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第3章 霊能者と記者。

4 E橋殺人事件。

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 日が陰る頃、俺達は再び神社へ。
 これは一種の避難措置でも有る。

 怪談は怪異を呼ぶ。
 それが本当だからこそ、俺は見てしまったし、見える様になってしまった。

《では、始めますね》
「はい」

 林間学校の宿舎の鏡に突っ込んだ俺は、次に真っ白い天井に驚いた。
 宿舎の天井は良く有る木目だった、しかも自分がどうなったのか全く分からない状態で、思わず飛び起きた。



《ココはっ》
『大丈夫、病院よ』

《先生、何で僕は》
『あら、覚えていないのね』

 俺は引率の女教師に付き添って貰っていた、そして割れた鏡の前で倒れていた事、半日眠り込んいた事。
 そろそろ親が来るとも教えられた。

《すみません》

 俺は、覚えている事を口に出来無かった。
 もし言えば、気狂いだと思われてしまうかも知れない、そう思い何も言えないまま。

『良いのよ、頭を打っているから上手く思い出せないかも知れないって、お医者様も言っていたのだし。今は痛い所は?気分はどう?』

《あの、厠に》
『あ、アナタの中に管が入っているの、全く目を覚まさなかったから』

《えっ、管?》
『それは気にしないで、先生本を借りて来たのよ、どれが良い?』

 俺は関心の違和感に気を取られながらも、取り敢えずは冒険譚を手に取り、暫く読んでいると父親がやって来た。

「どうも、お世話になりまして」
『いえ、コチラこそ……』

 挨拶も程々に、2人は部屋を出て行った。
 暫く時間が掛かるだろうからと、俺は読書を再開し、夢中になっていると。

 コンコン。

 何処から聞こえたのか分からず、最初は無視したが。

 コンコンコン。

 戸の方から聞こえた気がして、返事をしようとした。
 けれど、不用心に返事をしてはいけない、そう教えられていた俺は敢えて無視した。

 コンコンコンコン。

 叩く音が、1つずつ増えている。
 誰か子供が悪戯しているのだろう、俺はそう思う事にして、本へ集中しようとした。

 けれど。

 コンコンコンコンコン。

 間隔が早まり、心無しか強さも強くなっているかも知れない。
 そう少し恐怖を抱いていると。

 コンコンコンコンコンコン。

 ドンドンドンドンドンドンドン!

 怖くなった俺は、音の方向を凝視し、完全に固まった。
 布団を被れば布団から出る時が怖い、目を逸らせば、目を逸らした先が怖い。

 ドンドンドンドンドンドンドン!ドン!

 徐々に大きくなり、最後に最も強く重く鳴った音を最後に、静かになった。

 何かが来る、何かが来たんじゃないか。
 既に、ココに居るんじゃないのか。

 そお恐怖の絶頂の中、戸が勢い良く開き、俺は絶叫した。

《イヤだーーー!》

 けれど、血相を変えてドアを開けたのは、父親だった。

 向こうからも、戸を叩く音が聞こえていたらしく、最初は俺の悪戯か何かだろうと無視していたらしい。
 けれども手数も多くなり、音も大きくなった為、仕方無く相手をしようとドアを開けようとしたが。

 開かない。

 閂でも掛けたのかと思う程、大の男が開けようとするも、全くびくともしない。
 それどころか戸がビリビリと震える程に音は大きくなり、叩く回数もピッタリ1回ずつ増えた。

 そしてコチラと同じ様に、最後に大きな音が鳴り、静かになった。

 あまりの事に途中から手を離していた父は、俺に何か有ったのではと、再び戸に手を掛け。
 勢い良く開けた。



「怪異、だったんでしょうか」
《そこで直ぐに父が恩師に連絡してくれて、遠見で霊視をしてくれたんですけど、どうやら僕に集まってしまったらしいと聞かされました》

 けれど、神主と言えど霊能者が無いお父様が出来る事は僅かで。
 お清めの塩を急いで手に入れ、病室を清め、四方に盛り塩をして凌いだそうで。

「相部屋だったら大変でしたね」
《状態が状態だったので個室だったそうなんですけど、幸いと言うべきかどうか》

「僕、正直、凄い怖いんですけど」
《ですよね、見えてますから》

「えっ」
《現場近くに、行ってみましょうか》

「はい」

 こうして僕の方が怖がっているのでは、と思う程に僕は恐怖心を抱きながら。
 神宮寺さんと件の現場へと、足を向けたのです。



《やっぱりまだ、封鎖されてますね》
「ココへ来て、改めて思い出せる事は無いですかね?それこそ目端に何か見たな、とか」

 成程。
 そう誘導する手も有ったか。

 彼は実に便利で、有用だ。

《いえ、ただ。アレは多分、男性の血ですね》
「あ、見えてるんですね」

 見えているどころか、コチラが見えると気付いて、俺の目の前に居るからな。
 それこそ目の前に、何を言ってるかは聞き取れないが、必死に訴えている。

 少なくとも、死を悟る様な死に方をしていないからこそ、昨日は居なかった。

 彼はいつもの様に起き、違和感に気付き、歩き回り。
 そして自分の痕跡を見付け、死を悟ったのだろう。

《誰に殺されたのか、分かりますかね》

 まだ、言葉は通じる。
 ただコチラに声は届かない、死んだばかりはあまり自由が利かないらしく、色々と慣れるまでは大概がこうだ。

「どう、ですか」

《犯人の家を案内してくれたら良いんですけどね》

 男は言葉が通じない事に気付いたのか、コチラの言葉が伝わったのか。
 俺達が来た道へと歩き出した。

「あ、分かるんですね」
《多分、ですね、強い印象に引っ張られるそうで。偶にこうして逆恨みする場合も有るそうですから》

「あぁ、成程」

 そして向かった先は、集合住宅の一室。

 霊は犬並みの頭だと、祖母が言っていた。
 少し経てば記憶を失くし、執着している事ばかりを何度も繰り返す、そうしてその場に縛られる事になる。

 そして忘れる感覚が短くなり、頻度が狭まる。

《あの部屋、角の部屋に入って行きました》
「成程」

 もし女の部屋なら、多分、暫くは出て来ないだろうな。

《どう、しましょうかね。お相手のお部屋なら、暫くは出て来ないでしょうし》
「確かに。あの、少し気になっている事が有るんですが」

《どの、事ですかね》
「例の病院の怪異です、それと宿舎の怪異の正体です」

《あぁ、恩師曰く、両方共に浮遊霊だったそうです。それらが固まって、僕が見たくないと思った形で現れた》

 コチラの頭の中が全て見えるワケでは無いけれど、所謂、感じ取って形を成した。

 先生に尋ねられたくない、尋ねられては困る。
 そうした雰囲気を察し、浮遊霊達が尋ねに来た、そして脅したワケだ。



「饅頭怖い」
《そうですね、そして恐ろしい姿形をした饅頭達が脅しに来た》

「何で脅すんですかね?」
《気付いて欲しい、何とかして欲しい。ただ、どうして欲しいか、何をして欲しいかを忘れてしまっている。だから払って終わり、ですね》

「それより強固な者だと」
《怨念となる、ただ、いきなり怨霊になるには相当苦しめないと無理なんだそうですよ。大概は生きる苦痛が有りますから、そこから解放されて、しかも供養をされれば殆どが自然と成仏する》

「あ、神仏習合なんですね」
《全く別物では無いですからね、特に人の死となれば仏教ですけど、人を神とし祀る事で供養する方法も有りますから》

「天神様ですね」
《ですね》

「その彼は、どうなりそうでしょうか」

《分かりませんが、ご遺体が見付からず、供養もされないとなると被害が出るかも知れませんが。そうなってからの方が、良い場合も有りますから》

「犯人の場合は、ですよね」
《何度も悪夢に見て自主して下さるなら、結局は被害者やご遺族の為になりますから》

「となると、どちらも様子見、ですかね」
《ですね》

 ご契約頂きましたが、印鑑が未だですし。
 出来れば所在地も確認したい。

「あの、ご自宅まで伺わせて頂いても宜しいですか?印鑑を、出来れば、と」
《あ、はい》

 亡くなられた方には悪いのですが、良いご縁を繋げて頂けたと思います。
 その分、何処かで手を合わせますので、どうか化けて出ないで下さい。

 お賽銭も弾むので、どうかお願いします。
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