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明けない夜はない。

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「ただいま。」
一応口に出すが、応答するものはいない。
私は家の鍵をいつもの場所に置いた。
決まって帰ってきた後は水を飲む。
カーテンを開けて窓の外を眺める。
もう、この都会の夜景にも随分慣れたものだ。
ついこの間まで田舎に帰りたいと泣いていたのに。
街明かりが眩しく輝く外の風景は、頑張って輝いている星を消してしまっている。

『明けない夜はない。』
そう誰かが言っていた。
その言葉は、きっと本当で。
でも、誰かにとっては、ずっと夜かもしれないし、もしかしたら日が沈まないことだって有り得るかもしれない。

私はもう一度グラスに入った水を飲んだ。
ふと、昔のことを思い出す。
少し寂しいような、悲しいような。それでも心は温かい。
この前までひとりが嫌だったのに。今はもう、ひとりが当たり前だった。
あの時の自分は未来を大きく描いていた。将来何をしているだろうって。現実は意外と夢のないものだった。
普段はそんなことないのに、何故か涙が頬をつたった。
でも今日は、孤独でもいいような、そんな気がした。
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