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第四章 ラブコメって言ったら学園じゃね…

第491話 のっぺり、常識を知る。(霊能) (6)

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「火焔!」
再び懐から紙を取り出し前方に向ける訓練生、その紙から噴き出す炎の柱。
彩音さんは手を下から振り上げるような動作をし、それを防ぎます。どうやら結界の術式を張ったようです。
訓練生は結界によって広がった炎の壁をブラインドとして気配を薄め脇に移動、素早く彩音さんの背後に回り気当てを行おうとします。
そこは読んでいたとばかりに身体を回転させ腕を掴み地面に組み伏せる彩音さん。

”そこまで”

お互いに礼をし試合終了となりました。
・・・凄くない?何これ?あの紙ってもしかして”符”とか言う奴ですか?漫画で見た事あるんですけど。あれですか、オンキリキリソワカとか急急律令とか唱えちゃう奴ですか?安倍晴明さんとかが出て来ちゃう陰陽師的な奴ですか?

「どうどう、落ち着きな坊や。あながち間違ってはいないさ、流石に安倍家の初代が出て来るなんて事はないけどね。あそこも今じゃ正当な血筋は途絶えちゃってるからね、歴史と伝統を伝える家と言った感じかね。で、どうだい、大体中堅どころの実力ってのは分かったかい?」

はぁ、流石に火を出したりトラを出したりは無理かと。知識も無いですし、術式関連は余り上手く行った試しが無いんですよね。体術とか気配消し、気当てなら行けると思います。

「ふむ、ならば問題ないだろう。先ほどの彩音を基準として自分なりに組み立てればそれなりに誤魔化しがきくだろうさ。この業界は術式関連がもてはやされる傾向が強いが実際の現場では彩音の様な体術に長け臨機応変に対処できる人間が生き残る。見鬼の周りにもそうした者はいるだろう?細かい点はそいつらを参考にすればいいんじゃないかい。あくまで基準は彩音だからね。」

りょ、了解であります。
”キキ、キュイ”
お婆さんの余りの剣幕に敬礼で答える俺とつくねであります。(ビシッ)


「大婆様、よろしいでしょうか。先ほどからの話しですと其方のお客人は相当にお強い様に仰られておりましたが。」

訓練場にいた若手の訓練生が声を掛けて来た。どうもこちらの話しが聞こえていた様である。そりゃそうだよね、見知らぬ客人に一色家の先代当主が見学に来れば誰だって聞き耳立てるよね。

「もしよろしければお手合わせいただきたいのですが?」

え~っと、これってどうします?そう言えばお婆さんもこの業界は自意識過剰の自己中が多いって言ってたけど、この事態は予想してしかるべき?
あ、お婆さんがしまったって顔をしている。色々ショックなことが多すぎてすっかりその事が抜けてしまっていた様です。何かごめんなさい。

「坊や、悪いんだけど付き合ってもらってもいいかい?」

まぁ、いいんですけどね、それじゃ行ってきます。つくねは応援ね。
”キュイキュイ♪”
うん、なんか楽しそうにしてるし。それでは開始位置についてっと。
どうもこちらを見下したような顔をしてるな~。基本初対面のエリートってみんなあんな顔をするんだよな。

”始め”

それじゃ重心位置と体幹のブレに気を付けてそのまま前進。脱力から身体を沈め下方より急上昇の顎先にデコピン。その際少量の気当てで完璧でしょう。
ボクシングで言う所のチンを打ち抜くって奴ですね。脳震盪必至、ほら、今頃視界がグラングランして・・・”グシャ”。ハイ終了。
お婆さん、こんな感じでいい?って何呆けてんのさ。

「阿呆か、何で術者相手に体術だけで勝ってるんだい。しかもゆっくり近付いたと思ったら姿消えるし、術の気配一切ないし。坊やは一体何したんだい。」

あぁ、あれ?人間て頭部を一切揺らさずに滑らかに正面から近づくと移動している事を感知出来ないんだよね。その錯覚を利用して近付いて一気に脱力、するとまるで消えた様に見えるのよ。そこから急上昇をして顎の先をヒット、てこの原理で脳が揺さぶられて脳震盪の完成です。脳って頭の中で髄液に浮いてる状態だからこの攻撃は防ぎようが無いんだよね、まぁ相手の油断を最大限に生かした攻防って所かな?
えっ?こうじゃない?お婆さんなんか頭抱えてどうした?

「お待ちください大婆様、今の者の敗北は慢心と油断の結果。今一度の手合わせをお願いしたい!」

なんか次なるチャレンジャーが出て来ちゃったんですけど、どうします?やれと、まぁいいですけど。
グランドの中央、開始位置に戻る。

「もはや我に油断なし、お覚悟を!」

何かやたら気合入ってるんですけど。もっと肩の力抜いた方がいいと思うんだけどな~。

”始め!”
”パンッ!”
”スタスタスタ”
”ピシッ”
”ドサッ”

ハイ終了。ってどうしたお婆さん、お口あんぐりよ?

「どうしたって今坊や何したんだい?まったく分からなかったんだが?」

えっ、何って始めの合図の後すぐに柏手、いわゆる猫騙し?これって本来は目の前でやらないと効果ないんだけど、一瞬の気を引ければよかったし、相手が気合十分で警戒してくれたってのもあって意識は持って行けたよね。その隙に気配を消して正面にお邪魔します。後はさっきと同じで顎先にデコピンでダウンって感じ?バッチリ決まったでしょうってどうしたのお婆さん、オデコに手を当てて。術と術の攻防がって、俺術なんて気配操作くらいしかできないんだから仕方がないじゃん。今回はちゃんと使ったんだから大目に見てよ。

「ええい、お前たち騒ぐな情けない。お客人は何も間違った事はしておらんだろうが。数少ない手札を十分発揮しての勝利、褒められこそすれ貶される謂れはないわ。
お客人申し訳ない。あまりにもこちらの常識に当てはまらないお客人の有り様に皆混乱してのこと、許されよ。」

いえ、気にしてませんので。それで彩音さんでしたっけ、何故開始位置に?

「いや、お客人には退屈な試合をさせてしまった様で申し訳が無いと思いましてね。お詫びに是非お手合わせをと。」

う、目がマジじゃないですか、そんなに闘志を燃やさないでくださいよ。まあいいですけど、俺って術式とかからっきしですんで基本体術と気配操作の組み合わせですが構いませんか?

「願っても無い。よろしくお願いします。」

”バッ”

おっと、行き成り仕掛けて来るし、しかも手と足に気配纏ってるし。あれって触ったら即アウト系の何かじゃないの?嫌だ、この人マジじゃん。

「ははは、中々やりますね。ではもっと上げて行きましょう。」

”ババババババババババ、バシュバシュ”

千手観音かアンタは、しかも蹴りまで飛んでくるし。
でもね、逃走王はそんなもんじゃないんですよ?

”ギュンギュンギュンギュンザッザッギュンギュンギュン“

「なに、この私が追えないだと!」

”パシンッ”
”グラッ、グシャッ”
ハイ終了。攻防中にゆっくり呼吸している内はまだまだかな?セカンドステージに来ない限り俺に勝とうとしても無駄だと思うよ?
ってお婆さんどうしたの?遠い目をして。

「ハハハ、坊やに常識を教えるのは無理って事が分かっただけさ、気にしないでおくれ。体術だけで術者、しかも中堅クラスを圧倒する存在がいるだなんて誰が思うんだい。この業界の常識がひっくり返っちまったじゃないかい、どうしてくれるんだい。」

どうどう落ち着いて、あまり興奮すると血圧が上がるから。そんなお婆さんに残念なお知らせです。彩音さんでしたっけ?彼女を倒すくらいの実力者なら結構います。要は触られなければいいんですから、方法は様々ですし。
この業界以外の人間もなかなかやるもんでしょ?

のっぺりの物言いに呆然とする一色家の面々。
これからの修行方針を見直す必要があるのかもしれないと頭を悩ます大婆様なのでありました。
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