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第22章 機関と教授と担当。

3 耳切り。

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 翌日、豪華な朝食が。

 島根名物のあご野焼きに、山菜のお漬物は勿論、茸のお味噌汁。
 そして、ドジョウ鍋。

「すみません、こんなに手間を掛けて頂いて」
『いえいえ、それ養殖しとるんですよ』

「あー、お水が綺麗ですもんね、頂きます」
『はいどうぞ、召し上がれ』

 父も母も訛る時は凄い訛るんですけど、家だとそう訛らないので、全く気が付きませんでした。
 でも、出稼ぎが多いなら。

 そうなると、耳切りの事は言わない方が良いぞ、そうなる筈なんですよね。

 でも、そうはならなかった。
 なら、何故そうならなかったのか。

『ォーウ、コレ好きデース』
『あぁ、ソレね、タキナだよ』
「あ、やっぱり、ウチの方ではミズって言うんですよ。正式名称はウワバミソウ、だそうです、僕も好きなんですよコレ」

『あぁ、良い時期に来たね、もう最後だから』
「あっと言う間ですよね、漬けたりもしてるんですか?」

『もう樽いっぱいやって、ムカゴも。あぁ、明日はタキナのムカゴのお浸しにするかい?』
「えー、良いんですか?」

『良いの良い、幾らでも採れるもの』
「本当ならお手伝いしたいんですけど、そうした事は、決まりでして」

『あぁ、どうせ3人でちゃっちゃかやって、道具だって3人分しか無いのだもの。お話を聞きに行ってて大丈夫よ、皆で分けるのだもの』
「なら、お言葉に甘えて」

『美味しいは良い事、たんと良い事を書いて貰わないとね』
「ですよね、ありがとうございます」

 そして食後には、早速聞き取り調査です。
 先日同様に村を周り、休憩中の方々に聞き取りをし、また村を周り。

《ココは3人組が基本みたいですね》
『デースね、山に入るにも3人以上が揃わないとダメー』
「あ、それはウチもですよ、大昔に2人で入らせて1人で戻って来る。そう諍いを山で起こしたので、麓の家が1軒潰されたから、と」

『ォーゥ、ココにも貴重な口伝が。それはイツの事デスか?』
「そこなんですよね、大昔から、としか聞いて無くて。誰が、何処の家か、も知らないんです」

『ソレ、本当、出処不明で各地に点在してる謎なんデースよ。今度、林檎君の実家、遊びに行きマス』
「その時は是非、女性の助手の方をお願いしますね」

『今回は特例、了解デース』
「はーい、宜しくお願いします」

 村人に警戒されない為にも、基本は少数精鋭。
 ですので、今回は特別に助手の方を付けず、で。

《ウチでは、神霊と人、合わせて3人としているからだと。近隣だけかも知れませんけどね》
『良いデースね、凄く良いデース、後でご実家教えて下サーイ』

《はい、構いませんよ》
「あ、じゃあ僕も同行しますね」
『本当に仲が良いデースね、もしかして私、お邪魔ムシ?』

「ですね」

『ォーゥ、昨夜の仕返しデースね』
「えへへ」

『そんな可愛い子ニハ旅させマース、いずれお伺いしまショウ』
「ですね」

 そうして採集は何事も無く終わり、今日の結果を伺う事に。



『総合スルと、荒神信仰に於ける綾子アヤツコだと思いマスが、ドウでショウ?』
《ですね、神社仏閣には少し珍しい志多羅神と摩多羅神が祀られていますから》

「あの、前者は聞いた事が無いんですが」
『片方は流行神デース、元祖はお寺さんの摩多羅神デハと、言われてマース。当時、お寺で少し揉め、今で言うデモ行進みたいな事が起こったんデース』

「それが神様に?」
『ハーイ、大規模な行進の後、巫女が現れ有名な神社に据えられマシた』
《京で起きた事なので、全国に広まる、までには至らなかったんです》

『サムハラもデースね、関東は天神様多い、根強いデース』
《少し話を戻すけれど、ココの志多羅神社には竈神、久那土神が祀られている》

『ツマリ火の神様デース、そして密教に道教に陰陽道まで合わさり、牛馬の守護になったのデース』
「火から牛馬への繋がりが少しも分からないんですが、それ程に凄く混ざり合った結果、なんでしょうか」

『ハーイ、そして山間部デース、きっと狼や犬が多かったのでショウ』

「あの、それで」
『あまり言いたく無いデスが、一時は閉じていたのだと思いマス』
《そして耳の奇形に繋がった、少し長く、尖る耳を持つ者が現れ始めた》

『飢饉の記録からの想定デース、切られた耳の実物は焼かれてマスし、見せて頂いたお子さん達の耳は尖ってもいまセンでした』
《もしかすれば、襲ってきた犬を食べ、後悔の念から興ったのかも知れません》

『デースね、羊を食べてもモコモコしまセン、デスけどそれは長年食べているからこそ分かる事デース』
《珍しい狼や犬を食べ、後悔の念から、少しでも違う耳を持つ者を見出す様になった》

『そして忌み事を切り離す為カ、若しくハ長年の飢餓で、この地方デハ耳が尖ったのかも知れまセン』
《どちらにせよ、綾子アヤツコと同系統と言う事ですね》

『ハーイ、デースね。そうした騒動以降、出稼ぎが多いのも頷けマース』
《血が近い事はあまり歓迎されないので、女性も集団で向かった。その際、耳を出す事は滅多に無いので、傷付けない様にとの配慮だったのかも知れません》

『オーゥ、優しいデスね。私は、宣伝、だと思いマースよ。松書房、有名なりマシたから』

「じゃあ、アレは、敢えて」
《正直、コレだけ出稼ぎの方が多いので、当然耳切りは一般的では無いと知っている者は居る筈です》
『デスが、他の事と同じ、あまり言う事でもナーイ。臍の緒が本心思いマースね、本当に当たり前、ソレ使った可能性有りマース』

「では、何も無い、と言う事で」
『ノー、ココ、凄い美味しいデースよ?私、都会のドジョウ偶にハズレ食べさせられマス、でもアレは凄く美味しいでシタ』
《場所は少し不便ですけど、逆に言ってしまうと、少し不便な程度。ですからね》

「えー、僕、先生達に上手く話せる自身が無いんですが」
『ちゃんと資料差し上げマース、ダイジョーブ、小泉を信じて下サーイ』

「神宮寺さんも、今回はちゃんと書いて下さいね」
《あぁ、先生の資料を使わせて貰うよ》
『ォーゥ重要になりまシタ、明日には書き始めナイト』

「はい、期待していますね」

 そうして最後の夕食を頂く際に、明日には立つ事をお伝えし。
 同じく何事も無く、その村を出る事になり。

《帰りは特急、ですか》
『酔うので寝マース、おやすみナサイ』
「はい、ごゆっくり」

 少し期待していたんですが、本当に何も無く終わってしまいました。



『お帰りなさい、犬神と会ったそうで』
《耳が早いな川中島、会ったと言うか、脅された》

 目が合うと言う事は、コチラを認識していると言う事。

 コチラが察している。
 そう相手が察すると。

『おい、もう分かっているだろう』

 大きな口を血で真っ赤にした、狼。
 体躯は小さく、明らかに犬とは違う風体。

《何だ》
『久那土神が祀って有るだろう』

《久那土、来るな、だろう》
『だが事情が変わった、肥溜めは更に奥へと移動した』

《肥溜め?》
『あぁ、近くに山の者が居るだろう、伝えておけ』

《だけか》
『人が減った、ココに寄越せ』

《それでか》
『出来るだろう、お前のツレなら』

《はぁ、あまりコレを巻き込んでくれるな》

『ソレは元からだ』

《何がだ、コレが山の者と》
『知れば責務が増えるぞ』

《俺には守る義務が有る、血筋に巻き込んだ責任も》
『コレの親の馴れ初めに、山の者が関係している』

《いや、だが、コレに》
『山の者の宝だ、お前の血筋は効かん』

《効かないのか、早く言え、俺は》
『そうした者も、山の者は守っている、全ては調和の為だ』

《あぁ、いつかは全て混じり合う、調整役は確かに必要だが》
『分かったか』

《分かった、だから喰おうとするな》
『お前は良い匂いがする』

《まだしたい事が有るんだ、勘弁してくれ》
『勘弁してやる、人を寄越すならだ』

《ソッチも努力しろ、ドジョウだけじゃなく魚も養殖しとけ》

『分かった』

 こうして地の民の系譜、犬神家は知恵と血を外部から入れ、さも里の者の様に暮す。
 だが、目印が幾つか有る、その1つが久那土神。

 分かってはいたが。

『初めてがソレでは確かに驚くかと』
《あぁ、声が出ない程に驚いた、はぁ》

『一緒に居たのは、どうでしたか』

《アレも、里の以外だろ》



 アレは本物だった。
 幾人かは見た事が有るけれど、アレは生粋の詐欺師のように、酷く偽者を偽装する本物。

「あぁ、お帰り」
《ただいま、凄く美味しかったのよ、山のドジョウ鍋》

「それはそれは、本当に羨ましい限りだ、偶に酷いハズレが有るからね」
《それとウワバミソウ、久し振りに食べたけれど、本当に美味しかったの》

「もうそろそろ、北の方に引っ越してしまおうか」
《残念、まだまだお仕事が有るの》

「だろうね、成果はどうだったんだい」
《当たりよ、妖精の血が少し出ていたの、だから土地神様にお願いしておいたわ》

「本来なら、耳を切らなくても良い世に向け、動くべきなのだろうけれど」
《もっともっと先よ、まだまだ、準備が整っていないのだもの》

「そうだね、やっと君の真実に、物語が追い付いたばかり」
《ふふふ、時に事実は小説と同時進行、本当にこの国は不思議ね》

「あぁ、僕もそう思うよ、女王様」
《もう、拗ねないで、明日は一緒に鰻を食べに行きましょう》

「仕方無い、行ってあげよう」
《ありがとう、私のオベロン》

 ココには本当に、山の者も地の者も、そして私の要な海の者も居る。
 其々に独立しながらも、1つの目的の為に動いている。

 全てはより良い国の為、人の為、全ての良き者の為に。
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