜は兄妹同士で睦み合っていた。

 ただ、俺に問題が有るからこそ、誰に迷惑を掛けなければ良いじゃないかと思っていた。

 呆けて、寝たきりになった妻を愛し。
 喜んで世話をしているのだから。

《黒木様、おはようございます、お食事をどうぞ》

『あ、あぁ、もうそんな時期か』
《はい、七草粥です、奥様にもどうぞ》

『助かるよ、俺はこうした事には疎くてね』
《いえいえ、では》

 俺は妻との部屋で食事をし、寝起きは隣の自室で。
 広い屋敷を持て余し、そろそろ何処か田舎に行こうかと、妻と相談している時期だった。

 粥を食べさせ、自分も食べた直後から、俺の意識は途切れた。



「様子がおかしかったので運ばせて頂きました」
《大丈夫ですか?お医者は過労と不養生だって、熱を出して寝込んでらしたんですよ》

『目が、おかしい、酷くぼやけて』
《あぁ、お可哀想に、きっと熱でやられてしまったんですね。直ぐにお医者様を呼び戻しますから、安静になさって下さい、付き添ってあげて》
「はい」

 この時俺は、恐怖と同時に安堵を覚えた。
 もう、あの妻を見なくて済む、そんな安堵と世話が出来ず愛想を尽かされてしまう恐怖に。

 手に汗を掻き、震えが起き。

『すまない、1人にしてくれないか』
「先ずは厠に行きましょう、お医者様が言ってました、出ないと危ないと」

『あぁ、そうか、頼んだ』
「どうぞ」

 彼は俺より少し華奢なのにも関わらず、容易に立ち上がらせ、厠まで付き添ってくれた。

 見知った筈の家がまるで見知らぬ場所に思え、更に不安が増した。
 この状態で、ココで暮らせるのか。

 妻の世話を出来るのか、と。

『すまない、助かった』
「いえ」

 そして部屋に戻り、暫くすると、いつもの医者と家政婦の声が聞こえた。

 診断は、過労と不養生から目を悪くし回復の見込みは無い、と。
 俺は何も考える事が出来ず、返事すらもままならなかった。

《あの、下がりますね》
『いや、妻の世話が』
「なら、案内します」

『頼む』

 そして俺は妻との部屋に向かい、事情を説明する事に。

《あぁ、奥様、悲しんでらっしゃいますのね》
「俺達にも手伝わせて貰えませんか」

 妻に他の男を近付けたくは無かったけれど、か細い家政婦の腕では、妻の世話は難しいだろう。
 そう思い、彼らにも手伝って貰う事になった。

 それが良い変化だったのか、妻の容態に変化が現れ始めた。

《まぁ奥様、薔薇を》

 ぼやける目で見えたのは、家政婦に抱えられながらも何とか歩いた妻が薔薇を切り、俺に渡しに来てくれた姿だった。

『ありがとう』

 そして、時に家政婦にも話をする様になり。

《刺繡がしてみたいそうですが、どうしましょう》

『俺は手元が良く見えない、付き添って、手際次第で取り上げてくれないか』
《はい、畏まりました》

 そして妻から、薔薇と思し召し刺繡を貰えた。

『あぁ、良く出来ているね、ありがとう』

 喜ぶべき事、嬉しい筈の出来事に胸が痛くなった。

 もし妻が回復してしまえば、俺は必要無くなってしまう。
 妻の傍に。

《旦那様》
『すまない、嬉しくてね』

 妻が回復すればする程、俺は心から喜べない。
 こんな俺だから、妻には拒絶された。

 本来なら、あれだけ離縁していたがっていた彼女を、本当なら手放すべきだと分かっている。

 けれど、嘗てこんなにも満たされた時間は無かった。
 彼女が居なければ、俺は。



「旦那様」

『あぁ、何かな』
「僭越ながら、申し上げます。奥様を、手放す時期が来たのでは」

 俺は、それが頭の中では正しいと理解している。
 分かっているのに、どうしても。

『離れ難いんだ』

「すみません、下がります」

 その日も、思い悩んだせいか熱を出してしまった。
 目が見え難くなり、あまり動かなくなったせいで、便秘から熱を出してしまったらしい。

『はぁ、すまない』
《いえいえ、寧ろ私の食事も悪かったそうで、すみません》

『いや、動かないでいた俺も良くなかった』
《それで、あの、コチラを処方されまして》
「浣腸です」

『あ、あぁ』
《ただ、私がするのもアレなので、その》
「慣れてますから任せて下さい」

『慣れ』
《私も便秘になり易いので、はぃ》
「さっさと出しましょう、楽になりますよ」

『いや、いや、分かった、頼むよ』
「初めてだそうですから多めに処方頂いたんで、先ずは慣れて下さい、吐き気がしたら我慢しないで下さい」

『分かった』
《では、失礼致します》

 不快感と吐き気で、本当に堪らなかった。
 直ぐに堪えきれなくなり、厠へ。

『はぁ』
「戻りましょう、次はもう少し長く我慢して下さい」

『あぁ、ならせめて厠の近くの部屋で』
「ダメです、我慢して下さい」

 日頃の不摂生に運動不足を、激しく後悔した。
 改善しなければ、またこの苦痛を味わう事になる。

 それはもうう、ぜったに回避しなければ。

『もう』
「もう少し我慢しましょう」

『いや、無理だ、頼むから離してくれ』
「何度も繰り返す事になりますよ、良いんですか」

『それでも、粗相は』
「大丈夫です、俺達が片しますから」

『頼む』
「分かりました、行きましょうか」

 何とか粗相をせず、厠へ行けた。
 けれど。

『まだ、するのか』
「念の為に、もう1度します」

『分かった』
「もう少し入れますね」

 なんて罰なんだろうか、と。
 もしコレが罰なら寧ろ軽いモノなのかも知れない、けれど、コレは。

『漏れ出ていないだろうか』
「大丈夫です、俺達が掃除します、それにコレは仕方無いんですから」

『もし俺が粗相をしたら』
「百合の花を匂い消しに置きますから、安心して下さい」

『すまない』
「いえ」

『もう限界なんだが』
「もう少し我慢して下さい、我慢すればする程、早く楽になりますよ」

『いや、もう、目の前で待機させて欲しい』

「分かりました」

 そう言って立ち上がらせてくれたものの、彼の意地が悪いのかと思える程、ゆっくりで。

『もう、俺1人でも』
「離したら駆け込みそうなのでダメです」

『本当に、粗相を』
「良いんですよ、黒木様はご病気なんですから。大丈夫、アナタは綺麗だ」

『冗談は、本当に勘弁してくれないか』
「しっかり掃除しますから、漏らしても大丈夫ですよ」

『俺が嫌なんだ』
「嫌がる素振りも良いですね」

『本当に』
「分かりました、どうぞ」

 急いで駆け込み、何とか粗相は逃れた。
 そして確かに、楽にはなった。

『もう、勘弁してくれないか』
「すみません、気を紛らわそうとして」

『いや、そうか、良いんだ。ありがとう』
「いえ、少し休みましょうか。お水をどうぞ、それと少量の下剤も、念の為です」

『あぁ、ありがとう』

「すみません」
『良いんだ、元は不摂生のせいだからね』

「摩らせて下さい」
『寝かし付けてくれる気かい』

「はい」

『まぁ、良いよ、好きにしなさい』

 慣れない事をした疲労感からか、微熱からか。
 俺は庭師に撫でられ、そのまま熟睡してしまった。

 そして、次の日も。

「おはようございます」

『あぁ、おはよう』
「念の為です」

 彼の手には、昨夜苦しめられた品が。

『はぁ、仕方が無い、か』
「下剤も効いてる筈ですし、追加更に追加で頂きましたから、限界まで入れますよ」

『いや、その前に、少し待ってくれないか』

「あぁ、元気になったんですね」
『いや、まぁ、すまない』

「分かりました、このまま軽く入れますから、出し切ってきて下さい」

『あぁ、頼んだ』

 どうせ収まらなければ出ないのだから、そう軽く考え、身を任せたのが間違いだった。
 また違う異物感を感じ、思わず身をよじると。

「栓をしたから大丈夫ですよ、先ずは前を楽にしましょうか」

『いや、一体何を言って』
「力むと栓が抜けますよ、楽にしてて下さい」

『いや、だからと言って』
「足を閉じて、真っ直ぐにしてれば大丈夫ですよ」

『待ってくれ、ほっておけば』

 力を入れられないまま、あっと言う間に蹂躙されてしまった。
 男に、初めて他人に。

「さ、行きましょう」

 何事も無かった様に、栓を抑えながらも立ち上がらせた。
 彼は、一体何を考えているのか。

『君は、一体何を』
「黒木様の役に立ちたいだけです」

 そう言ったからと思うと庭師は俺を抱き締め、直ぐに厠へと手を引き始めた。
 俺は、何が起きたのか全く分からなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

アレンジ可シチュボ等のフリー台本集77選

上津英
大衆娯楽
シチュエーションボイス等のフリー台本集です。女性向けで書いていますが、男性向けでの使用も可です。 一人用の短い恋愛系中心。 【利用規約】 ・一人称・語尾・方言・男女逆転などのアレンジはご自由に。 ・シチュボ以外にもASMR・ボイスドラマ・朗読・配信・声劇にどうぞお使いください。 ・個人の使用報告は不要ですが、クレジットの表記はお願い致します。

処理中です...