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第15章 死者と司書。

編集後記。

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 夢現の事は一旦脇に置き、僕は直ぐに仕事へ復帰しました。
 僕の経験を書いて欲しいのは勿論なんですが。

 犯人がどうなったか、何故なのかが気になったからこそ。
 気を紛らわせる為、そして有給休暇をちゃんと取る為、働き続け。

《神宮寺と申します、お邪魔させて頂きます》

《明知君、君が居なかったら、僕は彼を抱くか抱かれるかしていたと思う》
《えっ》
『すみません、先生は言うだけで実際には素人には手を出しませんから、気にしないで下さい』
「そうですよ、僕だって何も無いんですから」

《君は好みじゃない》
「だそうで」
《あの、もしアレなら》
『俺は気にしませんが、もし気になる様でしたら』

《あ、いえ、僕に男色家の気は無いので》
《残念だ、書かせてくれ、君は良い資料になる》
「えー、僕ら休暇で来たんですよ?」

《僕なら構いませんよ、事実は事実、虚構は虚構なんですから》

《うん、もう少し出会いが》
『さ、先ずは風呂に、冷えたでしょう』

《あ、そうだそうだ、夢現を経験したそうだね》
「そうなんですよぉ。先生のお相手は僕がしますから、お先にどうぞ」

《あ、東北原産のヒバの木なんだ、是非堪能しておくれね》
『一応は一揃脱衣所にも揃えて有りますから、好きに使って下さい』

《では、お先に》
「はい」
《で、どうだったんだい、夢現は》

「実は、今でも疑ってます、ココは現世か夢なのか。はたまた極楽浄土か」
《若しくは、異なる世界に紛れ込んでしまったのかも知れない》

「あ、先月号の揃江門先生の特集ですね」
『助かりました、コッチでも中々手に入らないんで』
《うん、アレは助かった。それで林檎君、ココは夢現の前と同じかい?一緒かい?》

 僕も少し考えたんですけど。

「同じなんですよねぇ、隅から隅まで、隅々同じです」

《けれど、あのまま夢現に居たら、君は服だけを残して消えてたんじゃないかと思うんだけど。どうだろうか》

「確かに、そうなってたかも知れないんですよね、成程」
『だからって次が有っても試さないで下さいよ、居なくなられたら困るんで』
《うん、君は便利過ぎて困る》

「でも、僕が異なる世界に行ったら、その異なる世界の僕がコッチに来てて。どちらも何も気付かず、誰も気付かずそのまま生活してしまう、かも知れませんよね?」

《うん、君なら有り得そうだ》
『ですね』
「え、半ば冗談だったんですが。僕、そんなに鈍感ですかね?」

《あの神宮寺君とどうにもならない時点でどうかしている》
『この脳味噌が腐った発言は別にしても、少し林檎さんは鈍感ですよね』
「だから霊が見えないんですかね?」

《そこじゃないんだよぉ》
『女性にモテてるのに、社交辞令だと一括で切り捨てる所ですよ』
「あー、いや。社交辞令に乗ってお会いして、話してみたりもしましたよ、でも何だか思ってたのとは少し違う。そう断られるばかりなんですよ」

《んー》
『初恋とか有るんですかね』

「何をもってして、初恋と言うんでしょうか」

《明知君、秘蔵のどぶろくを出す日が来たね》
『ですね、神宮寺さんからも聞き出しますか』
「あ、神宮寺さんの初恋は、ちょっと不可思議も混ざるので」

《あぁ、心霊物の原案作家先生なんだっけ》
『例の事件に関わってるんですかね』

「まぁ、追々で」
《よし、覗きついでに誂いに行くかな》
『怯えられても困るんで止めて下さい』

「あ、実は怖いのが苦手なんですよ」

《心霊物の原案作家先生が》
「はい」
『成程、何か無いですか』

《無いなぁ、無いけど聞いた話なら有る》
「あ、手帳手帳」
『休暇じゃないんですか』

「それはそれ、コレはコレですから」



 林檎君絡みで起きた事件は、未だに世間を賑わせ続けている。
 ただ、例の司書、彼の独房だけは静かだろう。

 刑務所は怨霊からの影響を避ける為、囚人を怨霊化させない為にも、そうした魔除けや術式が施されている。

 けれど、あまりの静けさに彼が発狂寸前となり。
 刑務所の一角に庚申塚が建てられ、怨霊と敢えて接触させる事となった。

 殆どの霊は怒りをぶつけても無駄だと知り諦めたのか、理由を知り納得したのか、かなり成仏した。
 残りは同情なのか、復讐なのか、怒りをぶつけず静観している。

 そして庚申塚を建てる際、久し振りに恩師に会ったんだが。

 相変わらずババアのまま。
 もしや不老不死なんじゃないかと、思わず疑ったが。

 白髪は少し増えていた。

《この前、恩師にそろそろ結婚しろって言われちゃったんですよね》

「そこは、ご家族からでは無いんですね?」
《この質を知ってますから、相手の為にも、良く選べって言われてるんですよ》

「神宮寺さんなら、直ぐに分かったと思いますか?」
《いえ、無理だと思いますよ、僕もギリギリまで犯人かどうか分かりませんでしたし》

 あの自白を聞くまで、俺はどちらか分からなかった。
 疑っていてもコレなら、寧ろ身内だからこそ、余計に分からなかっただろう。

「まぁ、まさか相手が殺人鬼かも知れない、だなんて結婚はしないでしょうしね」
《暴力の件も、子供にも手を挙げなかったそうですしね》

「しかも、被虐性癖の方にしてみれば、本当に暴力が情愛の証になる。何を否定し何を肯定すべきなのか、未だ議論の最中ですからね」
《それに伴い、大戸川先生の出版物が注目され》

「緊縛絵まで槍玉に」

《人によっては箸にも包丁にも、まな板にもなる》
「もし怪談実話が廃刊になるなら、食器全て廃止にしましょう」

《鉛筆も危ないですし無くしましょう》
「それに紙も、丸めて詰め込めば殺せますから」

《なら手拭いも、濡らして顔に被せれば殺せますし》
「いっそ布も全面禁止ですね、そうして水も火も、危ないので使わない様にしないと」

《そう考えると、ある意味、まだ彼の親の方がマシだったのかも知れないんですよね》
「包丁を振り上げ切り付けはしましたけど、それはするなと教えていたワケですからね」

《包丁も何もかも存在すら知らせず、ただ危ないモノとだけ教えたら、どうなるんでしょうね》

「性的な事の場合だと、厳しくし過ぎても教えないにしても、動物に向けられるそうですよ」
《あぁ、好きに交尾しますもんね》

「そして動物の行為にばかり慣れて、人との触れ合いに問題が出るそうです」

《こうした時の為に、大学の教授だとかと繋がっていたんですかね》
「かもですね、ご協力頂けなかったら、本当に廃刊になっていたかも知れません」

《たかが本、されど本。文句を仰る方って、どれだけ子に躾けてるんでしょうね》
「そうした方を先生方がご心配無さって、他の方で構わないからと面談を申し込んだそうなんですけど。約半数から拒否され、面談出来た殆どの子は、かなり控え目な性格でらっしゃるそうです」

《僕達も、彼も、そこはある意味で伸び伸びと育ってますけど》
「抑圧が強いと、箱の中同様歪みが生じ、何処か他とは違ってしまうんだそうです」

《自分と同じでなければ許さない、そうした親に育てられなくて幸いだったのかも知れないですね》

「かなり同情的ですね」
《放置されて育つと、構われる事で逆に不安を生じるそうで。それと同じだそうですから、子育てって、難しいですよね》

「そう失敗の見本ばかりだと思わないで下さいね?世には沢山の良い見本だって有るんですから、言い訳に本や物語を使ったら、それこそ絶交ですからね」

《憤ってますね》
「料理の不出来を鍋や包丁のせいにされても困ります、火加減だとかご自身の問題なのに、物語のせいにされても困ります。使い方次第、教え方次第なのに、たかが道具のせいにされる物語が1番の被害者ですから」

《失敗を認めると、死ぬ呪いに掛かっているんでしょうね》
「有るんですかね?そんな呪い」

《そう呪えば、出来ると思いますよ、多分》

「じゃあ、神宮寺さんや他の方のせいって事で」
《それで構いませんよ、孤立させる為や恥をかかせる為、本当に誰かが呪っての事かも知れませんし》

「しないで下さいね?裸の王様は流石に嫌ですし」
《それか驢馬か馬の耳が付いてるか、見分けって付くんですかね》

「あぁ、どちらも見た事が無いと、判別は無理でしょうね」
《あ、そう教えるのが面倒だと思えてしまう呪いかもしれませんよ、そうして愚かにさせ御家断絶を企まれている》

「殺されるより残酷な気がするんですけど」

《ですね、生きながらにして苦しめられるワケですから》
「恨みを買わないに越した事は無いですけど、危ないモノに気に掛けられても困りますし、難儀ですよね生きるのって」

《ですね、そろそろ寝ましょうか》
「えー、何か良い話をして下さいよ、このままだと夢見が悪くなりそうで嫌なんですけど」

《恩師の家に初めて泊まった時》
「それ怖いですよね?」

《意外と面白いかも知れませんよ》
「確実に明るいのでお願いします」

《昔々、ある所に、野山を駆け回るのが大好きな少女が居りました》
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