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第15章 死者と司書。

4 死者と司書。

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 ジリリリ、ジリリリ。

 いつの間にか眠っていたらしく、急いで起き上がり電話を取ると。

【林檎君、僕だよ、神宮寺だ】
「えっ」

【早く起きた方が良い】
「えっ、でも、神宮寺さんは」

 そうして後ろを振り返ると、神宮寺さんは服だけを残し消えた様に。

【逆恨みされてしまったらしい、もう祓ったけれど、君は眠ったままなんだ】
「いやでも、今僕は起きて電話を取ったんですけど」

【そこは何処だい】

「え、神宮寺さんと一緒に、実家へ」
【その前に君は蕎麦屋で眠ったままで、ココは病院だ】

「じゃあ、僕、死にかけているんですか?」
【いや、ただこのまま目覚めないのは不味いんだ、取り敢えずは家から出てみてくれないか】

「はい、分かりました」

 そして僕は電話を切り、そのまま下駄を履いて出ようとしたんですが。

《林檎君、何処に行くんだい?》

 鞄と服だけを残して消えていた筈の神宮寺さんが、広間に現れ起き上がり。

「あ、えっ?」
《急にハッと起き上がって、鳴っていない電話を取って。君、大丈夫かい?》

「いや、電話が鳴って、そしたら神宮寺さんでしたよ電話の主」
《何かしろ、と言っていたかな》

「目を覚ませ、家を出ろ、と」

《はぁ、コレは困った。どっちにしろ、君に何か憑いたらしい》

「えー、じゃあどうすれば」
《その電話の僕は、家を出ろと言っていたんだよね》

「はい、蕎麦屋で眠ったままなんだそうです」

《僕は荷台で目を覚まさなかった君を運び入れたんだけど》
「えー、じゃあ今の神宮寺さんはどうすれば良いと思いますか?」

《出来ればココに留まって欲しいんだけれど、僕が本物だと言う証拠も無い、ココは君に任せるしか無いと思う》

 家から出る事が罠なのか、留まり続ける事が罠なのか。
 そもそも、何処から夢だったのか、僕は何処から眠り込んだままになってしまったのか。

 目の前の神宮寺さんは、本当に本物なのか。

「あ、殺生石のお数珠を貸してくれませんか?」

 そう尋ねた瞬間、神宮寺さんは服だけを残し消えてしまった。
 仕方が無いので服を漁り、ついで鞄を開けようとすると。

 再び電話が。

【林檎君、その鞄は罠だ、早く出た方が良い】
「なら鞄を持って出ますね」

 そうすると電話は切れ。

 受話器を置き、再び鞄に向かおうとすると。
 また、電話が鳴り始め。

 殺生石のお数珠は神宮寺さんの大切なモノ、素人が触るのは危ないと聞かされていたけれど、僕は鞄を開けた。



《林檎君、やっと、目が覚めてくれたんだね》

「あ、えっ?ココは」
《はぁ、ココは君の寮だよ、会長からの電話を切って。再び鳴った電話に君は出て、何度か返事をして部屋に行き、戻って来なかった》

 林檎君は、一種の夢遊病状態だった。
 横にならせれば眠るし、食べ物を差し出せば食べるし、酒も飲んだ。

 そうして勝手に厠に行き、また横にならせれば眠り。
 コチラの言葉にも幾つか返事もした。

「えー、神宮寺さんと実家に行ってた筈なんですけど」
《もう祓ったけれど、君はこの2日間虚ろなままでココに居たんだよ》

「あ、それ、電話の神宮寺さんと実家に居る神宮寺さんに言われました。家を出ろって言われたり、留まれって言われたり、だから困った時の殺生石のお数珠だなと思って鞄を開けようとして」
《抵抗された》

「はい、でも神宮寺さんの大事なモノだしって、で開けたら」
《目覚めた》

「僕、本当に起きてるんですかね」

《こう、定番の抓るだとかは》
「あー、しなかったですね。何ででしょう、全く思い付かなかった」

《犬神や管狐でも無い、多分、蠱毒だったんだと思うんだけれど。夢に関する虫に、何か思い当たる節は無いかい》

「あ、夢虫、蝶ですかね?」
《蝶を蠱毒に、出来るモノなんだろうか》

「あ、ジャコウアゲハとかは毒を持ってるそうですよ、毒を蓄積するんだそうで。簡単に取れるので大戸川先生が作中での凶器に使ったんですよ」
《なら、卵から集めれば自然と蠱毒となる》

「あ、えー?本当に僕が呪われちゃったんですか?」
《殺すつもりは無いにしろ、邪魔か八つ当たりをしたかったんだろうね》

「すみません、僕が」
《いや、犯人は捕まったし、心配しなくても大丈夫だよ》

「えっ?」
《あぁ、一応は君に読み聞かせをしていたんだけどね、今朝の朝刊だよ》

「あ、え?今」
《お昼だよ、出前でも取るかい?》

「あの、眠っている間に、僕は何を食べてたんですかね?」

《明らかに可笑しいと分かって、殺生石の数珠で憑き物を弾いたんだけれど》

 看病する事となり、寮母さんのお夕飯を俺が頂こうとしていたんだが。
 君が起き上がったので差し出してみると、卵焼きと漬物を摘んだ。

 そのままついでに清めの為にも酒を飲ませて、時には横にならせたり、新聞を読み聞かせたり。

「神宮寺さん、何か思い出話をしませんでした?」

《まぁ、君が寝言で言っていたんで、少し。と言うか、もしかして、僕の愚痴まで聞こえていたのかな》
「夜行の中で、初恋について、はい」

《はぁ、嫌がらせには十分過ぎるよコレは》

「あの、抓っても痛いんですけど、こうなる前に試して無くて」

《あぁ、なら殺生石の数珠で叩こうか》
「お願いします」



 背中のど真ん中を思いきり、2回叩かれた。
 うん、痛い。

《コレで多分、残滓も消えたと思うけれど、念の為に》
「あの、実家に入る前、念の為にと塩を撒いて貰ったんですけど」

《あぁ、その僕も電話の僕も偽者だと証明するのは。もしかして、この殺生石なのかな》
「多分、はい、全く目にする事が無かったので。そうかな、と、神宮寺さんはどう区別を付けているんですか?」

《僕は訓練をしたのと、そうですね。お守りの中身を覗いてしまう、とかどうでしょう、夢でも悪を弾くモノですから》
「中に、何が入ってるんですかね?」

《開けてみては?》
「けど、見ちゃいけないって」

《子供に粗末に扱わせない為ですよ。それに、そう見せてはいけないモノは、素人の方には渡しませんから》
「あぁ、成程」

《気になるならお返しして、また新しいモノを頂けば良いと思いますよ》

「本当に大丈夫ですよね?」
《そこはお任せします、他に思い付く方法が有るなら、ですけど》

「んー、食べたり厠に行ったりしたんですよね?」
《偶に小声で話したりもしてましたけど、僕と話していたと言うより、僕の言葉を切っ掛けに物語が始まっていた様な感じでしたね》

「正に夢を見ていた様な感じだったんですね」
《ですね、本来なら寝言に返事は良くないとされていますけど、寧ろ口寄せとしては良く有る事で。ただ今回は、話さない方が良かったかも知れませんね》

「どう、なんでしょう、神宮寺さんと黙ったままって。それこそ、確かに異変だなと思うかも知れません」
《すみません、逆効果の事をしてしまって》

「いえ、元は僕が出過ぎた真似を」
《先ずは出前か、それとも茶漬けにでもしますか?》

「茶漬けでお願いします」

 そうしてひと心地ついてから、やっと事の詳細へと至る事に。



《司書の方が殺人犯、術者とは別物でした》

「ぅう、すみません」
《いえ、アレだけ祟らせても無傷だった為に蠱毒に切り替えた、そのついででしょうから》

「でも、神宮寺さんにもご迷惑を」
《僕もこうして失敗したんですよ、良かれと思い口寄せを行い、相談者に惚れてしまった。でもダメになるのも早かった、なまじ似ている所と似ていない所が混ざり合って、余計に粗が見えてしまうんだそうです》

「それ、夜行でも聞きました」

 ココまで詳しくは言っていないんだが、林檎君の知識が補強でもしたのか、俺の意識と繋がったのか。

《誰も怪我せず死んでもいないんですから、この件は忘れましょう》

「あの、術者の方にお詫びを」
《僕の方からしておきますよ、大丈夫、お互いに事故だったと直ぐに分かる筈ですから》

 と言うか、分からせた。
 俺達の様な者に八つ当たりをするなら良い、けれど林檎君は素人、しかも正義感から通報しての事。

 多分、荒事に慣れてない若いのが仕掛けた事、何本か釘を刺せば反省するだろう。
 その思いから首を突っ込んだんだが。

「分かりました、すみません」
《そう気にするんでしたら、今度こそ、ご実家や作家先生の家の案内をお願いしますね》

「はい!有給を取って連れ回しますね!」
《折角なら仕事も半々にしておきましょう、汽車での怪奇事件も話さないといけませんし》

「それ、話されてたら、きっと悪夢になっていたんでしょうね」
《確かに、そうかも知れませんね》
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