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第四章 ラブコメって言ったら学園じゃね…

第406話 何かいる (4) (side:夏川きらら)

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「それじゃきらら、上手い事やるのよ。後の手筈はすべて整ってるから。」

マネージャーは私を車から降ろすとそう言い残し去って行った。
人もまばらな朝の道路、私はあらかじめ指定されたポイントに隠れ、じっとhiroshi君がやって来るのを待つ事となった。

目の前では多くの学生がにこやかに登校していく。ここは私立の名門桜泉学園高等部、全国でも有名なイケメンの巣窟。男少女多の今の世でそんな場所があったのなら男子生徒はさぞ多くの女性を従えてるのだろう。そんな場所にhiroshi君の様な王子様が通っていたら女の子はメロメロになっても仕方がない。
じゃあ私はどうやって彼に接触する?女の子の群れの中を潜り抜けて?
ここは堂々と正面から飛び込む?
状況を整理しあらゆる可能性を考える。
今は余計な事は考えないただミッションを成功させるのだ。私は自分に言い聞かせ、その時を待った。

「ウチの学園に何か御用ですか?さん。」

その声は突然背後から掛けられた。いきなりの身バレ、不味い、咄嗟に逃げ出そうにも行く手はすでに塞がれている。

「ちょっとお話が聞きたいので正門前の警備員室に来ていただいてもよろしいでしょうか?」

選択肢はなかった。登校時の男子生徒を付け狙う不審者、警察を呼ばれれば一発アウトのこの状況、私は素直に言う事を聞き彼に付いて警備員室へと向かうのだった。

”コトッ”
「粗茶ですがどうぞ。」
慣れた手つきで出されるお茶とお茶菓子。高等部の男子生徒の制服を着た彼は、まるで警備職員の一人でもあるかのように自然と振る舞っていた。
おそらく風紀委員か何かの仕事をしているのだろう、その動作はとても堂の入ったものであった。

「あ、あの、ここってどこなんですか?私その、ま、マネージャーさんを呼んでください!」
私はこれでもプロのアイドル、その第一線を駆け抜けてきた一流のアイドル。こんな所で終わる訳には行かない。相手が何者でも関係ない、今はアイドルとして振る舞うのだ。

「あ、そう言うこてこての展開は良いんで、そう言うのは主人公様方イケメン連中相手にやっていただけます?私見ての通り学園の裏方何で、騒ぎさえなければお涙頂戴の展開なんてどうでもいいですから。」

私の演技は目の前の特徴のない顔をした男子生徒には全く通用しなかった。それどころか私の存在自体歯牙にも掛けていない様子であった。
あの、私これでもトップアイドルとして頑張って来たんですけど?えっと知りません?夏川きらら。ドーム公演とかやってたアイドルなんですけど。
ガラガラ崩れるアイドルとしての自信、私の努力って何だったんだろうか。

「でも仕事とはいえ大変ですよね、事務所の方針?裏で暗躍するプロデューサーか大手芸能事務所がいるとか?
其方の業界、足の引っ張り合いが激しいらしいじゃないですか。”hiroshi”君の人気を妬んでスキャンダルを起こしたとかそんなところとか?
あわよくば自分の男にしようって下心も見え隠れって感じですかね~。」

サッと血の気が引くのが分かる。目の前の彼はまだ出会って少ししか経っていないにもかかわらずこちらの状況をピタリと言い当てて来たのだ。思考が追い付かない、いったい私はどうしたらいいのだろうか。

”ズルズルズル”
窓の外を眺めお茶を啜る彼。

「あの、・・・」
彼には絶対に勝てない。私は観念し、これまでの事情をすべて包み隠さず話すことにした。


「はぁ~。本当芸能界って嫌、そんな話しばっかり。夏川さんもお疲れさん、まぁお茶でも飲んでゆっくりして、このおせんべい結構いけるから。」

すべてを話し終わった時、彼は今までの緊張感のある態度を一変、呆れて物も言えないと言った風にゆるい態度を取り始めた。

「で、夏川さんは今後どうするの?またひろし君を付け狙うつもり?ま、こっちとしては学園と関係ない所でやる分にはどうでもいいかな。ひろし君の事だからそれくらいでどうこうなるって事も無いだろうしね。さっきの話しじゃ夏川さんが成功しようが失敗しようが第二第三の夏川さんが現れてスキャンダルの捏造をするんでしょ?
そんなん構ってられないしね。」

彼はもうその話には興味がないとばかりにバリボリとおせんべいに噛り付いていた。

「私は・・・。」
私はいったいどうしたいのだろう。すでに事務所からアイドルとして見切りをつけられた私。彼女たちはまた私に行けと言うのだろうか。それともこの失敗を理由にトカゲの尻尾の様に切り捨てられるのか。
私はいったい何がしたいのだろうか。

「夏川さんはさ、どうしてアイドルの道を選んだの?」

それはとてもシンプルな質問だった。
どうしてアイドルになりたかったのか。それは単純な夢、子供の頃の憧れ。
大勢の人の前で舞台に立ち、可愛い服装で笑顔で歌を歌う。キラキラと輝くその姿に子供の頃の私は魅せられた。私もあの舞台に立ちたい、私もあの人たちの様なアイドルになりたい。
そんな憧れ、それが私の目指したアイドル。

「そうか、夏川さんはそんなアイドルになれた?」

忘れていた。何時から私は見失っていた?
ハハハ、それは人気も落ちる訳だ、私自身がアイドル像を見失っていたんだから。

「なんか余計な事を言ったみたいでごめんね。もし今の事務所にいずらいって言うのならここに電話してみて。きっと力になってくれるはずだから。」

それは一枚の名刺だった。
”スタジオS&B総合スタッフ町田雪子”

「そこ、咲夜さんが所属する芸能事務所だからね、怪しい所じゃないから。一応俺もタレントやってるの、”のっぺり佐々木”ってあんまり有名じゃないけどね。その町田さん、以前は西京芸能事務所でアイドルグループジャイアントの担当マネージャーもやってた人間だから結構有能なのよ?」

彼はそう言うと優しく微笑んでくれた。
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