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加筆版
契り
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「ほら、やっぱり足りんかったんやろ……?」
憐れみの声の後、パサッと上着が視界の端に映り、シュルシュルと襟締も上に重なった。
「どこが一番ええの? さっきのとこなんか全然別のとこなんかちゃんと言うて」
男の方を慌てて見ると、もはや開襟シャツの二つ目の釦に手を掛けとった。
「……何するとこや」
「また吸うみたいなこと言うとったから、ほな用意しとこと思て」
んで、どこなん? と男は穏やかな瞳で見てきよる。
「アンタ、阿保ちゃう? 吸い尽くすいうことはな、死ぬっちゅうことやで!」
俺は声を張り上げた。
でも、男の態度は変わらん。
「それでええよ……おたくが満たされるなら本望やわ」
男は口角を上げて閉眼した。
突如、胸が締め付けられてブワッと吸った男の血が勢い良く全身を駆け巡った感覚がした。
熱くて苦しいのと心地良いので訳が解らん。
只、此奴を死なせてはならぬと腹を据えた。
「そない伊達な台詞を言う相手は清楚な人間の女にしぃ。今回は気紛れで許したるから、はよ着?……風邪引くで」
俺は熱い顔を隠す様に上着と襟締を強引に押し付ける。
こんなん俺らしくないのはイヤになる位自覚してんねん、ボケ。
「其れより、いつまでも此処におってええんか?」
かなり深い時間やのに、悠長に休憩してんなや。
「……大丈夫や、あとは帰るだけやから」
又暗い顔に戻ってまう男になんか胸がザワザワする。
「久しぶりに楽しい時間を過ごせたわ。まぁ、人間ちゃうみたいやけど」
急にフフフと不敵に笑い始めた男は俺を親しげに見つめる。
「ありがとう」
此奴の全てが詰まった様な言葉に俺の全身に電気が走った。
「おたくはこの後、どないするん? 夜が明けるまではまだまだやろうから、他に当たりにでも行くんやろな」
男は何故か襟締を窒息するんやないかと思う位きつく結ぶ。
「それこそ美人のお姉さんを捕まえて、目一杯堪能してから鼻唄鳴らして帰るんやろうな……こないな社畜で幸も血も薄い男では満足せえへんわ、おん」
ブップツと独り言ちながら上着を羽織り、軽く溜め息を吐いた。
嫉妬……男が初めて見せた人間らしさ。
ああ、アカン。
もう此奴の血しか受け付けんかもしれんわ。
愛おしい……吸血鬼になった俺にも人間らしさが残ってたなんてな。
「なぁ、俺と契りを交わしてや?」
珍しく、俺の声が震えた。
でも、フルフルと紙の湯呑を振っとる男に真剣な眼を向けて言い放つ。
「………なんの?」
意味が解らんかの様に惚けて言う男に負けまいと、瞬きも止めた。
此奴はまだ読み切れない言動をする人間やから、怖い。
只、其れに勝るほどの興味があんねん。
血だけじゃ足りん、俺に全てを捧げてくれ……絶対に守ったるわ。
其れなのに、此奴は苦笑いを浮かべる。
「大丈夫や、今日のことは誰にも言わんから。こう見えても、口固いんやで?」
妖怪の目撃情報の口止めをしたと勘違いしたんか、瞳を潤ませて口角を震わせている。
阿保……俺も楽しかったがな。
「ちゃう……ちゃうねん」
憐れみの声の後、パサッと上着が視界の端に映り、シュルシュルと襟締も上に重なった。
「どこが一番ええの? さっきのとこなんか全然別のとこなんかちゃんと言うて」
男の方を慌てて見ると、もはや開襟シャツの二つ目の釦に手を掛けとった。
「……何するとこや」
「また吸うみたいなこと言うとったから、ほな用意しとこと思て」
んで、どこなん? と男は穏やかな瞳で見てきよる。
「アンタ、阿保ちゃう? 吸い尽くすいうことはな、死ぬっちゅうことやで!」
俺は声を張り上げた。
でも、男の態度は変わらん。
「それでええよ……おたくが満たされるなら本望やわ」
男は口角を上げて閉眼した。
突如、胸が締め付けられてブワッと吸った男の血が勢い良く全身を駆け巡った感覚がした。
熱くて苦しいのと心地良いので訳が解らん。
只、此奴を死なせてはならぬと腹を据えた。
「そない伊達な台詞を言う相手は清楚な人間の女にしぃ。今回は気紛れで許したるから、はよ着?……風邪引くで」
俺は熱い顔を隠す様に上着と襟締を強引に押し付ける。
こんなん俺らしくないのはイヤになる位自覚してんねん、ボケ。
「其れより、いつまでも此処におってええんか?」
かなり深い時間やのに、悠長に休憩してんなや。
「……大丈夫や、あとは帰るだけやから」
又暗い顔に戻ってまう男になんか胸がザワザワする。
「久しぶりに楽しい時間を過ごせたわ。まぁ、人間ちゃうみたいやけど」
急にフフフと不敵に笑い始めた男は俺を親しげに見つめる。
「ありがとう」
此奴の全てが詰まった様な言葉に俺の全身に電気が走った。
「おたくはこの後、どないするん? 夜が明けるまではまだまだやろうから、他に当たりにでも行くんやろな」
男は何故か襟締を窒息するんやないかと思う位きつく結ぶ。
「それこそ美人のお姉さんを捕まえて、目一杯堪能してから鼻唄鳴らして帰るんやろうな……こないな社畜で幸も血も薄い男では満足せえへんわ、おん」
ブップツと独り言ちながら上着を羽織り、軽く溜め息を吐いた。
嫉妬……男が初めて見せた人間らしさ。
ああ、アカン。
もう此奴の血しか受け付けんかもしれんわ。
愛おしい……吸血鬼になった俺にも人間らしさが残ってたなんてな。
「なぁ、俺と契りを交わしてや?」
珍しく、俺の声が震えた。
でも、フルフルと紙の湯呑を振っとる男に真剣な眼を向けて言い放つ。
「………なんの?」
意味が解らんかの様に惚けて言う男に負けまいと、瞬きも止めた。
此奴はまだ読み切れない言動をする人間やから、怖い。
只、其れに勝るほどの興味があんねん。
血だけじゃ足りん、俺に全てを捧げてくれ……絶対に守ったるわ。
其れなのに、此奴は苦笑いを浮かべる。
「大丈夫や、今日のことは誰にも言わんから。こう見えても、口固いんやで?」
妖怪の目撃情報の口止めをしたと勘違いしたんか、瞳を潤ませて口角を震わせている。
阿保……俺も楽しかったがな。
「ちゃう……ちゃうねん」
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