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第3章 霊能者と記者。

5 E橋殺人事件。

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『すまない、別れてくれ』

「えっ、どうして」
『結婚するんだ』

 いつか、こうなると分かっていた。
 男同士、子を成せない、肩身が狭いからこそ。

 けれど彼は結婚なんてしない、一生、一緒に居ると。

「飽きたなら」
『君も、1度、女を知れば分かる』

 つい、カッとなってしまった。
 1番比べられたくない相手を、1番、比べられたくない事を出されて。



「自首なさったそうで」
《ですね》

 自首したのは男、しかも怨恨でした。

 彼が結婚するから別れて欲しい、と言われただけでは無く。
 女と比べられ、どうしても、我慢ならなかったと。

「方法、知りたくないですか?」

《知って良いんですか?》
「神宮寺さんにだけ、それに又聞きですし、意外と大した事は無かったので」

《ほう》

 首を絞め上げ、気絶させた後。
 敢えて、あの橋へ向かったそうです。

 介抱するフリをして、一緒に心中する為に。
 けれど彼は、途中で目を覚ましてしまった。



『や、止めてくれ、悪かった』
「いや、無理だよ。私はアンタに騙されたんだ、復讐して当然じゃないか」

 彼は丁度、橋の真ん中辺りで目を覚まし、欄干に掴まり抵抗した。

 だから私は持って来ていたハサミを、彼の首へと刺した。
 あんまりの怒りにグリグリグリと刺し込み、捻じ込み、そして引き抜いた。

『かはっ、ぅうっ』
「全部ぶちまけてから、そうだ、ぶちまけてから後を追うから待ってておくれね」

 人の体にはあばら骨だ何だと有る事を知っていましたから、鳩尾辺りから骨を避け、ハサミを捻じ込みました。
 生暖かくて、ふと愛し合っている時の事を思い出し、改めてとても憎らしくなって。

 刺しました。

 彼の下半身目掛けて、何度も何度もハサミを刺しました。
 ズタズタになってしまえと、何度も何度も何度も。

 その間に何度か車が通った気もしますが、どう見てもコチラは男同士。
 彼の背を向けやり過ごすし、すっかり何も出なくなった彼を担ぎ、橋の袂へと向かいました。

 そしていつもの様に、暫く川辺に浸かりながら一緒に過ごし、また憎くなって今度は腹を刺しました。

 そしてふと、折角だから大事にしてやろう、と。
 彼の腹に石を詰め、いつもの様に川で汚れを落とすついでに、彼を川に沈めようとしたのですが。

 顔を見ると、また、とても憎らしくなってしまって。
 顔を何度も刺しました。

 それからやっと、川に沈め、いつもの様に少し遠回りして帰りました。
 コレで、全部です。



「と、ありきたりな手段と理由でしたね」

《君、コレで、ありきたりなんだね》
「もう物語で読んだ事が有りますし、男女で、殺した後に男の性器を持ち歩いてたとか」

《まぁ、確かに、それよりは飛び抜けていないかも知れないけれど》
「男が女を、女が男を刺し殺した、なんて事件は何度か目にしましたし。男同士、女同士の場合、どちからか双方かが公にしないでくれと言ってて出て無いだけかも知れない」

《あぁ、まぁ》
「要は痴情の縺れ、別れ話の失敗談ですよ」

《まぁ、人に言ってはいけない事を言って、殺されたのだろうけれど》
「世には美味しそうだから殺した、なんてのも有るんですから、奇抜さに欠けますよね」

《あぁ、まぁ、うん》

「来ないかなぁ、依頼。偶に来るんですよ、書いてくれって」
《あぁ、犯人から、ですか》

「ですね、けど大概は盛りに盛ってたり、それこそ嘘ばかりだったり」

《君、話した事が有るのかい?》
「はい、面会が認められている方だけ、会長からの要請で偶に行ってます」

《どうして君が?本来なら新聞部とかでは無いのかい?》
「あ、実は僕も分かるんですよ、そう言うの」

《それは、嘘だとか事実を》
「ふふふ、コレも霊能者なんですかね、ふふふ」

 何だか彼が、人とは違う不思議な生き物に見えてしまった。

 怨霊や怪異。
 それらとも違う、何か、不思議な生き物。

《君は、不思議な生き物だね》
「本ばっかり食べてるからですかね、モジをモグモグ、バリバリ、ムシャムシャ。お腹空きません?串焼き、僕今、凄く串焼きが怖いんですよねぇ」

《あぁ、近くに美味い居酒屋が有るけれど》
「行きましょう、そこで怪談を披露しても、どうせ皆さん大して聞いて無いでしょうし」

《良いのかい?そんな、ネタを外で明かすなんて》
「全く聞いた事が無い怪談より、何処か身近で、時に聞いた事が有るモノの方が売れるそうです。さ、行きましょ行きましょ」



 お酒が入るだけで、怪談って何故か面白くなってしまうんですよね。
 神宮寺さんに笑い上戸だって言われたんですけど、アレは。

『林檎くーん、手紙の整理始めるよー』
「はーい」

《おう、どうだった件のは》
「面白かったですよー、居酒屋で聞いてたからかもう、可笑しくって」
『君は笑い上戸だからなぁ』

「いやアレは笑い話ですって、だって」
《そもそも、お前の感性が可笑しいのかも知れんな》
『あぁ、そうそう、君が可笑しい』

「そうですかね?酷く凡人なのに」

『さ、ジャンケンだ』
《よっし》
「さーいしょはグー、ジャンケンぽん」

 そうして、僕は人生の転機とも言えるお手紙に出会いました。

『さ、各自席に戻って、始めますか』
「ですね」
《さ、さっさと終わらせて昼飯にすんべや》

「ですねー」

 今朝配られた手紙は、全部で21通、3人で分けたので1人7通。
 毎回、大体はこんな感じですね。

 問題作が出なければ、ですが。

《髪の毛来たわー》
「おー、おめでとうございますー」
『ご馳走ー』

 不運こそ、時に作家の糧となる。
 こうして特に嫌な事が当たった人が、奢る決まりになっているんです、良いメシ種が来たんだからお裾分けをする。

 コレも、会長が決めた決まり事の1つで。

「あ、でも、今回は僕かも。分厚い」
《あー、びっしりのカミソリだったら危ないから気を付けー》
『そうだよー、普通のにだって軽々と入ってるし、慎重に開けましょうー』

「はーい」

 そして、封筒の中から出て来たのは。
 封筒。

 コレは、何やら事情が有りそう。
 一旦保留にし、次へ。

《あー、何だろコレ、白紙だ》
「本当だ、でも何か書いたのか、皺が」

『あ、待った。コレ、この上に置け』
「えっ、もしかして当たりですか?」
《えっ、分かんないけど》

『手洗ってこい』
《えっ?》
「危ない薬品ですか?」

『分からんが念の為だ』
《はぃー》

 女性作家担当の編集さんが部屋を出ると。

『お前、コレ、匂いを嗅いでみ』

「なんか、嗅いだ事が有る様な」
『あぁ、やっぱり精液か』

「は?」
『いや、偶に来るんだよ、俺にな』

「は?で、人に回しちゃったんですか?」
『いや、毎回封筒も違うし、それこそ封筒の字も違うんだよ』

「えー、あー、じゃあ住所も偽物なんですかね」

 僕は開封用の小刀を使って、封筒を持ち上げた。

『それも一応、コッチ、病気が移っても困る』
「あ、はいはいはい」

『はぁ、1度、炙り出してみたんだが。キヌヱ、としか書かれて無いんだよ』

「その、キヌヱさんに心当たりは?」
『無い、昔の』
《念の為に消毒液もぶちまけましたけど、アレって何なんですか?》

『すまん、実は……』

 そうして事情を説明後、再び開封作業に戻り、僕は2人に奢られる事になったんですが。

「付けといて下さい、ちょっと用事が出来ちゃって」
『おう、寿司はダメだぞ寿司は』
《何回か溜まったらアリでしょうよ、寿司を食う口実も無いと食えませんでしょう》

『あぁ、アリだな』
「ですね、失礼しますねー」
《あいよー》

 こうして、僕は節目を片手に、会長室へと向かいました。
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