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第四章 ラブコメって言ったら学園じゃね…

第438話 木村君のお仕事

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”カチン”

ケトルのスイッチが切れる音、お湯が沸いた合図だ。
俺は粉コーヒーに湯を注ぐ、この時鼻に抜ける香ばしい匂いがなんとも言えず好きなのだ。
一分ほど蒸らしたコーヒーに再びお湯を注ぐ。ドリッパーから零れ落ちる黒い液体、コーヒーカップのソレを一口口に含む。酸味の効いたそれでいて深い味わい。
今日の気分はブラックかな?口の中に残るほろ苦さも心地いい。

”カチャ”

部室の扉が開きとある男子生徒が入って来た。
木村君どうした、えらい疲れた顔をして。

「あぁ、佐々木か。昨日番組の収録でちょっとな。女性のパワフルさに当てられたって所かな。」

ほうほう、それは面白、いやいや大変だったね~。ちょっとその辺詳しくおじさんに聞かせてくれないかい?コーヒー飲むかい?今淹れるね~。
俺はそそくさと木村君の分のコーヒーを準備するのだった。

(side:木村英雄)

”コトン”

テーブルには一杯のコーヒーが出される。
俺はテーブルの上にある砂糖とクリームを取り、自分のカップに適量入れる。
カップの液体が黒から茶色に変わったのを見計らい一口口に含む。コーヒーの甘さが身体に広がる。疲れの溜まった時は甘い物を摂りたくなるものだ。
昨日の仕事はそれだけ大変だったと言う事なのだろう。

ここ私立桜泉学園高等部は男子の仕事、社会進出を応援するシステムが整っている。その為芸能の仕事を受ける場合、公休扱いで大手を振って学園を休める。まぁ、俺は学校と言うものが嫌いと言う事も無いし、勉強も割と好きな方だ。だから休みが増えたと喜ぶ事も無いが、仕事で出席日数に影響が出ない事と、今日の分の授業が後から確認できるシステムは大変ありがたい。国全体としても男性の社会進出は推し進めていく方針の様で、似たような仕事を持つ男子生徒は何処でも公休扱いになるそうだが、ここまで丁寧に休んだ分のケアが受けれる学校は私立の中でもそんなにないんじゃないだろうか。教師陣も質問には丁寧に応えてくれるし俺としては大変助かっている。
そうした環境にあるためこの仕事も気楽に受けたのだが。

それは中央都テレビのスペシャル番組の企画であった。内容は誰もが知るアミューズメントパーク中央都デスティニーランドの紹介レポート。企画としてはありきたりであるが、若いイケメン男性タレントがリポートをするというのがこの番組の趣旨の様であった。

「おはようございます、スタジオS&B所属木村英雄です。本日はよろしくお願いします。」

現場駐車場にマネージャーと共に到着し、早速現場ディレクターに挨拶をする。この挨拶を疎かにすると全体の雰囲気が悪くなることは今までの経験で学んだことだ。

「おはようございます、あなたが木村英雄君ね、今日はよろしくお願いするわ。一緒に回る出演者はあなたも知ってると思うから、あ、ちょうど到着した様ね。」

見ればライトバンから降りる三人の男性の姿があった。

「おはようございます。スタジオCherry所属、石川洋一、皇一、高宮ひろし三名。只今到着しました。」

揃ってディレクターに挨拶をするスタジオCherryの面々。
石川先輩、相変わらずしっかりしている。三人の仕切りはいつも石川先輩が行っているのだろう、あの人は苦労性の所があるから。
と言うかひろし君、目がキラキラしてるんだが。もしかしてディスティニーランド初めてだとか?

「やぁ、木村君おはよう、今日はよろしくね。そうなんだよ、前から来たかったんだけどなかなか来る機会が無くって。義母さんからは”周りがパニックを起こすから駄目”って禁止されていてね、今回の話しが来た時嬉し過ぎてよく眠れなかったんだ。でも今日は大丈夫、睡眠もしっかりとって来たからね、ちゃんとリポートしようね。」

亜麻色の髪をふわりと靡かせ、満面の笑みを浮かべる王子様。
”バタバタバタッ”
俺の背後から聞こえるスタッフの倒れる音。
今日の収録大丈夫だろうか。(スタッフ的に)
凄い不安だ。

”キー――ッ”
”バタンッ”
「紫音さん、こちら現場ディレクタ―の遠野さんです。遠野さん、本日はよろしくお願いします。紫音さん、挨拶をしないと。」

「んだようるせぇな~。今日だってお前が急かすからゆっくり寝てられなかったじゃねえか。挨拶って見れば分かるだろうが、俺松村紫音よ?西京芸能事務所のアイドルジャイアントの一員よ?全国で知らない奴なんていないのよ?
それこそ俺の方がそのディレクターの事知らんわ。そんでなんて言ったっけ?」

うわ、なんだアイツ。現場が凍るほどの俺様具合。でもこれが芸能界の俺様の実態なんだろうか。昔の自分を思い出すからすごく嫌なんだが。でもそう考えると暴言を吐かないだけアイツの方がまし?
昔の自分どれだけ駄目だったんだろうか、なんか死にたくなって来た。

「おう、お前らか、今日一緒に回るってのは。先輩が来たら自分から挨拶をするってのは常識だろうが。お前ら芸能界舐めてんのか?潰されたいってんならいつでも言えよ、事務所ごと葬ってやんぞこら。」

「これは大変失礼をいたしました。私はスタジオCherry所属石川洋一と申します。控えますこちらは皇一、高宮ひろしになります。本日は高名な松村紫音先輩と同じ現場に立てる事、大変光栄にございます。どうか一日よろしくお願いいたします。」

「「よろしくお願いします。」」

石川先輩凄いな、滅茶苦茶流暢、こういった場面に慣れてるんだろうな。
俺も挨拶しておくか。

「初めまして、スタジオS&B所属、木村英雄と言います。西京事務所のアイドルグループ”ジャイアント”と言えば世界に轟く我が国の代表的アイドル。そのメンバーである松村紫音さんを知らない者がこの国にはいない事は自明の理。そんな御方と同じ現場に立てる栄誉、今日と言う日は俺にとって一生の記念となるでしょう。
どうかよろしくお願いいたします。」

「おいおいなんだなんだ、お前らよく分かってるじゃねぇかよ。仕方がねぇな~。俺が芸能界の仕事って奴をしっかり見せてやるからよ、手取り足取り教わる事が出来るなんて甘い事考えんじゃねえぞ。仕事ってのは見て感じて覚えていくもんなんだからよ。」

「「「はい、勉強させて頂きます。」」」

こうして今日の収録は始まるのであった。
正直帰りたい。マネージャー、帰ってはダメか?町田さんが怒る?そうか、分かった。
無事に一日が終わる事を祈ろう。
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