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第四章 ラブコメって言ったら学園じゃね…

第426話 用務員さんと駄弁る (3)

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木々の合間を抜ける涼やかな風、森より届く鳥たちの歌声。
”カチャン“

テーブルに差し出されたティーカップからは紅茶の甘い香りが漂っている。
一口含む、琥珀色の液体が喉を潤す。口内を抜けるすっきりとした味わい、この梅雨の季節にはピッタリだ。

「順子、下がってよいぞ。今日はいつもの基礎と、昨日教えた人除けの復習をするのじゃ。」

「はい、お師匠様。御用がございましたら御呼びください、失礼いたします。」
一礼をし、部屋を下がろうとする順子ちゃん。
順子ちゃんはこの用務員宿舎を発見?してからたびたび訪れては朱音さんに結界術やら人除けの術やらを教わっているらしい。なんでも朱音さんの術は超一流で、彼女に教えを乞う事が順子ちゃんがこの学園に来た目的だったとか。
俺も試しに教わってみた事があったんだけど、結界術の段階で頓挫。だってさっぱり理解出来ないんだもん。なんかムニュムニュ唱えてこれが結界ですって言われても俺には感じられないんだよね~。順子ちゃんはなんかパントマイムみたいな事をしながら”流石は師匠”って忖度全開でよいしょしてるし。俺が同じようにムニュムニュした時もパントマイムしてくれたからあれってお約束的な奴なんだろうか。
”やっぱりこ奴はおかしい”とか”常識の破壊者”とか言うのは止めてくれない?そんなお約束は知らないんだっての。

それで師匠と弟子ごっこを楽しんでいる二人なんだけど・・・。
二人とも堅すぎ、何かおばさん臭いよ。

「「だから雰囲気!!」」

なぜか怒り出す二人。え~、いいじゃん。もっと緩く行こうよ~。
”やはりこ奴は”とか”お義父さん、大変だったんですね。”とか言ってるけど、そんなに変な事言ってるかな~。
”ズルズルズル”

あ~、紅茶が上手い。
でもここって梅雨時期なのにあまりジメジメしてなくっていいよね。森からの風も涼しいし、高原の別荘って感じ。凄い過ごし易いんだけど、コレって朱音さんの管理の仕方が関係してるとか?

「おぉ、お主にしてはよく気が付いたの。まさにその通り、ここはある種の神域じゃからな。木々の配置や剪定、建物の位置や構造。大和の風土を考え風が抜ける腐りにくい建物を意識して建てられておる。神社の社などと発想は一緒じゃ。」

なるほどね~、つまり日頃の管理がこの環境を作り出してるって事なのかな?流石はこの土地の守護者、いい仕事をしてますわ。
でも用務員さんってお姉さんがいるって言ってなかった?学園の奥に屋敷を構えてるって。そっちはお姉さんの管轄?二人で全体を管理してるとか?

「うむ、前にも言ったとは思うが学園の清掃管理、大まかな剪定作業などは学園内の人間が行っておる。我はもっと超自然的なモノ、地脈の流れや澱みと言ったものの管理じゃな。街中でも綺麗なはずなのに全体に空気が重いとか雰囲気が暗いとか言った場所があるじゃろ?そう言った場所の改善とかが主な仕事じゃな。植物の成長促進なんかも手伝っておるぞ。」

おう、またまた謎ワード。そう言えば増山のおっちゃんも御劔山の祠やワンワンのお社に行った時そんな事を言ってた様ないなかった様な?ワンワンのお社は周りが雪に埋もれてるのにそこだけ春って言う不思議な所だったよな。もしかしたら朱音さんが言ってるのもそれに近い話しなのかな?
うん、さっぱり分からん。

「なんかよく分かっておらん様じゃの。こういった若者が多く集まる土地はその分悪意や恨みつらみが多く集まるんじゃ。そうしたモノが集まれば澱みは自然と生まれるんじゃよ。」

「師匠、無駄です。佐々木君は御劔山の祠の前で帰りのラーメンの事を考えてる様な人ですから、おそらく澱みのど真ん中にいても何も感じません。お義父さんの話しでは御劔山の主をペットにしちゃったような人ですから。」

”ブフォ”
うわ、紅茶飛ばさないでよ、朱音さん汚いっての。

「ゴホッゴホッ、御劔山の主って言ったら鎮魂の祠の特級怪異じゃないか!それをペット?嘘じゃろ!?あ奴はあの山に封じられるまで大和を荒らしまくった大怪異じゃぞ、それこそ恨み辛みの塊じゃぞ!?
こ奴いったい何者じゃ。」

なんかえらい言われ様なんですけど。御劔山って黒丸の事?黒丸に会いたいの?今度連れてこようか?

「「勘弁してください。」」

え~、黒丸可愛いのに。

「そういえばさっきから気になっておったんじゃが、お主の左腕からワシの神気を感じるんじゃがどう言う事じゃ?妙に増幅しとる様な気もするんじゃが。」

あ、これ?気付いちゃいましたか、ではお見せいたしましょう。
ハニワ、張り扇モード。
左手に嵌められたブレスレットが光り輝く。その光が収まった時、そこには右手に張り扇を構えたのっぺり佐々木が立っていた。

”はあ~!?”

”人々よ、刮目せよ、ワイこそは精霊剣エクスカリバー!”

違うから、お前はただの張り扇だから。

”いやいや、せやからこういうんは言ったもん勝ちなんやて。”

「何ですかその張り扇、滅茶苦茶霊格が高いじゃないですか。師匠、いつの間にあんな無駄なモノ作ってたんですか!?」

「いやいやいや、流石に私でもこんな張り扇作れないから。どれだけ力込めたら出来るのよ、こんなの作れるの大神クラスの方々くらいですから。」

あ、朱音さんしゃべり方崩れてる。彼女焦ると素が出るタイプなのかな?
おいハニワ、ハニワに戻っていいぞ~。

”お、ええんか?せやったら遠慮なく。”

再び輝く張り扇、その光が収まった時、そこには白いナニカが現れるのだった。

「Bonjour、ご機嫌麗しゅうお嬢さん方。ワイはハニワやねん、よろしゅうな。」

頭に被るカーボーイハットを脱ぎ、丁寧に挨拶をする”白いハニワ”。
その光景に完全に固まる順子ちゃんと朱音さんなのでした。
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