三分で読める〜都市伝説から派生する、ホラー物語〜

トイレの花子さんの囁き

「トイレの花子さんって、本当にいると思う？」放課後、誰もいない教室で、夏美は友達の瞳に向かって問いかけた。窓の外はもう夕闇が迫り、学校の廊下も静まり返っていた。

「そんなの子供の噂でしょ。どうせ怖がらせるための作り話じゃない？」瞳は笑って肩をすくめたが、どこか不安げな表情が浮かんでいた。

「でも…、トイレの三番目の個室で名前を呼ぶと、本当に現れるって噂、昔からあるよね？」夏美は半信半疑のまま続けた。学校の古い3階のトイレは、生徒たちの間で有名だった。特に、その奥の三番目の個室には近づかないようにと言われていた。

好奇心に負けた二人は、誰もいない3階の廊下をゆっくりと歩き始めた。電気が薄暗く点滅し、足音が廊下に響くたびに、心臓が跳ねるような感覚が広がる。古びた扉がきしむ音を立てて開くと、湿った空気が二人を包み込んだ。

「どうする？本当にやるの？」瞳が声をひそめて尋ねた。

夏美は緊張した面持ちでうなずくと、三番目の個室の前に立った。彼女の手が震えながら扉を押し開けると、中は思ったよりも普通だった。だが、何かが違っている気がした。空気が重く、冷たかった。

「いくよ…」夏美はおそるおそる声を絞り出した。

「花子さん、花子さん、いらっしゃいますか？」彼女は少し冗談めかして呼びかけたが、何も起こらなかった。ほっとしたように、瞳が笑い出した。

「やっぱりただの噂じゃない！ほら、行こうよ、もうこんなところにいなくても…」

その時、不意に個室の扉が音を立てて閉まった。二人は驚いて後ずさった。重い静けさが彼女たちを包み、次の瞬間、扉の向こうからかすかな声が聞こえてきた。

「…誰か、呼んだ？」

瞳の顔が真っ青になった。「え、今、聞こえたよね？夏美、何か聞こえたよね…？」

「し、知らない！もしかして風とか…？」夏美は必死に自分に言い聞かせるように答えたが、足が動かなくなっていた。

その瞬間、個室のドアが再び開いた。だが、今度はそこには何もいないと思っていたが、影のようなものがちらりと動くのを二人は見逃さなかった。薄暗い照明の中で、何かがゆっくりと姿を現してきた。それは、小さな女の子の姿をしていた。短い髪に白いセーラー服を着たその姿は、明らかに「花子さん」だった。

「…私を呼んだの？」花子さんは、静かに問いかけた。彼女の目は真っ黒で、虚無のように深い。

夏美も瞳も声が出ないまま、後ずさることしかできなかった。花子さんは、一歩ずつ二人に近づいてきた。床にはいつの間にか水たまりができており、花子さんの足元から、冷たい水が染み出していた。

「ずっと…ここにいるのよ。誰も、私の話を聞いてくれない…」

花子さんの声はどこか寂しげだったが、その背後には確実に何か異様な力が感じられた。瞳は恐怖のあまり、いきなり走り出し、トイレを飛び出した。夏美もそれを追おうとしたが、足が絡まり、倒れ込んでしまった。

「逃げないで…」花子さんの声が、まるで耳元で囁くように聞こえてきた。「一緒に、遊びましょう？」

その瞬間、夏美は必死に手を伸ばし、何とか床を這いずりながら出口に向かった。ドアまでの距離が永遠のように感じられたが、やっとの思いで廊下に飛び出した。瞳はすでにいなくなっていたが、背後からは明らかに、何かが彼女を追ってくる気配がした。

「もう来ないで…！」夏美は叫びながら階段を駆け下り、学校の出口に向かって猛ダッシュした。





次の日、学校に来た夏美は、瞳が無事に家に帰ったと聞いて安堵した。しかし、3階のトイレは鍵がかけられ、誰も近づかないようにされていた。教師たちは「修理中」と説明したが、生徒たちの間では新たな噂が広がっていた。

「3階のトイレで、誰かが花子さんを本当に呼び出したんだってさ。」

夏美はその話を聞いて、そっと胸に手を当てた。あの恐怖は決して消えない。誰もが怖がる「トイレの花子さん」は、ただの噂話ではなく、実際に存在していたのだ。

しかし、それ以上に奇妙なのは、あの日以来、夏美の耳元で時折聞こえる声だった。

「また会おうね…」