声劇台本集

独身貴族

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ラーメン屋

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ラーメン屋

──うちの先生が言ってました。むしゃくしゃしたことは、笑いに変えろって。それで人生幾分かは楽しくなるって。本当にその通りだと思います。
というわけで、先日の話を台本にしてみました。聞いてください。

【ラーメン屋】

《キャスト》
店主
バイト
客(ひとセリフのみ)


───────ー以下台本


SE:店の戸が開く


店主
「へい、いらっしゃい!」

バイト
「あの、すみません。表のバイトの求人見てきたんですけど──」

店主
「おっ、うちでバイトしてくれるって? あぁ、そうかそうか。いや~、助かるよぉ。一昨日、1人辞めたばかりでね。ぜひお願いします。で、いつから来れそう?」

バイト
「なんなら、今日すぐ、今からでも入れますよ」

店主
「本当に? なら、お願いしようかな。そこに、制服が置いてあるから、向こうで着替えてくるといいよ。いや~しかし、求人広告出して、こんなすぐに来てくれるとはねえ。今は繁忙期だからね、年齢問わず、経験問わず、本当誰でもいいから入って欲しくてね。猫の手を借りたいくらいなんだよ」

バイト
「いや猫の手なんて、借りてどうするんですか」

店主
「あ、最近はこういう言葉使わないのか。まあ、それだけ忙しいってことだよ」

バイト
「そうなんすね。……で、いつから社員にして貰えます?」

店主
「へっ、社員? えらく気が早いね……でもうちはバイトしか雇っていないからさ。まぁ、社員にしてもいいけど、それは働きぶりを見てからかな」

バイト
「そっすか……」

店主
「──ん、着替えてきたね。それじゃあ早速、洗い物が溜まってるから、お願いしたいんだけど」

バイト
「え、洗い物は嫌です」

店主
「えっ。なんで」

バイト
「調理経験あるんで、料理作らせて欲しいっす」

店主
「あ……そう? そう。んじゃあ、頼もうかな。ね。なんでもしてくれたら助かるよ。今日もたくさんお客さんが入ってるしね。うん。じゃあ、調理お願いするけど、何できる?」

バイト
「というか、何作ればいいっすか?」

店主
「え、……と……、そうだね、じゃあ、今注文入ってる味噌ラーメン」

バイト
「あ~、味噌ラーメン、作ったことないんで無理っすねぇ」

店主
「え? ……じゃあ、醤油ラーメン」

バイト
「それも無理っすね~」

店主
「ええ~?? ……じゃあ、豚骨ラーメン」

バイト
「つーか、この店、家系なんすか? それとも二郎系なんすか?」

店主
「へぇ? ……いや、別にそういう味のこだわりとかは、うちにはないよ。うちにはうちの味があるわけだから。なんなら、君の得意なラーメンがあるんなら、それをメニューに出しても全然構わないよ」

バイト
「はぁ? 店の味とか方針、バイトに決めさせるんですか?」

店主
「いや、そこまで言ってないよ!? でもね、味噌も醤油もできないっていうなら、何か、自分のこだわりのレシピを持ってるのかなーと思ってね。じゃあさ、何だったら作れる?」

バイト
「オムライス」

店主
「オムライス!? ら、ラーメンは?」

バイト
「あー、作ったことないですね~」

店主
「いやうち、ラーメン屋だから! 調理したいっていうなら、ラーメン作れないと! まあ、まあね、今後作れるようになれればいいから……」

バイト
「ちなみにこういうの作れるんすよ(スマホ見せる)」

店主
「あ、これ、君が作ったオムライスの写真? はっは~、凄いね。ああ、これは美味しそうだ。へぇ~、こういうの作れるんだ。ふぅ~ん。……じゃあ、いずれ、作ってもらおうかな」

バイト
「今すぐでもいいっすよ。全然、作れるんで」

店主
「いや、ね? 今ラーメンの注文が入ってるから、まずはラーメン作らないとね? レシピ見たら作れそう?」

バイト
「はぁ~。まぁ……やってみます」

店主
「お、おう。んじゃぁ、頼むな」

SE:バイト、調理始める。

バイト
「……はぁ~」

店主
「どうした? わからないことあったか?」

バイト
「いや、やっぱ作ったことないんで、ちょっと難しいなーって思って」

店主
「え、なに、何が難しい?」

バイト
「この肉、薄く切れないんすけど」

店主
「ああ、チャーシューね。まあ、本当は薄いほうがいいけどね。今日はそれでいいよ」

バイト
「それでいいって、そんな程度でいいんですか?」

店主
「え?」

バイト
「そんな生半可なもの作りたいんじゃないんですよ、俺は。どうせ作るんなら、ちゃんとしたのを作るべきでしょ。違いますか?」

店主
「いや、まあ、そうだけどさ。でも、慣れてないんでしょ? あんまりこだわって、時間かけてたら、お客さんに出せないから。ほら、待たせてるし」

バイト
「何言ってんですか! そんな簡単にできるもんじゃないんですよ、料理って! どんだけ時間と手間かかるかわかってます!?」

店主
「はぁ? いや、かけたい時はかければいいよ。でもここは店で、注文が入ってて、お客が待ってんだから、作って出さなきゃしょうがないでしょうが!」

バイト
「はぁ~。作ってすぐに出せって、調理の大変さ何にもわかってないんですね」

店長
「いや、現に調理してる店長前にしてそれ言う!?」

バイト
「ってか、これあと、幾つやるんですか?」

店主
「いくつって、はっきりとは言えないよ。お客さんの入り次第だし。今の時点で3つ注文入ってて、多い時で1日に30食は出るかな」

バイト
「30食……目眩してきました」

店主
「なんで!? 一個もラーメン作れてないお前がなんで目眩起こすの!? 全部作れって言ってないじゃん! 調理やりたいっていうから、じゃあとりあえず一個作ってって言ってるの! オムライスもそんな時間かけて、苦心して作ってたわけ!? こだわりたいなら家でこだわれって! ほら! くだらないこと言っている間に、俺はラーメン3つも作っちゃったよ! ごたく並べてないで、作る気ないんなら、このラーメン、あちらのお客様のところに運んできて!」

バイト
「いやです」

店主
「なんで!?」

バイト
「おれ、人見知りなんで」

店主
「よくここで働こうと思ったな!? 接客業だよ? 人見知りなんて言ってる場合じゃないよ、克服して! ……わかったよ。じゃあ、もう、皿洗い」

バイト(遮って)
「オムライス作っていいですか?」

店主
「なんでだよ! なんでそんなにオムライスにこだわるんだよ! ここラーメン屋! 作るならラーメン作って!」

バイト
「そういう『ルールだから、決まりだから』っていうの、パワハラですよ。多様性が謳われてる時代なんですから、なんでも対応していかないと」

店主
「いや、お前が作りたいだけだよね!?」


「いいじゃねぇか、大将。得意だってんなら、作らせてみたらいい。俺が食ってやるからさ」

店主
「…………そうですか? まあ、お客さんがそう言ってるなら……いいよ。じゃあオムライス、作ってみろよ」

バイト
「わかりました」

SE:ガサゴソ

バイト
「店長。なんで生クリームないんですか」

店主
「いやそんなの置いてないよ。うちのメニューに使わないから」

バイト
「はぁ? おかしいでしょ、置いてないって。隣の洋食屋にはありましたよ」

店主
「そりゃ洋食屋にはあるだろ! でも、ラーメン屋で置いてあるところなんて、ほぼ無いよ!」

バイト
「じゃあ、オムライス作れないじゃないですか」

店主
「知らないよ!」

バイト
「はぁ~。……じゃあ隣の洋食屋で借りてきます。ついでにレシピも借りてきます」

店主
「いや、よそに迷惑かけんなよ。ってか、レシピって、頭に入ってるんじゃないの?」

バイト
「さっきも言いましたけど、料理作るのって大変なんですよ? ちゃんとレシピ見てやらないと」

店主
「じゃあもう作らなくていいよ! ねぇ! それより洗い物やって! お願いだから!」

バイト
「はぁ~。わかりましたよ」

(間)

店主
「疲れた……。仕事効率あげようと思ってバイト入れたのに、余計疲れた……」

バイト
「あの、店長。話があります」

店主(だるそうに)
「はいはい、なに?」

バイト
「あの、俺この店でやっていけるか、正直不安です。料理の味の方向性も決めてないし、そういう大事なことバイトに決めさせようとするし。俺、仮にもバイトなんですよ? そんな店の将来性に関わること押し付けられても、困ります」

店主
「いや、そんなこと一言も言ってないから!? 一品でもラーメン作ってくれればそれでいいから!」

バイト
「あと、俺、隣の洋食屋とバイト掛け持ちしてるんです。超忙しいんです。それなのに、ラーメンの作り方覚えて、作れるようになれとか、できるわけないですって」

店主
「いやお前の事情知らんがな」

バイト
「さっき、隣の店のバイト仲間とも話してきたんですけど、俺、この店で働ける気がしません。もっと、この店のやり方、考えた方がいいと思います。そういうわけで、バイト雇用の話、丁重にお断りさせていただきます」

店主
「何がお断りさせていただきます、だ! こっちから願い下げだ! 隣で働けばいいだろうが! 二度と来んなこんちくしょー!」

END




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