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第二章 中二病には罹りません ー中学校ー

第270話 修学旅行は雅な香り (6)

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「それじゃ、僕たちは先に旅館に戻ってるね。みっちゃんにくみちゃん、それにみんな、旅館に戻るよ。」
「「「うん、西山君。」」」

先程迄のドタバタ劇が嘘の様に颯爽と宿へ戻っていく西山君、なんか別人みたい。
アニ研三人衆なんか口ぽか~んとしてるし。
”えっ、あれって本当に西山君?”って西山君に失礼だよ?
彼ああ見えて第二回逃走王決定戦本選出場選手よ?オリンピック選手相手にラスト三十分まで生き残った猛者よ?よくよく考えればその辺の有象無象なんかまったく相手にならない強者よ?
残念ながら本人にその自覚がまるでないんですけどね。
だもんでその辺の事をちょいと思い出させればあら不思議、ワイルド系イケメンの完成です。男なんて雰囲気一つで別人に成れるもんなんだって、元々素材は悪くないんだから、メイクなんぞしなくてもばっちりイケメンだったでしょ?
コクコク頷く一同。
男はやっぱり中身でしょう、Saki様の中の人、佐々木君はそう思うのであります。

お買い物はもう良いですか?
「「「は~い。」」」
それじゃ、俺らも宿に戻りま「なんだと貴様、もう一遍言ってみろ!」・・・今度は何よ、一体。

「だからさっきから言ってるだろうが、貴様らのような田舎くさい下賤の輩がこの都を我が物顔でうろつくな。観光なら観光で大人しく隅でも歩いておけ、目障りだ。
おいお前たち、行くぞ。」
「「「はい、若様。」」」

なんぞあれ?どこかでドラマの撮影中とか?ワイルド俺様といけ好かない俺様のぶつかり合い、まさに修学旅行先あるある。

「待てと言ってるだろうが!」
激昂し殴り掛かるワイルド、興味無さげに見下した様な顔で顎をクイッとするジモティー。瞬間ワイルドの回りを何かが走り抜ける。あれは、フェレット!?
えっ、何、超可愛いんですけど。
あ、ワイルドが膝をついて倒れた。
"キャー"
倒れたワイルドに覆いすがるワイルドの取り巻き女子。
そんな事よりフェレットですよ、ほれほれ、こっちおいで~。
撫で撫でしてもいいですか~?いいの?本当?ほ~れほれ、ここか、ここがいいんか~♪
"キュィキュィ"
ふむふむ、お前さんはあの若様と契約してると、なるほどなるほど。そんで思ってたのと違うんで、困惑しとると。あんなにいい香りがしたのにおかしい?
そういえばお前さん鼻の頭に何か付いてるぞ?おいちゃんが拭いてあげよう。ティッシュで拭き拭き♪
どうよ、すっきりした?
"キュキュキュ~♪"
そう、それは良かった。
でも契約があるからどうしようもないの?そう言えば何か赤い糸が絡み付いてないかい?
えっ、あいつ猿回しならぬフェレット回しだったの?若様スゲー。
えっ、これ外したいの?でもな~、勝手に外すと怒られそうだしな~、お前さんの行き先だって無いでしょうに。
「外してあげれば良いじゃないかい。」

おや、昨夜のお姉さん、昨日ぶりです。でもですよ、この子がその辺をうろうろしてるって色々問題でしょ?

「あぁ、それなら私が引き取るよ。こう見えてこの手の連中は昔飼ってたからね。お世話ならお手の物なのさ。」

そうなんですか?
それならお願いしちゃおうかな?
フェレット君もそれでいい?
"コクコク"

可愛いですね~。それじゃ、こっち来て~。こんな細い糸なんざ"ブチブチ"ほれ、この通り。
じゃあ、えっと確か葛の葉さんでしたよね、お願い出来ます?
「あぁ、任せておいで。お前さんも行こうか。」

悠然と去って行く葛の葉さん。
嬉しそうに葛の葉さんの肩にじゃれつくフェレット、うん、ほっこり。
それじゃみんな、俺たちも帰ろうか。

「「「ねぇ佐々木君、さっきから一人で何やってたの?」」」
ん?いや、フェレットがね、今の人とってもういないや。まぁいいか、気にしない気にしない~。


(side : ??)

御屋形様に申し上げます。
先ほど若様が戻られたのですが・・・。

「あの子がどうかしましたか?」

それが、式神との契約が破棄された御様子でして・・・。

「式との契約が?あの子は先だって再契約したばかりではなかったのですか?
それが破棄?どう言う事ですか。」

それが状況がまったく分からないご様子でして、若様曰く突然契約が切れたとしか。

「式神側から一方的な破棄は基本的に出来ないはず、至急原因を調査しなさい。これは今後の式神使い全体に関わる問題です。」

は、畏まりました。

「古都一帯の浄化の件といい、一体何が起きていると言うのです。」

「何がもかにがも無いだろう、要はあんたらの心得違いが問題なんだろうが。」

不意に背後から聞こえる声、御屋形様と呼ばれた者は咄嗟に警戒の姿勢をとった。
「誰です、ここは余人が容易く侵入して良い場所ではないのですよ。」

「情けない事言ってる割に威勢だけは良いんだね~。まぁ、これが普通の反応、やっぱりあの子が変なんだろうね、うん。
久しいねぇ、お嬢ちゃん。」

何もなかった空間に忽然と現れた一人の女性。肩に乗せているあれは、あの子の式神、鎌鼬かまいたち

「貴女は一体何者です、この場がどう言う所か分かっているのですか?」

「あ~、この姿じゃ分からないか~。ならこれならどうだい?」

"ぐゎぐゎぐゎぐゎ"
頭部に伸びる三角の耳、背後に広がる九本の尻尾。
「我が名は葛の葉、かつて混乱と静寂をもたらしたあんたらの言う特級怪異さ。」

辺り一面に広がる濃厚な死の気配、隠れ控えていた配下は誰一人として身動き一つ出来ない。

「鎮魂の森の主、それがどうしてここに?」
必死に平静を装い問い掛けるも、冷や汗は少しも止まらない。

「いやね、古い友人も仲間たちも一様に旅立ったんで私もこの地を離れようと思ってね。私クラスの怪異が消えたら大騒ぎするだろう?だからご挨拶にね。
後はさっきの話だけど、あんたらは私達との契約を便利なおもちゃを捕まえたくらいにしか考えてないんじゃないかい?
本来契約はこちらが気に入った相手に持ちかけるもんだ。それをこんなものを使って誘惑するだなんて、呆れてものも言えないよ。」

葛の葉はこちらに向かい白い塊を投げ飛ばした。これは丸まったティッシュ?それにこの染みの色、香り、これは誘引香!
パートナーたる式神との契約に誘引香を用いたと言うの?

「分かっただろ?先の動乱で何が起きたのか知ってるだろうに。まだ初期だったから良かったものの、これがもう少し長引いてたら、この契約者も黄泉路についていたかも知れないね~。
後は自分らでよく考えることだね。」

鎮魂の森の主はそれだけを話すと忽然と姿を消した。
その場にいた者は、ただ呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。
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