上 下
33 / 50
番外編

*猫の日の彼ら*

しおりを挟む

※時系列順のお話とは無関係の、2/22 猫の日ネタです。
※未来のお話。ロイドとユリウスが付き合ってます。

          ♢♦︎♢

「んにっ、にゃぁぁぁぁあ!?」

 ーー驚きに満ちた鳴き声が、響き渡った。

「なっ、なんだ!? どうしたッ?」

 その声にアシュレイは飛び起き、辺りを見回す。すると、隣で寝ていたはずの枢がいない。
 どこに行ったのかと視線をさ迷わせれば、浴室の扉が開いていた。

「……カナメ? なにかあった、の……か?!」
「あ、アシュレイ……」

 声をかけながら扉をくぐると、そこには涙を浮かべてこちらを見る枢の姿が。
 しかし、普段と違うその見た目に、アシュレイは口を開けたまま立ち尽くしてしまったのだった。

          ♢♦︎♢

「失礼します! 少しリオンに用があるのですが、お借りしても構わないでしょうか……って、あぁ?」

 ノックされたアシュレイの部屋。入るよう促すと、現れたのはロイドだった。
 なにやら慌てた様子の彼は、リオンに用があったようだが、室内に目をやった途端動きを止めた。

「えっと、カナメ様? それもしかして……」
「みっ! 見ないでくださいぃ~!!」

 ロイドが凝視する先。そこにはソファに丸まるように座り、隣のアシュレイの体で顔を隠すようにする枢の姿があった。
 しかし隠しきれていない下半身から、見慣れないスラリとしたものが伸びている。

「……しっぽ」
「しっぽだな」
「っ、アッシュ殿下!!」
「可愛いのだから隠さずともよいではないか」

 ポツリとこぼしたロイドに答えたのはアシュレイで、枢はそれに食ってかかっていた。思わずと言った様子で顔を上げた枢の頭上には、ぴくぴくと動く猫耳まで見える。

「恥ずかしいですこんなの! 見ないでくださいっ!!」
「恥ずかしくなどあるものか。ほら、私によく見せてくれ」
「っ、だから……ッ」
「カナメ様!!」

 他人の視線など気にしないとでもいうように戯れだす二人。それをすぐに現実に引き戻したのは、ロイドの大声だった。

「っはい……っ!?」
「カナメ様! その猫耳としっぽはどうなさったんです!? いつからそのような事に!?」
「えっ、あの、ちょ……っロイドさん!?」

 ずいっと枢に顔を近づけるロイド。そのあまりの圧に背を反らしてに避けてしまうが、彼は尚も詰め寄ろうとする。慌ててリオンが間に入って引き剥がしてくれた。

「で。何をそんなに慌てているのですか、貴方は?」
「あ、あぁ。取り乱してしまってすまない。実は……」

 ロイドが語ったこと。それはーー

「ユリウスさんにも猫耳としっぽが……!?」
「そうなんですっ!! 朝起きたら突然生えていて! 恥ずかしがって布団から出てきてはくれないし、警戒してるのか触らせてもくれなくてっ!! なんでこんなことになっているんでしょうか?!」
「ぅ、あ! ちょ落ち着いてください……!! 僕にもなにがなんだかッ」
「近いぞ。離れろロイド!」

 またしても距離が近づきすぎていたロイドと枢を、今度はアシュレイが引き離す。

「まったく落ち着くのだロイドよ。慌てるのもわかるが、カナメに詰め寄るのは違うだろう?」
「あっ。も、申し訳ございません!」
「わかれば良い。……さて、ユリウスもこのような姿になっているとは本当か?」
「っはい! そうなのです!! 本当にかわっ、いや、心配で……っ!」
「まぁ確かに心配ではあるだろうなぁ? こんな可愛い姿、誰に見られるともしれぬものな?」
「っそうなのです!! 幸い本日は休みだというので、私の部屋から出ないよう伝えてはいるのですが、いかんせん……」
「くくくっ! お前の部屋にか。それはいい!……なぁロイド? お前はユリウスに元の姿に戻って欲しいのか?」
「へ? えっと、それはその……」
「私はしばらくカナメにはこのままでいて欲しいがな?」

 言いながらアシュレイは枢に生えた猫耳をくすぐる。「ふみゃっ!?」と奇妙な声を上げる枢を満足そうな顔で見てから、再びロイドに目を向けた。

「精霊塔のほうにも確認したが、特に結界に不備はない。魔獣の気配もないし精霊も反応していなかった。何らかの魔法かもしれないが、特に悪いものでもないだろう。……それなら、お前はどうする?」

 ニヤリと笑いながらロイドと視線を混じえる。その間もアシュレイの指は止まらず動き、今では枢の顎下を撫でていた。枢はというと、不満そうにアシュレイを睨みつけてはいるが、黒いしっぽがご機嫌に揺れている。

「……っ、失礼します!!」
「あぁ。ユリウスによろしくな。あと程々にするのだぞ」

 聞こえているのかいないのか。ロイドはあっという間に部屋を出ていき、その足でウィリアムのもとへと向かった。

「んにゃ……、アッシュ殿下?」
「ん~? 放ったらかしにして拗ねたか?」

 楽しそうにロイドの出ていった扉を見ていたアシュレイに、枢が擦り寄る。なんだかんだ恥ずかしがってはいても、そのしっぽは彼の気持ちを雄弁に伝えていた。
 腕にしっかりと巻きついた黒いそれを優しく撫でると、「にゃぁん」と甘えた声が上がる。

「よし! リオン、今日の仕事は仕舞いにする!」
「……はぁ。そうなると思ってました。明日は倍の量こなして頂きますよ?」
「あぁ、それで構わん。それじゃああとは頼んだ」

 にこやかに告げると、ゴロゴロと喉を鳴らしている枢を抱き上げ、アシュレイは寝室へと籠ったのだった。

 それと時を同じくして、ロイドの部屋から甲高い猫の鳴き声が聞こえたとか、聞こえなかったとか。

 ーー真実は二人のみが知る。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

猫の日ネタでした。
勢いに任せすぎてて、ネタを活かしきれてない気しかしない……。

猫耳しっぽが生えた枢とユリウスは、このあとばっちりしっかり可愛がられました。

完全に空気扱いのリオンやジュードたちが可哀想になってきましたね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

出来損ないの次男は冷酷公爵様に溺愛される

栄円ろく
BL
旧題:妹が公爵家との婚約を破棄したので、代わりに出来損ないの次男が売られました サルタニア王国シャルマン子爵家の次男であるジル・シャルマンは、出来損ないの次男として冷遇されていた。しかしある日父から妹のリリーがライア・ダルトン公爵様との婚約を解消して、第一王子のアル・サルタニア様と婚約を結んだことを告げられる。 一方的な婚約解消により公爵家からは『違約金を払うか、算学ができる有能な者を差し出せ』という和解条件が出されたため、なぜか次男のジルが公爵家に行くことに!? 「父上、なぜ算学のできる使用人ではなく俺が行くことに......?」 「使用人はいなくなったら困るが、お前は別に困らない。そんなのどちらをとるか明確だろう?」 こうしてジルは妹の婚約解消の尻拭いとして、冷酷と噂のライア・ダルトン公爵様に売られたのだった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 登場人物(作中で年齢上がります) ジル・シャルマン子爵令息(20▶︎21歳) 本作の主人公、本人は平凡だと思っているが頭は悪くない。 ライア・ダルトン公爵(18▶︎19歳) ジルの妹に婚約破棄された。顔も良く頭もきれる。 ※注意事項 後半、R指定付きそうなものは※つけてあります。 ※お知らせ 本作が『第10回BL小説大賞』にて特別賞をいただきました。 このような素晴らしい賞をいただけたのも、ひとえに応援してくださった皆様のおかげです。 貴重な一票を入れてくださり、誠にありがとうございました。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

愛され奴隷の幸福論

東雲
BL
両親の死により、伯父一家に当主の座を奪われ、妹と共に屋敷を追い出されてしまったダニエル。 伯爵家の跡継ぎとして、懸命に勉学に励み、やがて貴族学園を卒業する日を間近に迎えるも、妹を守る為にダニエルは借金を背負い、奴隷となってしまう──…… ◇◇◇◇◇ *本編完結済みです* 筋肉男前が美形元同級生に性奴隷として買われて溺愛されるお話です(ざっくり) 無表情でツンツンしているけれど、内心は受けちゃん大好きで過保護溺愛する美形攻め×純粋培養された健気素直故に苦労もするけれど、皆から愛される筋肉男前受け。 体が大っきくて優しくて素直で真面目で健気で妹想いで男前だけど可愛いという受けちゃんを、不器用ながらもひたすらに愛して甘やかして溺愛する攻めくんという作者が大好きな作風となっております!

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

悪魔の子と呼ばれ家を追い出されたけど、平民になった先で公爵に溺愛される

ゆう
BL
実の母レイシーの死からレヴナントの暮らしは一変した。継母からは悪魔の子と呼ばれ、周りからは優秀な異母弟と比べられる日々。多少やさぐれながらも自分にできることを頑張るレヴナント。しかし弟が嫡男に決まり自分は家を追い出されることになり...

異世界で騎士団寮長になりまして

円山ゆに
BL
⭐︎ 書籍発売‼︎2023年1月16日頃から順次出荷予定⭐︎溺愛系異世界ファンタジーB L⭐︎ 天涯孤独の20歳、蒼太(そうた)は大の貧乏で節約の鬼。ある日、転がる500円玉を追いかけて迷い込んだ先は異世界・ライン王国だった。 王立第二騎士団団長レオナードと副団長のリアに助けられた蒼太は、彼らの提案で騎士団寮の寮長として雇われることに。 異世界で一から節約生活をしようと意気込む蒼太だったが、なんと寮長は騎士団団長と婚姻関係を結ぶ決まりがあるという。さらにレオナードとリアは同じ一人を生涯の伴侶とする契りを結んでいた。 「つ、つまり僕は二人と結婚するってこと?」 「「そういうこと」」 グイグイ迫ってくる二人のイケメン騎士に振り回されながらも寮長の仕事をこなす蒼太だったが、次第に二人に惹かれていく。 一方、王国の首都では不穏な空気が流れていた。 やがて明かされる寮長のもう一つの役割と、蒼太が異世界にきた理由とは。 二人の騎士に溺愛される節約男子の異世界ファンタジーB Lです!

悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました

ぽんちゃん
BL
 双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。  そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。  この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。  だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。  そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。  両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。  しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。  幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。  そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。  アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。  初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?  同性婚が可能な世界です。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。  ※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。