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「第九章」最凶と最強
「第四十二話」やっぱ似合わねぇよ
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室内での打ち合いは互角であった。狭い空間にも拘わらず目にも止まらぬ剣撃を打ち合い、退け、そして再び滑り込ませていく。一瞬でも気を抜いた側が死に、最後まで目前の喉笛を睨み続けた者が返り血を浴びる……そんな戦い、殺し合いであった。
「ぁあぁあああああ!」
ソラの剣は勢いを増していた。最初は押され気味であったとは思えないほど、蛍の剣を真正面から押し切っていた。いつもの速度に重みと、感情の高ぶりによる気迫が乗ったこと、何よりも「殺す」という絶対的な選択をした事により、彼女の剣技はより強く……いいや、ようやく完成したのだ。
「……見事!」
ニヤリと笑った蛍は、ソラの一撃を受け止めたものの、衝撃を殺しきれずに外へと投げ出されていく。ソラもすかさず飛び降り、即座に空中での切り合いが始まった。空中での身のこなしもソラが上回り、何度か蛍の衣服を切っ先が裂いた。
刃と刃が大きく弾け合い、お互いは吹き飛ばされるように距離を取り着地する。しかし蛍が刀を構えるよりも前にソラは走り出し、その脇腹に回し蹴りが叩き込まれた。……ように見えたが、蛍は寸前のところで刀の柄を前に出し、それを盾のように使う事によって直撃を免れていたのである。
しかし、着地とほぼ同時に行われたそれは、ほとんど不意打ちに近いものだった。反射的に対応できただけで、その威力を殺すことは殆どできていなかった。
「殺してやる……殺してやる……!」
「素晴らしい……!」
蛍は向かってくる赤髪の修羅を、迎え入れるかのように刀を構える。血の塊を横に吐き捨て、再び刃を交えるために……痛みなど忘れた彼女にとって、強い者と死合うことだけが喜びだった。
互いが間合いに足を踏み入れた瞬間、仕掛けたのは蛍だった。すくい上げるような斬撃……に見せかけて自分もその場で宙返りするかのように足を上げ、ソラの顎へと蹴りを放ったのである。不意打ちには、更に上手の不意打ち。
「ふざけてるの?」
そんな二重の必殺技を、ソラは完全に見抜いていた。
囮の斬撃を容易く避け、その後に来る蹴りを転がり避けて……空中に留まったままの蛍を、冷たく冷静な目で見据え、持っていた刀の切っ先を縦から横に握り直した。
走り出す、構える前に。ソラと蛍の間にある距離は、大きく踏み込めば間合いに入る程度のものだった。空中で隙だらけの彼女を見据えたソラは、その一撃に全神経を研ぎ澄ましていた。回避など間に合わない、受けるなどもってのほか。
何も、できない。
させない。
「──死ね」
振った剣に乗せた感情を爆発させながら、ソラは横薙ぎに刀を振るった。回避不可、急所を狙った必中の一太刀を。そしてソラは斬った。一切の容赦も加減もなく、ただ殺すためだけに振るった刃で。
「……あ」
手応えが、その両手に伝わっている。
「……いい面構えだな、刀を持つってんなら……やっぱこうじゃなきゃな」
──だが。自分の体に食い込んだ刃を握りしめ、刀匠は崩れそうな笑みを浮かべた。
「お前さんにはやっぱり、人殺しは似合わねぇよ」
「あ、あああ……!」
ソラは、自覚する。
自分が何をしたのか、何をしようとしていたのか、そして何を捨ててしまったのか。その果てに何も得られないことも、何もかも失うことも分かっていて……それでも逆らえずに、感情の赴くままに刃を振るってしまった。
「アイアス……!」
その結果、ソラは斬ってしまった。
同じ目標を掲げる同士であり、一番最初に友だちになってくれた……とっても大切な人を。
「ぁあぁあああああ!」
ソラの剣は勢いを増していた。最初は押され気味であったとは思えないほど、蛍の剣を真正面から押し切っていた。いつもの速度に重みと、感情の高ぶりによる気迫が乗ったこと、何よりも「殺す」という絶対的な選択をした事により、彼女の剣技はより強く……いいや、ようやく完成したのだ。
「……見事!」
ニヤリと笑った蛍は、ソラの一撃を受け止めたものの、衝撃を殺しきれずに外へと投げ出されていく。ソラもすかさず飛び降り、即座に空中での切り合いが始まった。空中での身のこなしもソラが上回り、何度か蛍の衣服を切っ先が裂いた。
刃と刃が大きく弾け合い、お互いは吹き飛ばされるように距離を取り着地する。しかし蛍が刀を構えるよりも前にソラは走り出し、その脇腹に回し蹴りが叩き込まれた。……ように見えたが、蛍は寸前のところで刀の柄を前に出し、それを盾のように使う事によって直撃を免れていたのである。
しかし、着地とほぼ同時に行われたそれは、ほとんど不意打ちに近いものだった。反射的に対応できただけで、その威力を殺すことは殆どできていなかった。
「殺してやる……殺してやる……!」
「素晴らしい……!」
蛍は向かってくる赤髪の修羅を、迎え入れるかのように刀を構える。血の塊を横に吐き捨て、再び刃を交えるために……痛みなど忘れた彼女にとって、強い者と死合うことだけが喜びだった。
互いが間合いに足を踏み入れた瞬間、仕掛けたのは蛍だった。すくい上げるような斬撃……に見せかけて自分もその場で宙返りするかのように足を上げ、ソラの顎へと蹴りを放ったのである。不意打ちには、更に上手の不意打ち。
「ふざけてるの?」
そんな二重の必殺技を、ソラは完全に見抜いていた。
囮の斬撃を容易く避け、その後に来る蹴りを転がり避けて……空中に留まったままの蛍を、冷たく冷静な目で見据え、持っていた刀の切っ先を縦から横に握り直した。
走り出す、構える前に。ソラと蛍の間にある距離は、大きく踏み込めば間合いに入る程度のものだった。空中で隙だらけの彼女を見据えたソラは、その一撃に全神経を研ぎ澄ましていた。回避など間に合わない、受けるなどもってのほか。
何も、できない。
させない。
「──死ね」
振った剣に乗せた感情を爆発させながら、ソラは横薙ぎに刀を振るった。回避不可、急所を狙った必中の一太刀を。そしてソラは斬った。一切の容赦も加減もなく、ただ殺すためだけに振るった刃で。
「……あ」
手応えが、その両手に伝わっている。
「……いい面構えだな、刀を持つってんなら……やっぱこうじゃなきゃな」
──だが。自分の体に食い込んだ刃を握りしめ、刀匠は崩れそうな笑みを浮かべた。
「お前さんにはやっぱり、人殺しは似合わねぇよ」
「あ、あああ……!」
ソラは、自覚する。
自分が何をしたのか、何をしようとしていたのか、そして何を捨ててしまったのか。その果てに何も得られないことも、何もかも失うことも分かっていて……それでも逆らえずに、感情の赴くままに刃を振るってしまった。
「アイアス……!」
その結果、ソラは斬ってしまった。
同じ目標を掲げる同士であり、一番最初に友だちになってくれた……とっても大切な人を。
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