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第二章 中二病には罹りません ー中学校ー

第220話 いい旅、湯め気分♨ (4)

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「着いたぞ~、湯の華温泉郷!」
両腕を高らかと上げ、全身で喜びを表現する男、新米タレントのっぺり佐々木です。
いや~、楽しかったわ電車の旅。通路向かいのおばちゃんグループからの怒涛のレディーストークに木村君メロメロ?フラフラ?あれもこれもとめちゃくちゃ餌付けされてたな~。
のっぺり佐々木、おこぼれいただいてホクホクです。現地に着く前に袋一杯のおやつって、これどうすりゃいいのさ。取り敢えず駅のコインロッカーに収納、季節が晩秋でよかったわ、本当に。

「木村君木村君、これから温泉街に行くんだけどさ、温泉って言ったら温泉饅頭だよね?」

「そうだな、俺も温泉饅頭は大好きだ。」

「でもさ、どうせだったら地元で評判のお店に行きたいじゃん?っと言う訳で聞き込み調査開始です。
そこのお姉さんちょっといいですか~?」
走り出す俺、一度こんなのやってみたかったんだよね~♪


(side:植松咲子)

「はい、どうもこんばんわ。今夜から始まりました”いい旅、湯め気分”。
現地コーディネーターの”のっぺり佐々木”です。」

佐々木君、いい味出してますね~、本当に中学生なんでしょうか?
私、植松咲子は今、佐々木君木村君と共に温泉の旅のロケに来ております。
元々現場一筋できた自分ですが、自らカメラを構えてロケに来るなんて何時ぶりでしょう?

第二回逃走王決定戦本選、あれは本当に素晴らしい番組に仕上がりました。制作スタッフも本当によくやってくれました、今思っても感謝の言葉しか浮かびません。
編成局長の横やりを力技でねじ伏せ、何とか放送に漕ぎ着けた時の達成感は、これまでの人生で一番と言ってもいいものでした。
結果的に深夜の低予算番組に飛ばされましたが、これは自らの意志を貫いた結果。
他のスタッフを巻き混むことなく事を収められたのは、僥倖と言っていいでしょうね~。
全てをやり切った感はありますんで、今は今の境遇を楽しむ事といたしましょう。
低予算だからと言って手を抜くなんてのはテレビマンとしてあり得ませんし、今一番知名度があって左遷された自分の話でも聞いてくれそうな人物、私は迷うことなくスタジオS&Bにアポイントメントを取るのでした。

代表のマザー佐々木はとても大らかに対応してくれました。
予算が少ない事、深夜時間帯の番組であることを話し、それでも”Saki”の出演をお願いできないかと誠心誠意話をしました。

「そうさね~、”Saki”がウチの息子だってのは植松さんも知っているだろう?”Saki”の仕事に関しては基本息子に一任しているんだ。
植松さんが本気で番組をやりたいってんなら直接息子に話すといい。何かうまい事考えてくれると思うよ。」

”Saki”の出演料に関しては事前に調べていました。彼はこの国ではあまり知られていませんが、ユーロッパで物凄い評価を受けた新人モデル、その出演料は今回のような低予算番組では決して出せるようなものではありません。
直接の面会を許された私は早速彼のもとを訪ね、事情を説明し何とか出演できないか交渉を行いました。
「モデル”Saki”の出演は流石にこの予算でお引き受けする事は出来ません。下手な前例はお互いを不幸にするだけですからね。」
彼の言い分は至極真っ当な物でした。とても中学生とは思えない立派な態度に、私は自分の甘えた考えが恥ずかしくなる思いでした。
「ただ・・・」
彼のその後の提案はとても意外な物でした。「モデル”Saki”は出演できないが、無名の新人タレント”のっぺり佐々木”でしたら構いませんよ。」
屁理屈のようなその言い分に、思わず苦笑いをしてしまったほど。

知名度のあるモデル”Saki”ではなく無名の新人タレント”のっぺり佐々木”の起用。いくら深夜番組だからと言ってそれでいいのか?
しかし意外なほどあっさり返事が口から零れました。テレビマンの感が告げるんです、ここは乗っておくべきだと。


「スタッフさ~ん、美味しい温泉饅頭の情報ゲットです!早速向かいますよ~。
木村君、案内お願い。」

”スパーン”
「お前が先導するんじゃないのか!」

小気味よいトーク、切れのある突込み、とても初めての旅番組とは思えない流れるような展開。こんなのベテラン芸人でも中々出来ません。

私の感は間違ってはいなかった、内から溢れる笑いが止まらない!
これは面白い番組になるのですよ~♪
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