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第四章 ラブコメって言ったら学園じゃね…

第468話 ペンションに行こう (5)

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高原の朝は早い。涼しく澄んだ空気、森のマイナスイオンを浴びにペンションの周りを軽く散策。野鳥の歌声が耳に心地いい。

「おはようございます佐々木様。昨夜ゆうべはお楽しみ・・・いえ、なんでもございません。朝食のご用意は出来ておりますのでレストルームへお越しください。」

ペンションの一階フロントではスタッフがすでに仕事に取り掛かっている様だ。
ん?どうしたのかな天海君。私の顔に何か付いているとでも?

「ハハハ、いえ、お客様が少々お疲れのご様子でしたのでお声をお掛けさせて頂きました。どうやら枕が合わなかった御様子、もう少し堅めの物をご用意いたしましょうか?」

うん、そうだね、俺の分だけ代えて欲しいかな?他には特に問題はなかったよ。

「畏まりました。では引き続きごゆっくりお寛ぎください。」

一礼をし下がって行く天海君、彼ってホテルのボーイとか喫茶店のマスターとか接客業が似合うよね。グイグイ来ない性格がマッチしてるのかも、秋の文化祭で執事喫茶でもやらせたら人気爆発するんじゃないだろうか。スポーツ研究会の出し物として提案して見ようかな。

”カチャ”

部屋に戻ると入ってきた俺に驚きと安堵の顔を見せる二人。どうした、何かあったのか?

「もう、心配したんだからね。起きたら大地君いなくなっちゃうんだもん。私嫌われたのかと思って、ずっとソワソワしてたんだから。」

そう言い胸に飛び込んでくる絵実。えっ?何でそうなるの?

「そうですよ大地君、本当に心配したんですからね。何も言わずにいなくなるのは止めてください。私たち無理に迫って嫌われたんじゃないかって、凄く落ち込んでたんですからね。」

頬を膨らませて”私怒ってます”とアピールする香織、めちゃくちゃ可愛いです。年上お姉さんのプンプン顔いただきました。じゃないじゃない、いや申し訳なかったっす。ちょっと心と身体にインターバルが欲しかったもので。
そうそう、天海君が朝食の準備が出来てるって教えてくれてさ、一緒に食べに行こうよ。それで今日の予定とか決めない?
俺お腹すいちゃった。
そう言って胸元の絵実の頭を優しく撫でる。
絵実はいつもそうやって誤魔化して~。と膨れ面だがどこか嬉しそうな顔をしていた。

朝食後ペンションオーナーの女性が挨拶に来てくれた。なんでも天海君のおばさんに当たる人で、いつも彼の事を心配していたらしい。

「あの子ったら引っ込み思案と言うかあまり人と関りを持とうとしないから心配してたのよ。これからも光彦の事をよろしくお願いしますね。」

そう言い豪快に笑うオーナーは天海君とは真逆の印象、彼相当振り回されてるんだろうな~。こちらを想う優しさからくる親切なだけに無下にも出来ない。天海君、草葉の陰から応援してるね。
ついでだったのでオーナーに近場の観光スポットを聞いてみると、林道を一時間ほど行った先に綺麗な湖があるとの事。俺たちはオーナーに礼をし、早速その湖へと行ってみる事にした。

「「うわ~、綺麗~。」」

森の林道を歩くこと一時間。目の前にはキラキラと水面みなもの輝く湖がひっそりと佇んでいた。湖畔の周りには遊歩道が整備されており、休憩用の木のベンチが置かれていた。
俺たちはベンチに座りしばし景色に目を奪われる。湖からは水上を抜ける風が涼しさを運んでくれる。
肩掛けカバンに手を伸ばし三本のマグボトルを取り出す、これはペンションのオーナーが湖まで散歩に行くならと用意してくれたものだ。こうした心遣いはとても嬉しい、中身は冷たい麦茶のようであった。

「こうしてゆったりと過ごすのっていいね。」

絵実がこちらを見ながら笑顔で話し掛ける。

「そうだな。」

そう答えながら俺は私立桜泉学園高等部に入学してからのこれまでの事を思い出す。
忙し過ぎだろう~。
入学すぐに学園掌握ってどこの番長?テロを防いで親玉ごと大使館を襲撃して仕事先で拉致られて、最終的に国の中枢ぶっ潰すってフロンティア連合の映画でもないから。学園内にはあり得ない不思議がゴロゴロだし、ハニ子に化けて海外で大立ち回りって一体。学園内でののっぺり不遇問題なんて些事ですわ些事。
この四カ月でどんだけ働いてるんだよ俺、佐久間中学の頃が平和に思えるってヤバいだろう。あれも人に話せばドン引きだからね。

「大地君、少しいい?」

絵実が真剣な顔でこちらを見詰めて来た。俺は彼女の瞳を見返し話しを促した。

「大地君が人には言えない様な大変な事を色々と抱えてるって事は月子さんから聞いてるわ、大地君は中学の頃もそうだったけど桜泉学園に行ってから更に頑張っているって。私たちでは相談にも乗れないし変に話を聞いて心配になったりするのを大地君が嫌がるってのも分かる。だからそれについて詮索するつもりはないの、でも大地君が疲れたらいつでも私たちに甘えて。
私たちは何か特別な才能が有る訳でもない、月子さんやまなみさんみたいに世の中で認められていると言う事も無い。でもあなたの帰る場所にはなれるから。
大地君が日常に帰れる場所になれる。これってとっても素敵な事だと思わない?」

そう言って微笑みを浮かべる絵実。俺を挟むように座っていた香織がそっと寄り掛かってくれる。
うん、俺は大丈夫だ。俺にはこんなにも思ってくれる人たちがいる。
いつの間にか心の奥に溜まっていた不安やわだかまりが、スッと解けて消えていくのを感じる佐々木大地なのでありました。
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