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シナリオ

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「はい、これ。
前言ってたやつ。」

そう言って僕は前にも渡した原稿をもう一度渡した。
彼女は以前と全く同じ表情を浮かべ、読んでいい!?と心を踊らせているようだった。

「私、恋愛小説好きかも。
この主人公の女の子、可愛いね。」
「でしょ。好きなんだ、この子。」

当たり前だ。その子のモチーフは、他でもない明李音なのだから。
僕の作る物語のヒロインは、いつだって君だった。
いいところ、好きなところをちょっとずつ散りばめる。
だが今回は、全部彼女だった。
今思えば、描き始め当初から、いや、もっと前から彼女の、明李音のことが好きだった。

「へぇー。。小説家なんだ。」

ふと、学校の図書室で再開した時のことを思い出した。

「そんなんじゃないよ。ただの、趣味。」
「ううん。小説家さんだよ。
暖なら、ほんとになれると思う。」

僕の方を向いて優しく笑ってそう言い、また視線を原稿に戻した。
どこからともなく湧いてくる涙。必死に抑えても何故か止まらない。ただ、この涙が嬉し涙だということは、分かっていた。
そして彼女もまた、静かに涙を流していた。
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